セレスタの涙、オニキスの誓い  第百三十三章


「ん……ん……」
 ハボックはロイのシャツにしがみつくようにして唇を合わせる。おずおずと舌を差し入れれば途端にきつく絡め取られて、ハボックはビクリと躯を震わせて身を引こうとした。
「たいさ……っ」
「ハボック」
 目元を染めて腕を突っ張るハボックをロイの低い声が呼ぶ。その声にすらビクリと躯を震わせて、ハボックは唇を噛み締めて俯いた。
「愛してる、ハボック」
「……ッ」
 俯くハボックの耳元にロイが囁く。その声にゆっくりと顔を上げるハボックを見つめてロイが優しく笑った。
「愛してるんだ、ハボック」
 誰よりも愛している。嫉妬の焔で相手をも傷つけてしまうほどに。
「お前を私にくれ」
「大佐……」
 熱く見つめてくる視線に耐えられずそっと目を閉じればロイの力強い腕にきつく抱き締められて、ハボックは降ってくる口づけを震えながら受け止めた。


 瞬く間に服を剥ぎ取られて、ハボックはベッドに押さえつけられる。圧し掛かってくるロイを見上げて、ハボックは浅い呼吸を繰り返した。
「ハボック」
 低く己の名前を囁いた声が首筋に押しつけられる。チクリとした痛みにビクリと躯を震わせて、ハボックはシーツを握り締めた。
(────こわい)
 ロイの想いを受け入れて自分自身もロイを求めて、その気持ちに嘘はない。それでもこうして身を任せようとすれば、ハボックは心の奥底に植え付けられた恐怖がじわじわと滲むように溢れてくるのを感じていた。自分を組み敷いているのがロイなのだと頭では判っている。だが、ロイの向こうに自分を冷たく見下ろす隻眼が見えて、ハボックは零れそうになる悲鳴を唇を噛み締めて必死にこらえた。
「ッ!!」
 組み敷く男の掌が肌を這い、唇がその後を辿る。ピクピクと小刻みに震える肌に痕を刻みつけた唇が胸の突起に辿りつき、淡く色づく乳首をその中に含んだ。
「アッ!」
 ねっとりと包み込んでくる粘膜の感触にハボックはビクリと震えて目を見開く。チロチロと乳首を舐める舌先に、ハボックは震える指でシーツを握り締めた。
「ん……ッ、くぅ……ッ」
 乳首を舐められる、ただそれだけの事にぞわぞわと快感が背筋を這い上る。零れそうになる声を必死にこらえハボックは足で何度もシーツを蹴った。
『ふふ……これしきの事で感じるのか?イヤラシい躯だな、少尉』
「ッッ!!」
 不意に耳元でそう囁く声が聞こえた気がしてハボックの躯が大きく震える。ヒュッと息を吸い込んでもがくハボックの様子に、ロイが胸に寄せていた顔を上げてハボックの頬に手を伸ばした。
「ハボック?」
「ッ」
 呼ぶ声にビクリと震えてハボックがゆっくりとロイを見上げる。大きく見開いた空色に怯えた色を見つけて、ロイは目を見開いた。
「ハボック」
「……ごめ……ごめんなさい」
 今自分を抱いているのはロイだと判っているのに躯の震えが止まらない。ハボックはクシャリと歪めた顔を腕で隠して言った。
「アンタが好きっス……でも怖い。どうしたらいいのか判んないっス、大佐の事、こんなに好きなのに……ッ」
「ハボック……」
 低い嗚咽を零して小刻みに震える躯をロイはそっと抱き締める。背に回した腕でハボックの躯を引き起こした。
「大佐……?」
「少し話をしようか」
 ロイは片腕を回すようにしてハボックを引き寄せると、ブランケットを二人の頭の上からふんわりとかける。ブランケットにくるまるように寄り添えば、どこか秘密めいて二人の顔に自然と笑みが浮かんだ。
「お前が士官学校に通っていた頃はよくこうして話したな」
「そうっスね……」
「夢や理想や……青臭い事も随分と言った」
「オレ、大佐と話するの、すげぇ楽しかった。大佐が追いかけてる夢をオレも一緒に追いかけたくて辛い訓練も頑張って、やっと東方司令部に行けるって決まった時は本当に嬉しくて」
「ハボック」
 懐かしい時間を思い出して幸せそうに目を細めるハボックの横顔をロイはじっと見つめる。宙に幸せな思い出を描いて笑みを浮かべていたハボックの顔が突然くしゃりと歪んだ。
「大佐と……やっと大佐と一緒に歩いて行けるって思ったのに……」
「ハボック」
 切なく呟くハボックの肩に回していた腕を引き寄せて、ロイはハボックの躯をギュッと抱き締める。ロイは金色の髪に顔を埋めるようにして言った。
「なあ、ハボック。私たちは随分と遠回りしてしまったが、今やっとまたスタートに戻ってきたんだ」
 言いながらロイはハボックの髪を優しく梳く。
「これまでのことをなしにする事は出来ないかもしれない。それでももう一度、今度は一緒に始めれば必ず乗り越えて行ける。ハボック────今度こそ私はお前と一緒にいる。二度とお前一人を苦しませたりしない」
「そんな……オレだって大佐の事、苦しめたのに」
 あの時はそれしか方法がないと選んだ道は、自分だけでなくロイをも傷つけ苦しめた。挙げ句ここまで来るのに随分と遠回りして。
「大佐、オレは────」
「もう何も言うな、ハボック。私たちはもうよく判っているんだから」
「大佐……」
 言ってロイはハボックを熱く見つめる。
「愛している、ハボック。私はずっとお前といる、もう一人で苦しまなくていいんだ」
 想いを込めて見つめてくる黒曜石にハボックは何度も唇を震わせて、そして。
「愛してます、大佐。オレの事、離さないで」
 そう告げた途端噛みつくように押しつけられた唇を受け止めて、ハボックは今度こそロイを強く抱き締めた。


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