セレスタの涙、オニキスの誓い  第二章


「大総統閣下、本日のご予定ですが」
 担当の秘書官がファイル片手に今日一日の予定を読むのを聞きながらブラッドレイは窓の外の空を見上げる。一つため息をつくと、予定を読み上げる秘書官に目を向けた。
 机を挟んで立つ秘書官は無粋な軍服を着ていても判るほどスタイルがいい。ボタンが弾けそうなほど豊かな胸や括れたウエストから張り出したヒップへの曲線を、服越しではなくよく知っている男はジロジロと無遠慮にその躯を眺めた。
「本日の会食ですが」
 ぎっしり詰まった一日の予定の最後の一つを言いかけて、秘書官の女性は口ごもるように言葉を切る。片目しかないとは思えない鋭く強い視線に、服を剥ぎ取られ全裸に剥かれているような錯覚を覚えて、女性は顔を赤らめた。
「七時からですので十分前にお車の用意を───」
「会食はキャンセルしてくれたまえ」
「え?」
「その代わりガリアホテルに予約を。レストランと───部屋もな」
 そう言われて女性の頬の赤みが増す。笑みを浮かべて「はい」と頷いた女性は、軽く一礼して執務室を出ていった。
 パタンと軽い音を立てて扉が閉まるとブラッドレイは視線を窓の外へ戻す。綺麗に晴れ渡る空を見上げて呟いた。
「退屈だ。この国には刺激がなさすぎる」
 アメストリスのトップに君臨する男は、椅子に背を預けると軍靴に包まれた足をドカリと机の上に投げ上げた。


「すんません、まだ正式に配属決まったわけでもないのに」
 ロイと二人、レストランの席でグラスを合わせてハボックが言う。乾杯とグラスの酒を一口飲んでロイが答えた。
「士官学校を卒業したお祝いをまだしていなかったからな。今日は好きなだけ飲んで食べてくれ」
 そう言ってにっこりと笑うロイにハボックも嬉しそうに笑う。運ばれてきた肉料理に早速手を伸ばすとガブリと噛みついた。
「旨いっ、大佐、これすっげぇ旨いっス」
 美味しいと満面の笑みを浮かべるのを見れば、ロイの腹の虫がグゥと声を上げる。同じように肉を口にするロイにハボックが言った。
「でも、こうしてここまで来られて、オレすっげぇ嬉しいっス」
 ハボックが満足そうに笑いながら言うのを聞いて、ロイがおいおいと苦笑する。
「ここまで来ただけで満足されたら困るんだぞ。まだスタート地点に立ったところなんだからな」
「はあ、そうっスね」
 ロイの言葉に苦笑混じりに頷いたハボックはポリポリと額を掻いて言った。
「でもやっぱこうやって実践の場に来ると周りがすげぇっていうか、こんなところでやってけるのかってちょっと不安になるっスよ」
「ハボック」
 ちょぴり自信なさそうに言うハボックを励ますようにロイは優しい笑みを浮かべる。手を伸ばしてテーブルに置かれたハボックの手をポンポンと叩いた。
「お前なら大丈夫だ。これまで通り自分の信じる通りにやればいい。私の背中を守ってくれる約束だろう?」
 そう言われてハボックは一瞬目を見開く。それからコクンと頷いた。
「そうっスよね。大佐の背中守って大佐が上目指す手伝い出来るようにこれまで頑張ってきたんスもんね」
「だろう?まだ始まったばかりだ」
 頑張ってくれよと笑うロイにハボックはフォークを手に取る。
「よし、モリモリ食べて、明日からまた頑張るっスよ」
「頼んだぞ。ほら、景気づけだ」
 言って酒を勧められ、ハボックは遠慮なしにグラスを手に取った。
「じゃあ、未来の上司殿に」
「未来の護衛官に」
 乾杯とグラスを合わせて、二人は将来の互いの姿に思いを馳せた。


 薄闇に沈んだ部屋の中、ブラッドレイはベッドに組み敷いた女性の躯を穿つ。深く突き挿れた己を大きくグラインドさせれば、女性が躯を震わせて喘いだ。
「  」
 ブラッドレイを甘ったるい声で呼んで女性が腕を伸ばしてくる。だが、逞しい躯に回そうとした彼女の腕を跳ね退けてブラッドレイは女性の躯を強引に裏に返した。
「  」
 赤い唇から悲鳴のような嬌声が上がったが、ブラッドレイは構わず丸く張りのある尻を持ち上げると容赦なく突き上げた。
 ブラッドレイはただ機械的に女の躯を穿ち乱暴に揺する。男としての生理的な高まりを迎えブルリと震えて熱い肉の塊の中へ熱を叩きつければ、女の躯が痙攣するように震えて咥えた牡をキュウキュウと締め付けたが、ブラッドレイはうんざりしたようなため息を一つついただけだった。
 ズルリと萎えた自身を引き抜くとブラッドレイは殆ど乱れの見えない服を整える。赤い唇がうっとりしたような笑みを浮かべて何か言ったが、ベッドから降りたブラッドレイは構わずコートを手に取った。
「  」
 部屋を出ていこうとするブラッドレイに女が何か言葉を口にする。だが、ブラッドレイは冷たい視線で女を一瞥すると興味を失ったように顔を背け、女をそのままに部屋を出た。
「つまらんな」
 軍内部でも美しいと評判の女性を秘書官として引き抜き手元に置いた。普通の男であれば溺れるであろう抜群のプロポーションを誇るその肢体を、組み敷き貫いて楽しめたのは最初の数回だけだった。今では彼女が甘ったるく囁く言葉は何一つ意味を成してブラッドレイに届くことはない。
「どこかに刺激的なものはないものか」
 気持ちを高揚させ興奮させるなにか。
 死にそうな程の退屈を紛らわせる何かを探して、ブラッドレイはホテルを出ると夜の闇の中に消えていった。


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