| my sweet assassin 第一章 |
| 『ターゲットはアメストリス国軍ロイ・マスタング大佐。焔の錬金術師だ』 電話から聞こえてくる声に金髪の男は封筒の中から写真を取り出す。その写真を見ると眉を跳ね上げた。 「その依頼、本気なんスか?だって大佐ってことはアンタらの身内っしょ?」 不思議そうに尋ねれば受話器から憎々しげな声が聞こえる。 「あの若造、多少腕に覚えがあるんだか何だか知らんが目障りなんだ。これ以上余計な事に首を突っ込んでくる前に始末して欲しいのだ」 そう言う男に金髪の男は肩を竦めると写真を封筒に戻した。 (まあ、別にオレはこんなヤツの思惑なんてどうでもいいんだけどさ) 心の中でそう考えながら金髪の男は電話の相手に言う。 「アンタにそうまで言わせるなんて、そのマスタングって大佐はよっぽどのことをしたんスね」 そう言えば相手は頼みもしないのにべらべらとマスタングとの確執を話し出す。金髪の男は相手から見えないのをいいことにウンザリとした顔をして受話器をテーブルに置いた。ガアガアと喚く声を微かに聞きながら男は窓辺へと歩み寄る。そうして窓から見える空を見上げたのだった。 「大佐ッ」 「大佐!」 「ああ、大事無い。大声を出すな」 ロイが司令室の扉を開けた途端、部下達から安堵の声が上がる。発火布を嵌めた手を上げるとロイは何でもないのだと言うように笑って見せた。そのまま執務室へと入ればブレダ達がぞろぞろと後についてくる。内心一人になりたいと思いながらロイは椅子に腰を下ろした。 「全く、どうしてこう不届き者が絶えないんだか」 ブレダがそう眉を顰めて言えばファルマンとフュリーも頷く。ロイはそんな彼らを安心させるように言った。 「なに、どれも雑魚ばかりだ。心配することもないさ」 「でも、休まる時がありません」 ロイの言葉にホークアイがコーヒーを差し出しながら言う。 「せめて大元を突き止められればよいのですけど」 「軍部内ということは確かなんでしょうが、それだけに迂闊には追求出来ませんしね」 ブレダが言えばロイはコーヒーを口にしながら答えた。 「趣味ではないが当分は相手の出方を見て対応するしかないだろう」 そう言うとフュリーが露骨に心配そうな顔をする。 「心配しなくともそう簡単にやられはしないさ」 苦笑してそう言うロイに部下達もとりあえず頷くしかなかった。 若くして頭角を現したロイは軍部の重鎮たちからは煙たがられる存在だった。その為、実力でロイの存在を排除しようとする者も後を絶たず、おかげでロイは四六時中護衛を貼り付けられることとなり、正直ウンザリしていた。 (まったくゆっくりデートも出来やしない) ロイはそう独りごつと背後に感じる護衛の気配に眉を顰める。本音を言えば発火布を手にした自分が彼らの手を借りねばわが身を守れないなどとは思えないのだが、ホークアイは「弾除けくらいにはなる」と護衛をつける事を譲らなかった。 その日も仕事を済ませて一度家に帰ったロイは息抜きにと夜の街へと出ていた。だが、家を出た途端ついてくる気配にロイは眉を顰める。 (これじゃ息抜きにならないじゃないか) ロイはムゥと唇を突き出して思った。もう何ヶ月もこの調子でストレスも極まれりだ。ロイは暫くの間護衛がついてくるに任せて歩いていたが、突然細い路地へと飛び込む。 「なっ……、マスタング大佐ッ?!」 驚いて追いかけてくる護衛の足音を聞きながらロイは路地を走り抜ける。塀を飛び越え店の裏戸から中へ飛び込むと賑わう店内を駆け抜けた。 「失礼ッ」 悲鳴を上げる客たちにそう叫ぶとロイは店の入口から飛び出る。そのままの勢いで人ごみを縫って走っていけばいつしか護衛の足音は聞こえなくなった。 「やれやれ」 ロイはそう呟くと歩調を緩める。うーんと伸びをすると呟いた。 「たまには一人にならないとやってられん…」 下手をすればトイレにまでついてきそうな勢いなのだ。ロイは身の安全より心の安寧を求めて夜の街をのんびりと歩きだしたのだった。 久しぶりに一人を満喫したロイは酔いに火照った頬を夜風に吹かれて歩く。バーでは美しい女性と酒を酌み交わしながら会話を楽しんだりして、ロイは充実したひと時に満足げな息を零した。 「やはりこうでなくては息抜きとは言えんな」 ロイが楽しそうにそう呟いた時。正面からカッとライトがロイを照らす。 「…ッ?!」 腕を上げて光を遮りながらロイが正面を見据えると突然車がエンジンをふかして突っ込んできた。 「ッッ!!」 狭い路地で回りの家々への影響を考えれば発火布を使うことも出来ない。ロイは咄嗟に踵を返すと今来た道を全速力で駆け戻った。 「クソッッ!!」 だが、いくらも行かないうちに車がすぐ背後に迫る。多少の被害には目を瞑って発火布を使うしかないとロイが思った時、道沿いの家からヌッと伸びてきた手がロイの腕を掴んだ。 「えっ?!」 ギョッとしたロイが抵抗する間もなく、家の中に引きずり込まれる。ロイの体が扉の中に入った数瞬後、車が凄い勢いで路地を走り抜けた。 「こっちへ」 その声にロイが視線を向ければ夜の闇の中でも鮮やかな金髪が見て取れる。 「早く」 ロイは一瞬迷ったが、すぐ男の後を追って走り出した。家の反対側から外へと出ると路地を抜け大通りへと出る。そこまでくると歩調を緩めて男は暫く行くと小さな店の中へと入っていった。ロイも背後を振り向くと男の後について店の中へと入る。そこはこじんまりとしていたが趣味のよいバーだった。 「ここ、オレの店なんスよ。いくらなんでもここまで追っては来ないっしょ」 男はそう言って笑うとロイに椅子を進める。誰もいない店内にロイは言った。 「失礼だが客がいないようだが」 そう言えば男は苦笑して答える。 「そりゃ定休日っスから」 男はそう言うとグラスを取り出し冷蔵庫の中からミネラルウォーターを出して注ぎいれる。ロイの前に置くと言った。 「どうぞ。変なものは入ってないっスから」 言って笑う瞳が綺麗な空色である事にロイは初めて気付く。それから用心深くその瞳を見返しながら言った。 「お前は誰だ?何故私を助けた?」 きつく睨みつけてくる黒曜石の瞳に男は驚いたように目を見開く。それからちょっと首を傾げると言った。 「スゲェ音が聞こえたから外を覗いたらアンタが血相変えて走ってくるのが見えたから。迷惑だったっスかね?」 そう言われてロイはムッと眉間に皺を寄せる。確かにあそこで男が家の中に引き入れてくれなかったらはねられていたかもしれない。男は不機嫌そうなロイに苦笑すると言う。 「オレはジャン・ハボック。見ての通りここでバーを経営してます」 言って差し出される手を握り返すかどうするか、迷った末ロイは手を差し出した。 「私はロイ・マスタング。助けてくれて礼を言う」 言いながら差し出した手で大きな手を握り返す。それがロイがハボックと出逢った最初だった。 |
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