セレスタの涙、オニキスの誓い  第三十一章


「んあッ!!アアッ!!あっ、あっアッ!!」
 ガツガツと突き入れられてハボックは胸を仰け反らせて喘ぐ。一際深く抉られると同時に内壁を熱く焼く熱に、ハボックは涙に濡れた瞳を見開いた。
(ああ……また)
 ブラッドレイは注ぎ込んだものを掻き回すように腰をグラインドさせる。そうすればグチュグチュと嫌らしい水音が響いて、ハボックが顔を歪めた。
「よく締まる。本当に少尉は中に注ぎ込まれるのが好きだ」
 ブラッドレイに耳元で囁かれてハボックの躯がビクリと震える。そそり立ったハボックの楔を握り、蜜を垂らす先端をこ捏ね回して言った。
「イイところを突かずとも中に出されただけでこんなに滴らせて、男を悦ばせるいい躯だ」
 ブラッドレイの言葉がハボックの胸を抉る。どんなに嫌だと思っても貫かれ注ぎ込まれる度悦びを感じる己の躯が、ハボックは疎ましくて堪らなかった。
(もう、嫌だ……嫌、だ)
(感じたくない)
(感じたく)
「ぅアアあッッ!!」
 そう思った瞬間ガツンと突き上げられて、背筋を突き抜ける快感にハボックは嬌声を上げる。
(もう……ヤダ)
 大きく見開いたハボックの瞳に盛り上がった涙が、瞳に宿る光を奪うように纏って零れて落ちた。


「────」
 不意に力が抜け、反応がなくなったハボックをブラッドレイは見下ろす。チッと舌打ちしてハボックの脚を大きく開き、数度奥へ突き入れると熱を吐き出す事なく強引に腰を引いた。まるでそれ自体が意志を持っているかのように絡み突いてくる熱い粘膜に逆らって、ブラッドレイは質量を保ったままの楔を引き抜く。引き抜いた楔を紗が掛かったような瞳でぼんやりと宙を見上げるハボックの唇に無理矢理ねじ込むと、乱暴に突き入れその喉奥へと熱を吐き出した。
 そんな酷い仕打ちにもハボックは反応を見せない。ズルリと楔を引き抜かれて開いた唇の端から白濁を零しながら、ピクリとも動かず宙に視線を投げるハボックを冷たく見下ろしたブラッドレイは、なにも言わずにベッドから降りた。
 ここ数日、ハボックの様子を見てきた。日中の業務は滞りなくこなしている、通常の業務も、ブラッドレイへの奉仕も。だが。
 ベッドの上では一定のラインを超えるとスイッチが切れたように全く反応を見せなくなるのだ。司令部ではなにも変わらなかったから最初は気のせいかとも思ったが、ここ数日の反応を見ればハボックの様子がおかしいのは明らかだった。きつく楔を穿ちその奥底を暴いても、白い肌に鮮やかに浮かび上がるほどの陵辱の痕を残しても、ハボックはなにも感じていないかのようにベッドに四肢を投げ出し焦点のあわない瞳で宙を見つめるだけだった。
(もう潮時か)
 ブラッドレイはシャワーを浴びながら考える。汗を流し浴室を出ると服を身につけた。
(壊れた玩具などに用はない)
 ベッドに横たわったままぼんやりと宙を見つめるハボックに見向きもせず、ブラッドレイは部屋を出ていった。


