| セレスタの涙、オニキスの誓い 第百五章 |
| 「ん……んんっ」 掠れたハボックの声と男達の荒い息遣いが狭い個室を満たしていく。リンチは突然セックスをしようなどと誘いをかけてきたハボックと、誘いに乗ってハボックに手を出した友人達を呆然として見つめた。 リンチがハボックに声をかけたのは単なる偶然だった。久しぶりに士官学校時代の仲間と飲みに行く事になり、店に向かってぶらぶらと歩いていたらハボックの姿を見つけたのだ。雑踏の中に立ち尽くしたハボックは酷く顔色が悪く途方に暮れているようにも見え、なんとなくそのままにしておけず声をかけてしまった。半ば強引に連れてきてしまったが、まさかこんな展開になるとは。 (コイツ、こんな奴だったのか?) 正直、ハボックの事をよく知っている訳ではない。途中から訓練に参加してきたハボックは病気で長期療養中だったとかで、黙々と訓練を続けるだけでリンチ達新兵と打ち解ける事もなかった。最初の内は病み上がりで調子が出なかったのか大した事のない奴と思えたが、最近は随分と調子を上げてきていた。特に射撃の腕は相当のもので、考えを改めなければと思い始めていたところのハボックのこの行動に、リンチとしては正直面食らっていた。 (どっちかっていうと真面目にクソがつくくらいかと思ってたんだが) 黙々と訓練に励む様はどこか必死さが滲んでいて、それがハボックとリンチ達新兵との間に一線を画していたとも言える。思いもしない行動を取るハボックを見つめていたリンチは、その表情に僅かに目を見開いた。 (コイツ……) 男達を誘っていながら愛撫を受けるその表情は快楽を感じているというにはほど遠い。むしろ苦痛に歪んでいるように見えるとリンチが思った時、喉を仰け反らせたハボックの唇が大きく開いた。 「────ッッ」 上がりかけた悲鳴をハボックが必死に飲み込む。見開く涙に濡れた空色の瞳と震える体がハボックが感じている恐怖を伝えるのを見て、リンチは乱暴な仕草で立ち上がるとハボックに圧し掛かる男の肩を掴んだ。 「やめろ」 「ッ?なんだよ、リンチ、邪魔すんなっ。お前もヤりたいならちょっと待てよ」 「そうじゃない、やめろって言ってんだ」 ハボックをヤりたくて手を出してきたのかと思ったらしい友人に、リンチは強く言ってその体をハボックから引き剥がす。明らかにハボックとのセックスをやめさせようとしていると気づいて、ハボックに手を出していた他の男がリンチを睨んだ。 「リンチ、邪魔すんじゃねぇよ。コイツから誘ってきたんんだ、回したって構わねぇだろうが」 「コイツ、酒癖悪いんだよ。酔うと誰彼構わず誘うんだ。酔いが覚めて真っ青ってのがしょっちゅうでさ。悪い、勘弁してやってくれ」 リンチが言えばその気になっていた男達が不満の声を上げる。だが、リンチはそれに構わずハボックをテーブルから引き起こし、剥ぎ取られたボトムを押しつけた。 「ほら、とっとと着ろ!ったく、その酒癖悪いの、何とかしろよな!」 「────」 そう言うリンチをハボックは目を見開いて見つめる。凍り付いたように動かないハボックに、リンチは舌打ちしてハボックの手から下着とボトムを取り上げた。 「ガキかよ、手間のかかる奴だな!ああ、酔ってて動けないのか?ホント酒癖悪いよな、お前は!」 リンチはわざとらしく大声で言いながらハボックの身支度を整えてやる。ポケットから数枚の紙幣を取り出しテーブルに置いた。 「悪いな、コイツ家に送ってくるわ。またな」 そう言えばそれ以上は深追いせず「仕方ねぇな」と返してくれる友人達に軽く手を振って、リンチはハボックの腕を掴んで店を出る。ハボックは早足で歩いていくリンチに引っ張られて、転びそうになりながら手を振り払おうとした。 「離せよっ、────なんでっ?なんで邪魔するんだッ!折角楽しもうとしてんだから邪魔すんなッ!」 掴まれた腕を振り払おうともがくハボックに、リンチは足を止めて振り返る。ギロリとハボックを睨んでリンチは言った。 「なんで?楽しもうとしてる奴があんな辛そうな顔すんのか?なに考えてんのか知らねぇけど、人の友人巻き込むんじゃねぇよ」 「ッッ」 低い声できっぱりと言われて、ハボックは息を飲む。目を見開き浅い呼吸を繰り返すハボックに、リンチはため息をついた。 「なんでだよ。お前、本当はあんな事したくなかったんだろう?一体なんだってあんな事」 ため息混じりに尋ねられ、ハボックは唇を噛み締める。ギュッと手を握り締め、ハボックは答えた。 「勝手に決めつけんな。オレはヤりたかったんだよっ、本当に、オレは────」 「ハボック」 ヤりたいと主張すればするほどハボックの顔が泣きそうに歪み、掴んだ腕が小刻みに震える。そんなハボックを見て、リンチは大きなため息をついた。 「あのな、本当にヤりたい奴がそんな顔するか?こんなに震えて泣きそうな顔するのか?」 「ッ、でも、オレはっっ!乗り越えなきゃいけないんだッ!こんなの、押さえ込んで先に進まなきゃ!こんなとこで立ち止まってる時間、ないんだからッッ!!」 「ハボック」 泣き出しそうに顔を歪めて声を張り上げるハボックを、リンチは驚いて見つめる。ハボックは腕を掴むリンチの手を振り解いて言った。 「邪魔すんなッ!早く……早くしなきゃ……ッ」 「待てよ、ハボック!」 悲鳴のような声で叫んで走りだそうとするハボックの手首をリンチは掴む。グイと引き寄せたハボックにリンチが口を開くより早く。 「貴様ッ、なにをしているッ?!」 背後から聞こえた声に、リンチは驚いて振り向いた。 |
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