酔漢


「ん〜…」
 ロイは読んでいた本を置くと思い切り伸びをした。もう、夜もだいぶ更けた頃、ロイは久しぶりに1人で過ごしていた。
 今日、ハボックはセントラルから出てきた同期のヤツらと飲み会だと言っていた。ホテルの部屋に酒を持ちこんで飲み明かすのだという。
『今夜は多分、帰ってきませんから。向こうで飲んで、仮眠して、朝になったら帰ってきます』
 夕方、そう言ってハボックは出かけていった。本音を言えば他の男どもと夜通し過ごしているなど我慢ならないが、サシで飲むわけではないので、しぶしぶ頷いたロイだった。
「そろそろ寝るかな…」
 ロイはそう独りごつとソファーから立ち上がった。リビングの明かりを消すと2階へと階段を上がる。その時。
 ドンドンッ!!
 乱暴に扉を叩く音がして、ロイはぎょっとして立ち竦んだ。すると、扉を叩く音に続いてのんびりとした声が聞こえる。
「たいさあ、あけて〜」
「ハボック?」
 慌てて扉を開けるとハボックががばっと抱きついてきた。
「たいさあ」
「うわっ」
 自分より上背のあるハボックに抱きつかれて、だが、ロイはぐっと踏みとどまるとハボックの体を支えた。抱きつくハボックの唇からはかなり酒の匂いがする。酔っ払ってヘロヘロになった体をロイに預けるようにしてハボックはロイに抱きついてきた。
「どうした、今夜は帰ってこないんじゃなかったのか?」
 ロイはぐいぐいと縋りついてくるハボックの体を支えながら聞く。するとハボックがロイの顔を両手で包んで、瞳を覗き込むようにして言った。
「ん、大佐に会いたくなって…」
 真っ直ぐに見つめてくる空色の瞳にロイの心臓がどくりと跳ねる。
「帰ってきちゃいました…」
「…ハボ…っ」
 ハボックに噛み付くように口付けられて、ロイは目を瞠った。どきどきと高鳴る鼓動に身動きすることすら出来ない。
「たいさ…」
 ハボックは僅かに唇を離すと、吹き込むように囁いた。
「シよ…?」
「…っっ!!!」
 そのまま玄関先に押し倒されそうになってロイは慌ててハボックを押し返した。
「まっ、まてっ!ハボックっっ!!」
 止められてハボックが不服そうに唇を突き出す。
「なに?オレとヤりたくないの…?」
「そ、そうじゃなくて…」
「ひでぇ、せっかく帰ってきたのに…」
 1人で勝手に決め付けたハボックは突然ぽろぽろと涙を零す。そんなハボックにロイは多いに慌てた。
「ハボっ、そう言うわけじゃなくてっ」
「だったらなに…?」
 涙に濡れた瞳で、舌足らずな声でそう尋ねられてロイは心臓が喉から飛び出るのではないかと思った。
「ここじゃなくて、ベッドへ行こう。な?」
 ロイがそう言うと、ハボックはしばし考えるような顔をした。
「でも、オレ、もう歩けない…」
 ハボックはそう呟くと突然ロイの首に手を回した。そして。
「だっこ」
 耳元でそう囁くハボックにロイは固まってしまった。動こうとしないロイにハボックが焦れて首に回した手に力を込める。
「ね、たいさぁ、だっこ…」
 ぎぎぎと、音がしそうなほど不自然な動きで、ロイはハボックのほうへ顔を向けた。とろんと見つめてくる空色の瞳にロイは息が止まりそうになる。なかなか思うようにしてくれないロイにハボックはむう、と怒った顔を向けるとロイを押しのけて歩き出した。
「も、いいもん…たいさのけち…」
 ふらふらと歩くハボックの腕をロイは慌てて掴む。
「まてっ!誰もやらないとは言ってないだろうっ!」
 ロイがそう言うとハボックは振り向いてにこっと笑った。
「ほんと?」
 そう言って首に手を回してくるハボックの体をロイは横抱きに抱え上げた。すわりがいいように揺すり上げるとハボックがロイの胸元に頬を寄せる。
「たいさぁ…」
 そう呟いてハボックはロイの唇を舐めた。動揺してハボックを取り落としそうになったロイは慌てて抱く腕に力を込める。心の乱れを表すかのように、ロイはよたよたと階段を上った。
(酔っているとはいえ、どうしてこう、こいつわっっ)
 いつもはなかなかその心と体を溶かすのが大変だというのに、酔ったハボックの奔放さにロイは眩暈がした。
