my sweet assassin  第三章
 
 
「開校記念の式典か。どうしてそんなものに私が出なくてはならないんだ」
「軍に関係のある施設ですから」
ロイが不満そうに言えばホークアイが澄ました顔で返す。その言葉にムッとしたロイには構わずホークアイは言った。
「警備は万全を期すつもりですがくれぐれも注意なさってください」
「判っている」
ロイはムスッとしてそう答えると窓の外の空を見上げたのだった。

「このこと、司令部の連中はどこまで知ってんのかね…」
男は届いた資料を見ながらそう呟く。マスタング大佐を暗殺するのに一番早い機会だと、そう言って届けられたそれに目を通してしまうと、男はくしゃりとそれを握りつぶした。
「計画上の警備と実際の警備体制と…知らなきゃ簡単に蜂の巣だ」
完璧な警備体制がしかれていたのでは暗殺する方もおいそれと手出し出来ない。だが内部に通じる者がいるのならそれなりに手回ししてやれば目的を果たすのは数段楽になる。
「さて、どうするかな」
男はそう独りごつと階段を下りていった。

「大佐ってのはそんなものにも出なきゃならないんスか?大変っスね」
ハボックはグラスを磨きながら言う。カウンターのスツールに腰掛けたロイは不満そうに唇を突き出すと唸った。
「全く、七面倒だったらない」
「ま、士官学校生もアンタが来てくれればやる気起こしてますます勉学に励むんじゃないっスか?」
慰めるようにそう言うハボックをロイは睨みあげる。
「お前が士官学校生だった頃もあったろう?そういうの。励みになったか?」
「………ならなかったっスね」
「ほらみろ」
苦虫を噛み潰したような顔をするロイにハボックは笑った。
「でも、オレの時はアンタ、来なかったっスから。アンタが来ればオレだってきっとやる気起こしたっスよ」
「こんなところでカクテルなんて作ってないで軍人になったか?だったら残念なことをしたな」
ニヤリと笑うロイにハボックが眉を垂れる。
「意外と意地悪っスね、アンタ」
ハボックはそう言いながらグラスをラックに戻した。それから店の奥へと入っていく。
「ちょっと食材とって来ます」
肩越しに言ったハボックの姿が扉の向こうに消えた時、店の電話がリンと鳴った。
「おい、電話だぞ」
「すんません、ちょっと出て下さい!」
奥のハボックへ声をかければそんな返事が返ってくる。
「客だぞ、私は…」
ロイはムゥと頬を膨らませてそう呟くと早く出ろと急かす電話に手を伸ばした。
「もしもし?」
店の電話でこの答えはどうかとも思ったが、そもそも自分は店の者ではないのだから知ったことか、とロイはそう言って耳を澄ます。だが、電話の相手はなかなか答えず、ロイは眉間に皺を寄せた。
「もしもし?」
もう一度、苛々とした調子を隠さずにそう言う。切れてしまったのかとも思ったが、微かな雑音は電話が切れていないことを告げている。それでも気の短いロイが我慢出来ずに切ってしまおうとした時、受話器から低い男の声がした。
『マスタング大佐?』
そう問いかける声にロイは目を瞠るとギュッと受話器を握り締める。あたりに目を配りながら答えた。
「だれだ?」
バーには小さな窓が一つあるきりだ。外からロイが電話に出たことが判るとは思えない。ロイは店の中にいる客を一渡り見渡したが、誰も怪しい素振りをしている者は見当たらなかった。
『マスタング大佐、アンタにひとついい事を教えてやるよ』
ロイが声の主を探そうとあたりを探っていることを気付いたか気付かないのか、低い男の声が言う。ロイはとりあえず電話の声に意識を集中させると問い返した。
「いい事?」
『そ。アンタ、明日の士官学校の式典に出るんだろう?』
男はロイの返事を待つようにちょっと間を開けたがロイが何も言わないのでそのまま続けた。
『警備体制、ちゃんとチェックした方がいいぜ?でないと蜂の巣になっちゃうよ?』
「どういうことだ?」
『死にたくなければ自分の目と耳で確かめた方がいいってことさ』
「お前誰だ?どうしてそんな事を?!」
ロイがそう尋ねれば電話から楽しそうな笑い声が聞こえる。
『美人には長生きして欲しいからね』
男はそう言うと、じゃあ、と電話を切ってしまった。
「あっ、おいっ!」
ロイは握り締めた受話器に向かって怒鳴ったが、電話は空しく発信音を響かせる。チッと舌を鳴らしてロイが叩きつけるように受話器を置いた時、ハボックが奥から出てきた。
「電話、誰からでした?」
そう尋ねるハボックに、だがロイは何も答えず考え込むように目を細める。ガタリとスツールから下りると言った。
「司令部に戻る」
「えっ?でも、まだ護衛、来てないでしょ?」
四六時中見張られるのを嫌がるロイの意向で、ここに来る時だけは護衛が外れ時間になると迎えに来るようになっていた。
ハボックが言ったがロイはさっさとドアに向かって歩き出してしまう。
「大した距離じゃない。一人で大丈夫だ」
「ちょ……、待って!大佐っ!」
ハボックはそう言うと慌ててロイの後を追った。入口を出る前にロイの腕を掴むと言う。
「オレが送りますよ。いないよりはマシでしょ」
「店はどうするんだ、営業中だろうが」
「少しくらい平気っス」
ハボックはそう言うとロイより先に店の外へと出た。サッとあたりに注意を払う仕草にロイは目を細める。
「慣れたもんだな」
「昔取った杵柄っスよ」
ニッと笑ってハボックはロイを促した。ロイは何か言いたげにハボックを見たが肩を竦めて歩き出す。半歩遅れてハボックも歩き出し、そうして二人は司令部へと向かったのだった。

司令部につくとロイはホークアイとブレダを呼び出す。何事かと急いでやってきた二人にロイは言った。
「明日の警備体制について関係部署と連絡をとれ。どうなっているかもう一度確認を」
突然そんな事を言い出したロイにホークアイとブレダは顔を見合わせる。それでも理由は聞かずに手分けして確認作業を始めた。ロイはとりあえず二人に任せてしまうと司令室までついてきたハボックの顔を見る。その空色の瞳をじっと見つめると聞いた。
「店の電話を知っているのは誰だ?」
「店の電話っスか?営業用の電話っスからそれこそ誰だって知ろうと思えば出来ますよ。さっきの電話、誰からだったんスか?」
そう問い返すハボックにロイは眉を顰める。
「判らない。ただ、死にたくないなら明日の警備体制を確認しろと言ってきた」
「警備体制を?何故です?」
「さあな、ただチェックしないと蜂の巣だと…」
ロイがそう答えた時、ホークアイとブレダがバタバタと戻ってきた。
「大佐、明日の警備ですが、大幅に人数が減らされてます。3割方ほども」
「理由を聞いたらマスタング大佐からの指示だと。焔の錬金術師の自分にはそんなに厳しい警備は必要ないと言われたと言ってます」
二人の説明にロイとハボックは顔を見合わせる。
「警備が手薄なら狙う方も楽っスね」
「それで蜂の巣か」
ロイはそう言うと唇を噛み締めた。
「とにかく、すぐに元に戻すよう手配します」
ホークアイはそう言って執務室を出て行く。
「ふざけやがって」
名前を告げずに通報してきた協力者に向けてか、それとも軍部内の反対勢力に向けてか、そのどちらへともとれる言葉をロイは呻くように吐き出したのだった。
 
 
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