my sweet assassin  第十四章
 

「車に乗っていたのはオットー・ヴォルフでした」
 憲兵からの連絡を受けてフュリーが言う。その名前を聞いて、ブレダが目を丸くした。
「ヴォルフっていや次期市長候補になるかどうかっていう議員じゃないですか、なんでそんなヤツが大佐の命狙ったりするんです?」
 答えを求めて互いに顔を見合わせるブレダ達と黙ったきり何も言わないロイを見ていたホークアイは、ハボックを見つめて言う。
「説明してくれるわね?」
 ホークアイがそう言えば鋭い目で見つめてくるロイの方は見ずにハボックは口を開いた。
「ヴォルフは橋梁工事の不正に係わってたんスよ。それを大佐に色々つつかれて、それで、ってとこっスかね」
「大佐、橋梁工事の件なんて調べてらしたんですか?」
 ホークアイに睨まれてロイはうっと小さく呻く。だが、眉を顰めると言った。
「調べていた事は調べていたが私はヴォルフが係わっていたなんてことまでは知らなかったぞ」
「だったらなんでヴォルフは大佐にばれたなんて思ったんです?」
 不思議そうに聞くブレダにロイが答えられずにいると、ハボックが代わりに答える。
「オレが大佐にバレて情報部が動き出したって話を流したからだよ」
 その言葉にハボックの顔を見たロイは引きつった笑いを頬に浮かべると言う。
「それで、私を上手く殺す事が出来なかったから代わりにヴォルフに殺らせようと思ったって訳か…っ?!」
「陰に隠れて出てこない黒幕を炙り出すのに一番手っ取り早いと思ったんスよ!アイツら、時間ないって焦ってたし、大体アンタが勝手にフラフラ出ていったりするからいけないんでしょうがっ!」
「代わりに殺らせるって、どういうことです、大佐」
 訳がわからず目を丸くするホークアイの言葉にロイは怒鳴った。
「コイツは!私を殺す為にヴォルフが雇ったんだぞッ!」
「な…っ?!」
「馬鹿言わんでくださいよ、大佐。ハボがそんなことするわけ――」
「ヴォルフが死ぬ間際に言ったんだ!私を殺す為に雇ったって……!!」
 ロイの言葉に部屋の中がシンと静まり返る。ロイはハボックを睨みつけると言った。
「どうした、何か言ったらどうだ?それとも本当のことだから何も言う事はないっていうのか?さぞ面白かったろうな、お前を信じ切っている私を見ていて…。なんて馬鹿なヤツだと嘲ってたんだろうッ、この……ッ、裏切り者ッ!!」
 傷ついた顔で柄にもなく喚きたてるロイをハボックはじっと見つめていたがキッパリと言った。
「オレはアンタを裏切ったりしてないっス」
「なんだとッ、ヴォルフが言った事が嘘だったとでも言うつもりかっ?!ヴォルフは死んだ、いや、お前が殺したんだったな。余計な事を言われる前に殺したんじゃないのか、ハボック」
「もともとヴォルフたちが雇ったのは別の殺し屋だったんスよ。オレはソイツを殺してヤツらに雇われたフリをしたんス」
 その言葉を聞いてロイが目を見開く。
「どういうことか、最初からきちんと説明してくれるかしら」
 ハボックを見つめたきり何も言わないロイに代わってホークアイが言えばハボックは背後の机に体を預けて話し出した。
「そもそもの切っ掛けはマイアーっていう軍人が殺し屋を探してるって話を耳に挟んだことっス」
 店やってるんで、そういう情報にはことかかないと付け加えてハボックは続ける。
「別に軍人同士、誰が誰を殺そうとしようが普段なら気にしないっスけどね。アイツらが狙ってんのがアンタだって判って、ほっとけなくて」
「どうして?お前、大佐のこと、知ってたのか?」
 そう聞くブレダにハボックは肩を竦めた。
「ま……ね。ヒューズ中佐に聞いてたからさ」
「ヒューズと知り合いなのかっ?!」
「お前っ、中佐を知ってんのっ?」
 ハボックの言葉にロイとブレダが大声を出す。他の面々も驚きに目を瞠る中、ハボックはボリボリと頭を掻いた。
「随分前に偶然オレの店に来て。なんか意気投合しちゃってそれ以来、めぼしい話があるときは中佐に流してんスよ」
