Alucard 3


 カランと入口にかけてあるベルが音を立てて客が来たことを伝える。人手が足りずにホールの仕事まで回されていたハボックは、不謹慎にも思い切り嫌な顔をしてしまった。
「何時になったら減るんだよ、もう…」
 休日の食事時とはいえ、今日の混み方は異常だ。他の店が揃って休んで嫌がらせでもしてるのではとまで思ってしまって、ハボックはその考えに顔をしかめた。
 ともあれ入口で案内を待っているらしい客の応対をしなければならない。本当なら厨房専門の格好をしている自分より他に適任の者がいるはずなのだが、入口の近くには店の者は誰も見あたらなかった。
「もう、待たせちゃダメじゃん」
 オーダーをしようと呼び止める客は取り敢えず聞こえぬふりで、ハボックは足早に入口に歩み寄る。声をかけようとして、それが先日墓地で出逢った男だと気づいた。
「アンタ……」
 端正な横顔にそう呟けば男が振り向く。僅かに空色の瞳を見開くハボックに男が口を開いた。
「やあ、近くまで来たから寄ってみたんだが、タイミングが悪かったかな」
 そう言って笑う黒い瞳にハボックは何故だかどぎまぎしてしまう。ついさっき二人連れの客を送り出した事を思い出して、胸のドキドキを押し隠して言った。
「いいタイミングでしたよ、こっちどうぞ」
 ハボックはそう言ってロイを店の奥に案内する。まだ片付いていない食器を持っていたトレイに手早く載せてテーブルを拭くと言った。
「どうぞ。すぐメニューをお持ちします」
 ハボックはそう言って席を薦めると、ロイが座ったかどうかは確かめずに急いで厨房に戻る。汚れた皿をトレイごと置きメニューを取り上げてテーブルに戻った。ハボックが戻った時、ロイは目に楽しそうな光を浮かべて店の中をゆっくりと見回していた。その、なにもかも見透かしたような黒曜石の瞳にドキリとしながらハボックはメニューを差し出す。ロイはメニューを受け取りながらハボックを見上げて言った。
「随分と盛況だね。いつもこんな感じなのかい?」
「いや、今日は格別っスね。いつも食事時はそれなりに混んでるっスけど、今日のはちょっと異常っスよ。おかげでオレまで皿運んだりさせられてるし。厨房だって死ぬ程忙しいのに」
 口をへの字にさせて文句を言うハボックにロイはクスリと笑う。メニューを一度開いたもののすぐに閉じて言った。
「そんな忙しい時に来てしまって悪かったな」
「や!そんな事ないっス!覚えててくれて来てくれたなんて……ウソみたいで」
 良かったら来てくれとはいったものの、正直来てくれる等思ってもみなかった。嬉しいっス、と笑えばロイも嬉しそうに笑った。
「簡単に出来て旨いものはどれだろう。君のおススメを食べさせてくれ」
「あ、じゃあパスタはどうっスか?トマトとモッツアレラのパスタ、旨いっスよ」
「ではそれを」
「はいっ」
 ニコッと笑ってメニューを抱えると足早に厨房に戻っていくハボックの背を、ロイは目を細めて見つめていた。


2009/10/18


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