| my sweet assassin 第二章 |
| 「心当たりはあるんスか?」 「あり過ぎて誰だか判らんな」 ムスッとしてそう答えるロイにハボックは笑う。酔いと興奮で頬を染めているロイを目を細めて見つめると言った。 「護衛を呼び戻した方がいいでしょうね。それとも司令部に連絡入れるっスか?」 そう言うハボックをロイは驚いたように見つめる。ハボックは苦笑して言った。 「ロイ・マスタングと言ったら知らない人はこのイーストシティにいないっしょ?もっともこんな美人とはオレも知らなかったっスけど」 「美人とはなんだ、美人とはっ!」 ムキになって言うロイにハボックは笑いながら言う。 「要人が夜中に一人でウロウロしちゃダメっスよ」 「仕方ないだろう。いつもいつも護衛つきじゃいい加減息がつまる」 不服そうにロイが言えばハボックは電話を指差す。 「とりあえず司令部に連絡いれたほうがいいっスよ。心配してるでしょ?それと一つ提案」 そう言うハボックにロイは尋ねる視線を向ける。ハボックはにっこりと笑うと言った。 「アンタの副官に迎えに来てもらって下さい。で、この店を見てもらって。自慢じゃないけどここは身元のしっかりした人しか入れないし、ここでならアンタ一人でいても大丈夫っスよ。そういうことで手を打ってもらったらどうっスか?」 アンタが嫌じゃないならっスけど、と付け足すハボックをロイはじっと見つめる。 「私とお前はほんの数分前に出会ったばかりでお前がどういう人物かも私には判らんが」 疑わしそうにそうロイが言えばハボックはクスクスと笑った。 「あはは、そう来たか。やっぱ美人を誘惑するのはオレには無理かな」 「誘惑…っ?!」 ギョッとして目を剥くロイにハボックは言う。 「ひと目ぼれっつったら信じます?出来ればまた会いたいなって」 ニコニコと笑うハボックをロイはマジマジと見つめた。暫く何も言わずにハボックを見つめていたがニヤリと笑うと言った。 「まあいい。とにかく中尉に来てもらおう。この先またここへ来るかはそのとき次第だ」 「ご贔屓にお願いしますよ」 ハボックはそう言って一つウィンクした。 「護衛を撒くなんてどういうことですか、大佐」 店に来た途端目を吊り上げて言う副官にロイはたじたじと身を引く。お小言を食らうロイをハボックは楽しそうに見つめていたがやがて言った。 「もうそろそろその辺にしてあげたらどうっスか?とりあえず何事もなかったんですし」 「何かあってからでは困ります」 ホークアイはピシリとそう言うとロイを促して立ち上がる。 「大佐を助けてくださったことには礼を言います。いずれきちんとした謝礼を――」 「そんなものいりませんからその人をここに遊びに来させてあげて下さいよ」 そう言うハボックをホークアイは無表情に見つめた。ハボックは笑みを浮かべて言う。 「勿論、オレの身元やらなにやら存分に調べてからでいいっスけど」 「――考えておきます」 ホークアイはそう答えるとロイと一緒に店を後にしたのだった。 「えっ、ハボックの店に行ったんですか?」 「知ってるのか、少尉」 思いがけないブレダの言葉にロイは目を瞠る。ブレダはボリボリと頭をかきながら答えた。 「ええまあ…。実は士官学校の同期なんですよ」 「士官学校の同期?どうして士官学校出たヤツがバーなんてやってるんだ?どこか体でも悪いのか?」 益々驚いてそう尋ねるロイにブレダは首を捻りながら言う。 「いや、どこも悪くない筈ですよ。結構実践向きなヤツで教官達も期待してたんですけど、いきなり“軍人はやめる”って。そりゃもう教官も同期の連中もビックリだったんですけど、当の本人はどこ吹く風で…」 バーをやってると知ったのはわりと最近なのだとブレダは言う。 「ある時ばったりあったらバーやってるって。すげぇたまげましたよ。まぁ、学生時代からちょこちょこ料理したりしてましたから、軍人にならなきゃコックだなんて冗談まじりに言ってましたけどね」 ブレダの話を聞いてロイは低く唸った。 「それで身元のはっきりしたのしか入れないとか言ってたのか」 軍にかかわり合いのある人間がやっている店なら確かに安全は安全だろう。ロイはフムと頷くと背もたれに体を預けて腕を組んだのだった。 「いらっしゃい、来てくれると思ってたっスよ」 ロイが店の扉を開けて中に入ればカウンターの中からそう声がかかる。悪戯っぽく笑う空色の瞳にロイは眉をひそめた。 「ブレダ少尉の知り合いだったなんて一言も言ってなかったな」 「どうせすぐ判ると思いましたし」 ハボックはまるで悪びれた様子もなくそう言う。ロイはムゥと唇を尖らせるとカウンターのスツールに腰をかけた。 「それにあとからわかった方がきっとすぐにも来てくれると思いましたしね」 そう言いながらハボックは背後の棚からいくつかボトルを取り出すとカクテルを造り始める。慣れた手つきであっという間に仕上げてしまうとロイの前にグラスを差し出した。 「もう一度会えた記念に」 ハボックは言ってにっこりと笑う。 「来てもらえて嬉しいっス」 カウンターにもたれるようにしてロイに顔を近づけそう囁く男をロイは睨みつけた。 「いつもそうやって女性客を口説いてるのか?」 「まさか」 ハボックは笑みを深くするとロイの瞳を覗き込む。 「アンタだけっス。一目惚れだって言いませんでしたっけ?」 「覚えがないな」 「うわ、ひでぇ」 ハボックは酷く傷ついたような顔をするとカウンターから身を起こした。 「あんまりっス。本気なのに」 「私は男だぞ。それともお前はそっちの趣味の人間なのか?」 ほんの僅か嫌悪の覗く口調にハボックは苦笑する。 「いや、ボイン大スキっスよ」 「だったら――」 「でも、アンタは別。一目惚れに男も女も関係ないっしょ?」 薄っすらと笑う空色の瞳をロイは胡散臭げに見つめた。だがその瞳からは言っている言葉が本当なのか嘘なのか、読み取る事は出来ず、ロイはひとつ息を吐くと別のことを聞く。 「士官学校にいたんだろう?それなりに腕も立つと聞いた。それなのにどうしてバーなんてやってるんだ?」 一見してどこか具合が悪いとか体を痛めているとかそう言った様子も見られない。すらりと背が高く綺麗に鍛え上げられた体はむしろ軍人に向いていると見えて、ロイは不思議そうにそう尋ねた。 「まぁ、色々とね。オレには組織に入って誰かの下につくなんて出来そうにないし」 「そうか?多少はみ出ているヤツはいるがそれでも軍に入ってしまえばそれなりにやっているもんだぞ」 私だってその一人だ、と言うロイをハボックは目を丸くしてみつめ、それからクスクスと笑う。 「国家錬金術師で大佐にまでなってる人がよく言うっス」 ひとしきり笑った後、ハボックはグラスを拭きながら言った。 「ようするにオレには軍人よりもコックの方が向いてたって事っスよ。学生時代から料理やってたってブレダから聞いたんでしょ?」 「ああ、それは聞いたが」 「じゃあ、そういうことっス」 そう言って薄っすらと笑う男の真意は彼が燻らす煙草の煙の向こうだと、ロイは思ったのだった。 |
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