「……そんな事一言も言わなかったじゃないかっ、ヒューズもお前もっ!」
「ソースはなるべく明かさない方がいいってのが基本でしょ」
 サラリとそう言ってのけるハボックをロイは睨みつける。ハボックは困ったように笑うと言った。
「マイアーたちが殺し屋雇ってアンタを狙ってるって判って、雇われた殺し屋、殺したまではよかったけど、マイアーが黒幕じゃないてことが判って、このままじゃまた別の殺し屋雇われるだけだしどうしたらいいのか判んなくてオロオロしてたオレに入れ知恵したの、中佐っスよ。“だったらお前が殺し屋として雇われればいい”って」
 ハボックの言葉にホークアイが頷けばフュリーが電話を取ってセントラルへと繋ぐ。その間にハボックは話を続けた。
「後はアンタが知ってる通りっスかね。アイツらがアンタを狙ってるのは判ってたからアンタの事はずっと見張ってました。最初車に追われた時、近くにいたのもそのおかげだし。アンタの護衛官になれたのはラッキーでした。おかげでずっとアンタを守りやすくなったしアイツらの動きも追いやすかった」
 ハボックがそこまで言ったとき、フュリーが受話器を手にロイを呼ぶ。ロイはフュリーからひったくるように受話器を取ると耳に押し当てた。
「ヒューズ?!」
『おお、ロイ。無事だったか、よかったよかった』
「何がよかった、だ!貴様、ハボックと知り合いって本当かっ?しかも今回の事、色々裏で指示したって!」
 受話器に向かって大声で言うロイにヒューズはへらへらと答える。
『別に指示なんてしてねぇよ。こうした方がいいんじゃね?って言っただけ』
「知ってたんならどうして私に言わないんだ?!」
『言ったらアイツが動きにくいだろ。ああいうタイプは好きにやらせるに限るからな』
 ヒューズはそう言ってカラカラと笑った。
「ま、ソイツは敵じゃねぇよ。お前にしてみりゃ色々気に入らないところもあったかもしれねぇけどな。ともあれお前が無事で何より!んじゃ、俺、忙しいんでまたなっ』
「えっ、おいっ、ヒューズ!話はまだ途中…っ」
 まだ聞きたいことの半分も聞いていないロイは受話器に向かって叫ぶ。だが、ヒューズは素っ気なく電話を切ってしまい、ロイはムッと唇を突き出すと叩きつけるように電話を置いた。それきり何も言わずにじっと見つめてくる黒い瞳にハボックは苦く笑う。
「ま、言いたいことはいっぱいあるでしょうけどね。とにかくオレはもうお役ごめんだし、なんか事件のことで聞きたいことがあれば店の方にきてください」
 ハボックはそう言うと体を預けていた机から背を離す。部屋を出て行こうとするハボックにブレダが言った。
「待てよ、ハボ!お前、このまま軍人になるんじゃなかったのかよ」
「そういう訳にゃいかんだろ。それに中佐が言ってたみたいにオレは好き勝手にやる方が性にあってるしな」
「でも大佐の下なら働けるかもって言ってただろう?」
 その言葉に皆がロイの顔を見る。だが、何も言わないロイの代わりにハボックが言った。
「無理言うなって。こんなことになって大佐がオレを傍に置きたいって思うわけない。大佐のことはお前らに任せたから」
 そう言って笑うとハボックはホークアイを見る。
「なんのお咎めもなしってことはないと思ってるんで。オレは店にいますから。所在が判ってれば問題ないでしょう?」
「ええ、そうね」
 ホークアイが頷くのを確認してハボックは部屋のみんなに手を振った。
「短い間っしたけど色々お世話になりました。それじゃ」
 そう言って今度こそ部屋を出て行くハボックの背を、パタンと閉じた扉が視界から締め出す。ブレダはロイを振り返ると言った。
「いいんですか?このまま行かせちまって。そりゃ騙すみたいな形だったかもしれないけど、結果としてはアイツのおかげで上手く納まったんだし」
 ブレダの言葉に誰もが賛同する表情でロイを見る。だが、ロイは何も言わずに執務室へと入っていってしまったのだった。



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