写真2  中編


「ハボック、出かけるぞ」
「え?どこへ、って、またかよ」
 そうして再び休日が重なったある日、ハボックに声だけをかけるとさっさと出て行ってしまうロイをハボックは慌てて追う。だが、ロイは今度は玄関へは向かわず、リビングの入り口でハボックを待っていた。慌てて出てきたハボックの腕を取るとぐいと引っ張って浴室へと連れて行く。
「え、あの、たいさ?」
「せっかくだからシャワーを浴びてから着替えよう」
「はい?」
 訳がわからず目を丸くするハボックのシャツに手をかけると脱がそうとするロイに、ハボックは慌ててその手を押し留めた。
「待って、待って、たいさっ!全然訳わかんないんスけどっ」
 出かけるって言いませんでしたか、と聞くハボックにロイは面倒くさそうに答える。
「だからシャワーを浴びるんだろう」
「いや、そのだからって、なに、だからって」
 訳わかんねぇと呟きつつ、ロイに脱がされるよりはとハボックは自分で服を脱ぐとロイに言った。
「とにかくシャワーを浴びればいいんスね?」
「そうだ。おい、一人で入るな。私も浴びるんだから」
 一緒に入ってこようとするロイをハボックは警戒心丸出しの顔で見つめる。
「…何もしないでしょうね」
「お前な…」
 人を変態みたいに言うな、と唇を突き出すロイをハボックは目を細めて見つめると浴室へと入っていったのだった。

「ほら、これを着ろ」
 シャワーを浴びてハボックが体を拭いているとロイが服を差し出してくる。その中の下着を手にとって、ハボックは顔を赤らめた。
「うっそー、このパンツ、シルクじゃんっ」
 そうして平然と着替えているロイを見て言った。
「大佐、女の子ならともかく男にシルクって…」
 寒いっスよ、と言うハボックにロイは一瞥をくれると言う。
「さっさと着ろ。着ないならヤッてくれ、と言ってるんだと解釈するからな」
 とんでもないことを言い出すロイにハボックは慌てて服を身に着けた。シャツに腕を通しながら、それが先日オーダーメイドで作ったものだと気がつく。ハボックはロイの横顔を見ながらその真意を測りかねて首を捻った。

「たいさぁ、どこ行くんスか?」
 いつの間に作ったのだろう、ハボックと同じように新しいスーツに身を包んだロイと並んで歩きながらハボックは聞く。だがやはりロイはちらりとハボックを見上げただけで、何も言わずにスタスタと歩き続けた。
(もう、何なんだよ、一体…)
 ハボックは小さくため息をつくと背中を丸める。街中を歩く2人は何故だか行き交う人々の視線を集めていた。
(なんか、居た堪れねぇ…)
 人々の視線が自分を嘲笑っているような気がして仕方がない。
(大佐はカッコいいよなぁ…)
 まっすぐに前を見て歩くロイをちらりと見やってハボックは思う。ますます背を丸めようとするハボックをロイは見上げるとその後ろ髪をグイと引いた。
「背筋を伸ばせ、背筋を。せっかく上背があるんだから胸を張って歩け」
「そんなこと言われたって…」
 誰もがみんなアンタみたいに自信満々じゃないってと思いつつ、髪をぐいぐいと引かれてハボックは仕方なしに体を起こした。
「で、どこ行くんスか?」
 こんなスーツ着て、としつこく聞いてくるハボックにロイは前方の店を指差す。
「え?どこ?」
 結局どこを指差されたのか判らず、半歩先を行くロイの後についてたどり着いた店にハボックは目を丸くした。
「写真館?」
 きょとんとした顔をするハボックの腕を引いてロイは中へ入っていく。カランとなったドアベルに応えて中から出てきた主人にロイが言った。
「この間頼んだ者だが」
「ああ、マスタングさん。記念写真でしたね」
 どうぞこちらへと促されて、ロイはハボックの腕を取った。
「ほら、ハボック」
「ちょっと、待って、たいさ。記念写真って…」
 訳がわからないと言う顔をするハボックにロイは笑って言う。
「前に約束したろう。一緒に写真を撮って一枚ずつ持っていようって」
 そう言われてハボックは記憶を探ってある事に思い至ると目を瞠る。あれはまだ暑い時分、偶然ロイの写真を手に入れたものの、結局濡らしてダメにしてしまったことに落ち込むハボックにロイが言ったのだ。
『だったら一緒に写真を撮ろう。撮った写真を一枚ずつ持てばいい。そうだろう、ハボック』
 そう言った時のロイの優しい黒い瞳をも思い出してハボックの顔が紅くなる。そんなハボックの頬にチュッとキスを落とすとロイは言った。
「思い出したか?だったら写真を撮るぞ」
 そう言ってロイはハボックの腕を引いて主人の待つスタジオへと入っていった。
「だからって何もスーツなんて作んなくても…」
 照れたように言うハボックにロイは笑って答えた。
「私が選んだスーツをお前に着せて一緒に写真を撮りたかったんだ。私の我が儘だ。付き合え」
 さらりと言って笑うロイに見とれてしまったハボックは、名前を呼ばれて我に返り瞬く間に顔を紅く染める。そんなハボックに手を伸ばしてロイは笑った。
「なんだ、真っ赤だぞ、お前」
「大佐が恥ずかしいことばっか言うからっスよ」
 頬に伸びてくる手から逃れるように身を捩るハボックを愛おしそうに見つめると、ロイは用意された椅子に腰を下ろす。その斜め後ろに寄りそうようにハボックが立つと、写真屋がにっこりと笑った。
「さあ、では撮りますよ。こちらを見て瞬きしないで下さいね」
 写真屋の掛け声と共にフラッシュが閃きシャッターが下りる音がする。何枚か撮って写真屋のオッケーが出るとハボックは思い切り息を吐いた。
「あー、なんか顔が固まった気がするっス…」
 そう言いながらぺちぺちと自分の頬を叩くハボックを横目で見ながらロイは写真屋に言った。
「写真立てに入れられるようなものと、それとは別に手帳に挟めるくらいの大きさのを2枚焼いてくれるか?」
「写真立て用と手帳に挟める大きさのものですね。では、焼きあがりましたらご連絡します」
「頼むよ」
 そう言って写真館を後にするとロイがハボックに言った。
「せっかくだから食事でもして帰るか」
「なんか、こんな格好して、デートみたいっスね」
「デートだろ」
 手、繋いで歩くか、と言うロイを軽く睨みつけて、そうしてハボックは幸せそうに笑った。


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