| セレスタの涙、オニキスの誓い 第百四十八章 |
| 「将軍がお待ち申し上げております」 東方司令部の正面に車を停めたハボックは、ブラッドレイの為に車の扉を開いて言う。のそりと車から姿を現したブラッドレイは、だがハボックの言葉にフンと鼻を鳴らした。 「狡猾な狸と話してもつまらんな」 「閣下」 東方司令部の司令官を勤める中将に対してそんな風に言うブラッドレイにハボックが困ったように眉を寄せる。そんなハボックの表情を見て、ブラッドレイがニヤリと笑った。 「まあ、今回は少尉の顔を立てるとしよう」 「……ありがとうございます、閣下」 顔を立てるもなにもないものだと思いながらハボックは頭を下げる。単に自分の反応を見て楽しんでいるのだと言う様子がブラッドレイの表情に見え隠れして、ハボックは唇を噛んだ。 「ご案内いたします」 それでもそう告げて、ハボックはブラッドレイを東方司令部のトップが待つ部屋へと連れていく。ブラッドレイが秘書官と共に部屋の中へ消えると、ハボックは壁に寄りかかりホッと息を吐いた。 「くそ……ッ」 相も変わらぬブラッドレイの態度に悔しさが込み上がる。それだけ自分があの最高権力者の思うままに踊らされてきたのだと思えば、ハボックは悔しくて仕方なかった。 「でももう、これまでとは違うんだから」 ハボックはそう呟いて脳裏に浮かんだ嘲るように己を見つめてくる隻眼を睨み返した。 深々とソファーに座り足を組んだブラッドレイは、ソファーの袖に肘をついた掌の上に顎を乗せて窓の外を見遣る。中将の言葉を右から左に聞き流しながら空と同じ色の瞳を持つ少尉の姿を思い浮かべた。 (マスタングに抱かれたか……どんな顔で抱かれたのやら) そう思えばかつてハボックを抱いた時の事が思い浮かぶ。心ではブラッドレイを拒みながら躯はブラッドレイによって与えられる快楽に溺れていた。愛する男の為にブラッドレイに言われるまま脚を開いて迎え入れ、躯の奥の奥までブラッドレイに穢された。そんなハボックがどんな顔でロイを受け入れ、またどんな顔でロイはハボックを抱いたのだろう。快楽に喘ぐハボックの表情の向こうにロイが自分やハボックを抱いた他の男たちの顔を見ていたらとしたらどれほど楽しいだろう。 (ふふ……やはりマスタングに会わんといかんな) ブラッドレイはにんまりと笑うと壁際に控えていた秘書官を呼び寄せる。部屋の外で待っているハボックへの命令を伝えると早く行けと手を振った。 ガチャリと扉が開く音に壁に背を預けていたハボックは慌てて姿勢を正す。予定よりは大分早いが気紛れなブラッドレイのこと、早々に切り上げてしまったのかと身構えたハボックは出てきたのが秘書官一人だと気づいて体の力を抜いた。 「この後、閣下はマスタング大佐と話をなさりたいそうです。至急マスタング大佐にお伝え下さい」 「えっ?でも……」 確かにここへ来る車の中でもロイに会いたいと言っていた。だが、ロイとてこの東方司令部で要職を務める身、急に言って時間があけられるとは思えなかった。だが、秘書官はハボックの答えなど待たずに中へ戻ってしまう。ブラッドレイが会うと言ったら嫌はないのだ。ハボックはギュッと拳を握り締めると司令室に向かって足早に歩いていった。 「あれ?ハボック?」 司令室の扉を開ければ書類から顔を上げたブレダが驚いて声を上げる。ブラッドレイがいる間はこちらへは顔を出さないと思っていたと言えば、ハボックは部屋を見回して言った。 「中尉は?」 大部屋にその姿を見つけられずに言うハボックにブレダが答えるより一瞬早く背後から声がした。 「どうかしたの?少尉」 「中尉!」 ハボックがこんな時間にここへ顔を出した事にホークアイは緊張した面持ちでハボックを見つめる。見返してくる空色にホークアイは眉を顰めた。 「大佐に会いたいと言い出したのね?」 「いるんスか?大佐」 「予定していた外出での会議が中止になったの。ついてない、というべきかしらね」 そう言って執務室を見遣るホークアイの視線を追ってハボックも扉へ目をやる。中にいるロイの姿を思い浮かべたハボックがどう伝えようかと、伝えるべきなのかと思ったその時、執務室の扉が開いた。 |
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