セレスタの涙、オニキスの誓い  第百二十章


「サー、オレは」
「さあ、どうした、マスタングを護るのだろう?私を楽しませてくれ、少尉」
 酷薄な光をたたえる隻眼をハボックは息を飲んで見つめる。身を強張らせてブラッドレイを見つめていたハボックは一度目を閉じ、それからゆっくりと開いて言った。
「お断りします」
 きっぱりと言う言葉を聞いて、ブラッドレイが隻眼を見開く。信じられないと言いたげなその表情を見て、ハボックは繰り返した。
「お断りします、サー」
「────マスタングを護るのはやめたのかね?」
「やめません。でも、こんな形で護るのはやめます」
 そう言うハボックをブラッドレイは問いかけるように見る。ハボックは間近から見つめる隻眼を真っ直ぐに見つめ返して続けた。
「オレは間違ってたっス。オレは道具になんてなっちゃいけなかった。大佐が望んでるのは道具なんかじゃない、血の通った一人の人間だったんス。オレだけじゃない、大佐の周りにいる人全部、中尉もブレダもみんなみんな一人の人間として大佐を護って支えてるのに、それなのにオレは」
 ハボックは後悔の滲む声で言ってキュッと唇を噛む。緩く首を振って言った。
「もっと早く気づいていたら……あの時だってオレは貴方に体を差し出すべきじゃなかった。大佐を護りたいと思うなら、絶対にあんな事すべきじゃなかったんだ。今になってやっと気づいたっス」
「それで?気づいたからと言ってどうするつもりだ?君が体を差し出さなければマスタングの身が危うくなるぞ?」
 低く、そう尋ねるブラッドレイにハボックは答える。
「護ります。命がけで護ってみせます。大佐に危害なんて加えさせたりしない。あの人を引きずりおろすというならオレがあなたをそこから引きずりおろしてやる!」
 きっぱりとそう言う若い尉官をブラッドレイはじっと見つめる。強い光をたたえて見つめてくる空色を見つめていたブラッドレイの喉がクッと鳴ったと思うと、ブラッドレイの唇からクツクツと笑い声が零れた。
「なるほど、それは素晴らしい決意だ。では、私に体は差し出せないというのだな?」
「そうです。あなたが大佐に害を与えようとするなら戦うまでです、サー」
 きっぱりと言い切ってハボックはブラッドレイの手を振り払う。だが、腕を掴んだ手が弛んだと思った次の瞬間、ブラッドレイがハボックを背後から羽交い締めにするようにして腕で首を絞めた。
「な……っ?!」
「素晴らしい決意だよ、少尉。それを聞いたらマスタングは涙を流して喜ぶだろうな。だが、君は一つ忘れている────差し出せないと言うなら奪うまでだ。権力者の権利として、な」
 耳元で囁きながらブラッドレイは絞める腕に力を込めていく。ハボックは何とか首に回された腕を振り解こうとしてもがいた。
「離せ……ッ、くァ……ッ!」
 振り解こうとしてもがけばもがくほど腕が喉に食い込んでくる。目の前がチカチカとしてハボックは弱々しく床を蹴った。
「く……は……大……」
 行くなと引き留めようとしたロイの黒曜石が脳裏に浮かぶ。震える手をその黒曜石に向かって伸ばしたのを最後に、ハボックの意識は闇に飲み込まれていった。


 伸ばした手が力を失いハボックがその長身をぐったりと預けてくる。ハボックが気を失ったのを見て、ブラッドレイは喉を締め付けていた腕の力を抜いた。
「残念だが気づくのが少し遅かったな、少尉」
 ブラッドレイは意識のないハボックに向かってそう囁くとその体を抱き上げる。続きになっている寝室の扉を開けて、ブラッドレイはベッドの上にハボックをおろした。
「ふふ……また楽しませて貰えそうだ」
 ブラッドレイは愉しげに言ってハボックの上着を脱がせる。部屋に置かれたバスローブの腰紐を手に取り、ハボックの両手首を縛るとベッドヘッドに結びつけた。それから軍靴とボトムを剥ぎ取り寝室の隅に放り投げる。ブラッドレイは上着とシャツを脱ぎ捨て逞しい上半身を晒すと、ベッドにギシリと膝をかけた。
「さあ、楽しい夜を過ごそうか、ハボック少尉」
 クスクスと楽しげに笑って、ブラッドレイはハボックに圧し掛かっていった。