(オレ、夕べどうしたんだろう)
 ハボックは司令部の廊下を歩きながら考える。業務の後ブラッドレイに伴ってホテルに行った。だが、その後の記憶が曖昧だ。ブラッドレイに命じられてベッドに上がり躯の奥深くに男を迎え入れて、それから────?
(ゆうべだけじゃない。その前の日もここ何日かずっと)
 こんな状態でちゃんとブラッドレイの命令に答えられているのだろうか。ブラッドレイの不興を買ってその怒りがロイに向いたりしないだろうか。そんな不安を抱えてハボックはたどり着いた扉を開ける。そうすれば席を立ったエリゼがハボックの前に立ちはだかった。
「あの……」
 冷たい笑みを浮かべるエリゼをハボックは困惑したように見つめる。そうすればエリゼが手にしたファイルから取り出した紙片をハボックに差し出した。
「ハボック少尉、イーストシティに帰りなさい。大総統の命令よ」
「────え?」
「急がないと時間がないわ」
 そう言って押しつけられたイーストシティ行きの切符をハボックは握り締める。エリゼの背後の扉を見て言った。
「そんな急に……ッ、大総統はなんてっ?」
 もしかしたら恐れていた事が起きてしまったのだろうか。大総統の不興を買ったのだとしたら、ロイはどうなるのか、混乱してハボックがエリゼに詰め寄った時、奥の扉が開いた。
「──大総統」
 冷たい隻眼に飲まれたようにハボックはブラッドレイを見つめる。食い入るように見つめてくる空色を見返してブラッドレイは言った。
「イーストシティに戻りたまえ、少尉」
「大総統閣下、あのっ」
「もう十分任は果たした。これ以上必要ない」
 追い縋ろうとするハボックに冷たい一瞥を投げてそう言うとブラッドレイは出ていってしまう。その背を呆然と見送ったハボックにエリゼが言った。
「早くなさい。ホテルに荷物があるのでしょう?急がないと列車に乗り遅れるわ。大総統の気が変わらないうちに帰った方がいいのではなくて?」
「あ……」
 そう言うエリゼをハボックは見つめたが、ペコリと頭を下げると部屋を飛び出す。もの凄い勢いで廊下を走っていけば、その先にマドラスの姿を見つけてハボックは声を上げた。
「マドラス中佐っ」
「ハボック少尉?どうした?」
 また何かあったのかと身構えるマドラスの前に立つとハボックは口を開く。
「オレ、イーストシティに帰ります」
「な……、本当に?」
「はい、やっと、帰れます」
「そうか、よかったな」
 ホッとしたように言ってハボックの肩を叩くマドラスに、ハボックはほんの少し辛そうに眉を寄せた。
「元通りにはなれないっスけど、それでも」
 側にいられる、ため息のように呟かれた言葉が聞き取れず「え?」と聞き返すマドラスに、ハボックは緩く首を振る。なんでもないとハボックが答えれば、マドラスはそれ以上追求はしなかった。
「お世話になりました」
「────いや。しっかりな」
「はい、頑張ります。少しでも、役立てるように」
 失礼します、と敬礼して走り去るハボックの背を見送ってマドラスは深いため息を零す。
「よかった。結局なにもしてやれなかったが」
 可哀想なことをしたとは思うが、ブラッドレイの執着がなくなったのならきっと事態はいい方向へと向かうだろう。
 そんな考えがどれだけ甘いものか、その時のマドラスは知る由もなかった。


 ハボックが出ていくとエリゼは笑みを浮かべる。これで大総統の気紛れも終わり、再び寵愛を受けるのはこの自分だと思った時、カチャリと扉が開いてスラリと背の高い女性が入ってきた。
「荷物を纏めてすぐここから出ていってください」
「え?」
 入ってきた女性はエリゼに冷たい視線を向けて言う。
「いきなりなんなの?あなた────」
「私は本日付けで大総統付き一等秘書官として配属されたレイア秘書官です。あなたは秘書官を解任されたんです」
「なんですって……?」
 呆然とするエリゼにレイアはクスリと笑みを零した。
「大総統があの若い少尉に興味を持ったのは気紛れでしょうけど、それにしたって男に立場奪われるなんて、あなた、余程女としての魅力に欠けるのね」
「な……ッ!」
「とにかく一刻も早く荷物纏めて出ていって。私はこれから閣下のところへ行ってくるけど、私たちが戻るまでには消えてちょうだい」
 レイアは傲慢な笑みを浮かべて言い放つと部屋を出ていく。
「────キショウ……なんでよッ!!なんで私があんな女にッッ!!」
 美しい顔を醜く歪めたエリゼは、怒りのままに机の上の書類を払い落とした。


→ 第三十二章
第三十章 ←