セレスタの涙、オニキスの誓い  第百二十三章


 軽い振動と共に漸くエレベーターが最上階に着く。のろのろと開く扉に手をかけてロイは強引にエレベーターから下りた。ロイはこの階に一つしかない扉に向かって駆け寄るとノブに手をかける。嘲笑うようにガチッと拒む音を立てる扉に、ロイは顔を歪めて発火布を填めた指を打ち鳴らした。ボンッと小さな破裂音を立てて鍵が壊れるのと同時にロイは扉を引き開ける。間接照明だけに照らされた室内を見回しながら中に入ったロイは、ハボックの姿を探して視線を巡らせた。
「ハボックッ?」
 巡らせた視線の先、寝室に続く扉が目に入る。目を見開いて一瞬扉を凝視したロイは、ゆっくりと足を踏み出す。コツコツと靴音を響かせて部屋を横切り扉の前に立ったロイは、そろそろと手を伸ばしてノブを掴んだ。


 狭い肉壁をこじ開けるように押し入ってきた楔に最奥を抉られて、ハボックは頭上に拘束された手を握り締める。男に犯される悦びを教え込まれた躯が快楽を予感して期待に震えるのを押さえ込もうよするように、ハボックは爪が刺さるほど握り締めた手に力を込めた。だが、次の瞬間ガツンと突き入れられてハボックは喉を仰け反らせる。熱く熟れた内壁を巨大な牡が何度もこすれば否応なしに沸き上がる快感に、ハボックは上がりそうになる声を飲み込もうと必死に唇を噛み締めた。ブラッドレイはそんなハボックを嘲笑うように長い脚を押し開き激しく腰を打ちつける。ハボックの意志に反して己の楔に絡みつくようにうねる肉襞を楽しむように、ブラッドレイは腰をグラインドさせてハボックを犯した。やがて追い上げられたハボックが喉を仰け反らせて熱を吐き出す。きゅうきゅうと締め付けてくる蕾に答えるように、ブラッドレイは涙に濡れた空色を見つめながら最奥へ熱を叩きつけた。


 ロイは掴んだノブを回すとゆっくりと扉を押し開ける。薄暗い寝室の中、ベッドに目を向けたロイは横たわる躯にギクリと身を震わせた。それがしどけなく脚を開いてグッタリと横たわるハボックだと気づいて、ロイは目を大きく見開く。その時、奥の浴室の扉が開いて身支度を整えたブラッドレイが姿を現した。ブラッドレイはロイが呆然と立ち尽くしていることに気づいて、ニヤリと笑った。
「ここまで来て今更躯は差し出せないというのでな、奪わせてもらったよ。当然の権利として、な」
「当然の……権利、だと?」
 権利だと言い放つ男をロイは食い入るように見つめる。ブラッドレイは肩を竦めて答えた。
「私はこの国の支配者だ、当然だろう?自分を道具扱いするのは間違いだったと気づいたと今頃言われても、そんなことは私の知ったことではない。欲しいから奪う、それが私の権利だ」
「貴様……ッ」
 傲慢に言い放つアメストリスの最高権力者をロイは睨む。歯を食いしばり発火布の手を握り締めてブラッドレイを睨んだロイは、食いしばった歯の間から呻くように言った。
「よくも……よくもハボックを……ッ」
 押さえきれない怒りがロイの体から滲み出る。ロイの周りの空気がチリチリと音を立てて熱を帯びるのを見て、ブラッドレイはクツクツと笑った。
「悔しいか?マスタング。だがこれもつまらぬ貴様の妬心が招いた結果だ。ハボック少尉もこんなつまらない男についていくなどと思わなければこんな事にはならなかったろうに」
「ッ!」
 嘲笑うように言ってブラッドレイはハボックに手を伸ばす。ぐったりと横たわったハボックの双丘の狭間に伸ばした手を差し入れ、戦慄く蕾に乱暴に指を突き入れた。
「んあッ!」
「ッ!!」
 ビクッと震えたハボックの唇をついて出た悲鳴にロイの体が大きく震える。それに構わずブラッドレイは突き入れた指で蕾を掻き回した。
「ヒ……やァ……ッ」
 グチョグチョとイヤラシい水音が寝室に響きハボックが弱々しくもがく。乱暴に指を引き抜いたブラッドレイは立ち尽くすロイに近づくと、濡れた指をロイの上着になすりつけた。
「精々慰めてやりたまえ。快感に溺れていても彼は最後まで君を呼んでいたよ」
「────ッ!ブラッドレイッッ!!」
 クスクスと笑いながら毒の滴る言葉を吐くブラッドレイにロイの怒りが一気にボルテージを上げ臨界点を越える。発火布を填めた手を振りかざしたロイが指先を打ち鳴らそうとした。その時。
「──いさ……ダメ」
 空気を震わせる微かな声にロイはハッとしてベッドを見る。そうすれば空色の瞳がロイを見つめていた。
「駄目っス……たいさ……」
「ハボックッ」
 ロイは呟くように言うハボックに駆け寄ると拘束された手を解いてやる。抱き抱えるように体を起こされて、ハボックはロイの腕に縋りつくようにして言った。
「駄目……今そんな事しても何にもならない……」
「ハボックッ、しかし────ッ」
 縋りついてくる手を掴んでロイは呻く。だが、そんなロイにゆるゆると首を振ったハボックは、ロイの腕に身を預けたままブラッドレイを見た。
「権力者の権利として奪うなんて……そんなの間違ってる。そんな無茶が罷り通る世界は……絶対大佐が変えるから……首洗って待ってて下さい……っ」
「────楽しみに待っていよう」
 ハボックの言葉を無表情に聞いていたブラッドレイがニィと笑って答える。そのまま二人に背を向けると寝室を出ていった。少しして部屋の扉を開ける音がしてブラッドレイの気配が消える同時に、ハボックの体がグラリと傾いだ。


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