「う……」
 肌を弄る感触にハボックは眉を顰める。ゆっくりと目を開けたハボックは己に圧し掛かる男の影にギクリと身を強張らせた。
「な……ッ?!」
「ああ、漸く目が覚めたか。よかった、気を失ったままではお互い楽しめないからな」
 そう言って見下ろしてくる隻眼をハボックは目を見開いて見上げる。跳ね起きようとしてハボックは、両腕を頭上に拘束されていることに気づいた。
「あっ!解いてッ!解いてくださいッ!」
 ハボックは叫んで縛られた腕を闇雲に引っ張る。だが、そうすれば解けるどころか逆にきつく締まって、ハボックは痛みに顔を歪めた。
「やめてくださいッ!オレは取引なんてしないって言ったはずですッ!」
「取引?これは取引などではないよ、少尉。私が奪いたいから奪う。それだけのことだ」
「な……ッ?やっ、やだッ!触るなッ!」
 ゾロリとTシャツ越し脇腹を撫でられて、ハボックはゾッと震えて叫ぶ。ブラッドレイはTシャツの襟首に手をかけると一気に引き裂いた。そうして現れた素肌を掌で撫でる。這い回る男の手に、ハボックは顔をひきつらせてもがいた。
「やッ!」
「ふむ……随分鍛え直したようだな。なかなかいい躯だ」
 ブラッドレイはそう言いながらハボックの躯を撫で回す。撫でていた手を胸に滑らせるとその頂をキュッと摘んだ。
「アッ!」
 ビクッと震えて喉を仰け反らせるハボックの乳首を、ブラッドレイは指先で摘んで引っ張ったり押し潰したりする。そのたびにビクビクと震えるハボックに、ブラッドレイはクスクスと笑って言った。
「初めて抱いた時は胸を弄っても痛がるばかりだったが、そのうちここだけでもイけるようになったのだったな。どれ、まずはここでイくといい」
「ヒ……ッ、い、やあッ!」
 言うなり胸にむしゃぶりついてくるブラッドレイにハボックが悲鳴を上げる。歯で扱くように噛みつかれきつく吸いつかれ舌先でチロチロと舐められて、ハボックは沸き上がる快感にふるふると首を振った。
「嫌、だッ、やめてッ!」
「嘘はいけないな、少尉。もうこんなにしてるではないか」
 ハボックの乳首を指と唇で嬲りながらブラッドレイは楽しそうに言う。緩く立ち上がり始めたハボックの楔を膝でグリグリと押し潰して言った。
「イイんだろう?素直になりたまえ────昔のようにな」
「ひィんッ!」
 言うなり乳首を抓られて、ハボックは胸を仰け反らせて悲鳴を上げる。悲鳴というには甘く濡れたその声にブラッドレイは、容赦なく乳首を捏ね押し潰しきつく吸いつき噛みついた。
「ヒ……ヒャアアッッ!!」
 ハボックの唇から嬌声が迸り躯が大きく震える。大きく仰け反った躯が一瞬硬直したと思うと、がっくりとベッドに沈み込んだ。
「ハアッ……ア……ッ」
「悦かったようだな、少尉」
 ククと低く笑ってブラッドレイが言う。まだ身につけたままだったボクサーパンツに手をかけるとグイと引き下ろした。
「すまんな、脱がせるのを忘れていたからグチョグチョになってしまった」
「あ……ああ……」
 ブラッドレイは言って精液に塗れた下着をハボックの鼻先に押しつける。胸への愛撫だけで達してしまった羞恥に身を震わせるハボックの頬に下着を汚す精液をなすりつけて言った。
「相変わらず感度のいい躯だ。久しぶりにたっぷり楽しませて貰おう」
「……ッ、やだ……ッ、嫌だッ」
 ポロポロと涙を零し必死に首を振って拒絶するハボックに、ブラッドレイは低く笑って圧し掛かっていった。


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