(でも、まあ、ハボックがその気なのだし…)
 と、寝室の扉を開けながらロイは思う。今夜は1人きりで過ごさなければならないと思っていたのに、ハボックが帰って来たどころかすっかりその気になっているのだ。ロイは独りでに緩んでいく顔をどうしようもなかった。
 ロイはハボックの体をそっとベッドに下ろすと金髪を優しくかき上げた。
「ハボック…」
 そう呼べばハボックがとろんと見上げてくる。ロイはその唇にそっと口付けると囁いた。
「私に会いたくて、帰って来たのか…?」
 そう聞くとハボックがうっとりと笑う。
「たいさのね、はなしがでたんスよ…すげえひとだって…おれ、うれしくて…そしたらあいたくて…」
 そう言ってロイに向かって腕を差し伸べてくるので、ロイは求められるままにハボックに体を寄せた。
「ん…きすしたい…」
 ロイの頭を抱え込んでハボックが呟く。ロイはうっすらと笑ってハボックの唇に自分のそれを重ねた。
「ん…ふ…」
 ハボックの唇から甘い吐息が零れるのを聞きながらロイはハボックのシャツのボタンを外そうとする。すると、ハボックがそれを押し留めた。
「だめ…」
「なぜ?」
「きょうはおれがたいさにするの…」
 ハボックはそう言うとロイの体をベッドの上に押し倒した。目を瞠るロイにくすくすと笑うと、ハボックはロイのシャツをはだけた。ぺろりと乳首を舐められてロイの体がびくりと震える。ハボックはロイの乳首を楽しそうにこね回した。ゆっくりと息を吐いて快感を逃がそうとするロイにハボックは笑いかける。
「きもち、いい…?」
「ああ…」
 ロイの答えにハボックは嬉しそうに笑った。それからハボックはロイのズボンに手をかけるとその中に手をしのばせる。びくりと震えるロイにハボックはロイの中心に手を這わせたままロイの口元に口付けた。
「ね、たいさ…おれのこと、すき…?」
「ああ、すきだよ…お前は?私のことが好きか?」
 普段、なかなか好きだと口にしてくれないハボックだが、今夜は言ってくれるかもしれない。そんな期待がロイの胸に膨らんでくる。
「ハボック?」
「うん…す…」
 その先の言葉を待つが、一向に何も言わないハボックをいぶかしんでロイはハボックの顔を覗き込む。すると。
「え…?おい、ハボック…?」
 ハボックはロイの体に覆いかぶさるようにしてすうすうと寝息を立てていた。
「…う、そだろうっ」
 ロイは体を起こすとハボックの肩を揺さぶる。
「おい、ハボックっ」
 だが、ハボックはすっかり寝入ってしまって全く起きる気配がない。ズボンの中に差し込まれたハボックの手に包まれたロイ自身は煽られて熱く滾ったままだ。だが、ハボックの手は力なく添えられているだけで、ロイは仕方なくハボックの手を引き出した。それでも諦め悪く、ロイはハボックの頬をぺちぺちと叩く。
「なあ、ハボック、おいっ」
「う…ん」
 起きたのかとロイの顔がぱっと明るくなった。するりとハボックの腕が伸びてロイの体をベッドに引き倒す。
「おっ」
 だが、ロイの期待に反してハボックはロイの体を抱きこむとそのまままた眠ってしまった。
「おいっハボっっ」
 自分を巻き込むハボックの腕を外そうとロイはもがくが、しっかりと抱きかかえられてろくに身動くことも出来ない。ロイは自分の顔の横ですうすうと寝息を立てるハボックの顔を横目で見やると、はああと長いため息をついた。
「そりゃないだろう…」
 ハボックに煽られて体はすっかり臨戦態勢だ。情けない声で呟いてもそれに答えてくれるはずのハボックは夢の中へと出かけてしまっている。
「こんなことなら1人で寝た方がよっぽどマシだ…」
 ロイはがっくりと呟くと、悶々と眠れない夜を過ごすのだった。


2006/9/20


拍手リクとして頂いてしまいました「酔っ払いハボが大佐に甘える姿も見てみたいような…。自分から誘っておいて途中で寝ちゃうハボとか…(笑)」でしたー。ロイ、生殺し…。この後人でなしになったのかは…どうでしょうね(笑)


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