| my sweet assassin 第十二章 |
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| 「ああ、判った。他の事もなるべく早く調べてくれ。……判ってるって、追加料金払うから、超特急で頼む」 ハボックはそう言うと受話器を置く。 「まったくもう、抜け目ないっていうかちゃっかりしてるって言うか…」 「誰が抜け目ないって?」 独り言のつもりでぼやいた言葉に返事が返ってきたのに驚いてハボックが振り向けば、ロイが後ろに立っていた。まっすぐに見つめてくる黒い瞳に微笑んでハボックは答える。 「いえ、こっちの話っス」 それだけ言って説明しようとしないハボックをロイは不満だと言うように睨み付けたが、ハボックが口を開かないのを見て取るとムゥと唇を突き出した。 「そう言えばお前、自分の話はあまりしないな」 「そうでしたっけ?」 「そうだ」 窓を背にしたハボックは表情がよく見えない。その優しい口調に惑わされて自分は何か見落としていないだろうかとふと不安にかられてロイはハボックに言った。 「お前を信じていていいんだな、ハボック」 そう言えば空色の瞳が僅かに見開く。それからハボックは薄っすらと笑った。 「アンタが好きっスよ、大佐」 そう言って優しく抱きしめてくる男をロイはずるいと思う。自分が聞きたいのはそんな言葉ではないのに気持ちのよいその声音に誤魔化されてしまう。 「私はお前なんて好きじゃない」 そう告げれば傷ついたように細められる瞳にチクリと胸の痛むロイだった。 「マスタング大佐、ご依頼のあった資料をお持ちしたのですが」 「え?」 書類を持ってきたという女性にそう言われてロイは目を丸くする。キョトンとするその顔に、女性は少し困惑したように首を傾げた。 「あの……橋梁工事の書類です」 「あっ、ああ…。すまない、ちょっと他の事を考えていたもので…」 ロイは慌ててそう言うと書類を受け取る為に手を伸ばす。女性はホッとしたように持っていた書類をロイに手渡した。 「ありがとう、とても助かったよ」 「いえ…」 にっこりと笑って礼を言えば女性が顔を赤らめる。女性が部屋を出た途端、顔に貼り付けていた笑みを消し去るとロイは椅子の背に体を預けた。女性が持ってきた書類を見もせずに机の上に放り投げるとため息をつく。先日ハボックに書類を燃やされた時は意地でもこの件に係わってやろうと思ったが、正直今ではもうどうでもよかった。 「くそ…」 最近どうにも集中できない。それもこれもハボックの所為だとロイが心の中の空色を睨みつけた時、扉をノックする音がしてロイは机の上の書類を取ると急いで抽斗に放り込んだ。 「失礼します。大佐、この書類にサインを……。って、何怖い顔してるんです?」 書類を手に執務室に入ってきたブレダはロイの顔を見てそう言う。ロイは眉を顰めてブレダを見上げると言った。 「別に怖い顔なんてしてない。元々こういう顔なんだっ」 ロイはそう言いながらブレダが手にした書類をひったくる。ざっと目を通してサインをすると突き返した。 「怖い顔になってますよ。ほら、ここに皺が」 ブレダはそう言うと自分の眉間を指差す。ロイは真っ赤になって眉間を押さえると怒鳴った。 「ハボックみたいなことを言うなッ」 ブレダはそんなロイをビックリして見つめていたが肩を竦めると言う。 「ハボックがいないからご機嫌斜めなんですね?アイツなら中尉に頼まれてちょっと出てますけど、すぐ戻ってきますよ」 だからそんなにカリカリしないで、と言うブレダをロイは執務室から追い出してしまった。 「なにがハボックがいないからご機嫌斜めだっ、私をなんだと思ってるんだッ」 ロイは肩を怒らせてそう言うと椅子に背を預け行儀悪く机の上に足を投げ出す。ほんの数分、その格好のまま苛々していたロイは眉間の皺を更に深くして呟いた。 「カフェオレが飲みたい」 そう口にすればいつもハボックが淹れてくれるカフェオレの味が口に広がるような気がする。ロイは勢いよく立ち上がるとそっと扉に近寄り、司令室の大部屋を覗いた。普段なら誰かしらいるその部屋には珍しく誰もいなかった。ロイは扉の間をすり抜けるとそのまま司令室の扉を開け廊下へと滑り出る。 「気分転換にカフェオレを飲みに行くだけだ…っ」 言い訳をするようにそう呟くとロイは廊下を駆けていった。 「なんだとっ?情報部がっ?!」 マイアーの言葉に男は声を荒げると座っていた椅子の袖を握り締める。ギリと歯を噛み締めると呻くように言った。 「それもこれもマスタングが余計な首を突っ込むからだッ」 男はそう言うとゆらりと立ち上がる。その体から零れる怒気にマイアーは思わず後ずさった。 「赦さんっ…赦さんぞッ、マスタング…ッッ」 男はそう唸るとゆっくりと部屋を出て行った。 「それにしてもどいつもこいつもろくなことを言わん」 ロイはカッカと頭から湯気を上げながら司令部の建物から出るとそのまま敷地の外へと足を向ける。一度飲みたいと思ったら何が何でもカフェオレが飲みたくてロイはズンズンと道を歩いていった。以前よく行っていた司令部近くの喫茶店の前まで来てロイはちょっと考えるとそこへは入らず更に先へと進む。 「あそこで飲んでたらすぐ来そうだ…」 誰が、と言う主語はなしにそう呟くとロイは適当な店を探して歩いていった。 「…大佐は?」 ホークアイの用事を済ませて戻ってきたハボックは執務室を覗くなりそう言う。たまたまその場にいたフュリーが眼鏡の奥の瞳を瞬かせて答える。 「僕が戻ってきてからは見かけてませんけど」 その答えにハボックが眉を顰めた時、ブレダが戻ってきた。 「お、ハボ。結構時間かかったな」 「ついでにヤボ用済ませてきたんだよ。お前、大佐知らない?」 「大佐ならお前いないからご機嫌斜めでフテってたよ。執務室にいないのか?」 「いないから聞いてんだよ」 ハボックは苛々ともう一度執務室に入るとすぐに出てくる。 「ちょっと探してくる。司令部の中にいるならいいけど」 「外に行くかぁ?サボるったっていつでも司令部の中だろ?」 「絶対って言えないだろっ、中尉戻ってきたらそう言っといて!」 「あ、ハボ?!」 驚くブレダの声を背に、ハボックはロイを探して司令室を飛び出していった。 |
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