chap.3


「よしっ、そこまでっ」
 大人相手に組み手をしていたハボックは、終わりを告げる声に構えていた腕を下ろした。軽く息を弾ませながら頭を下げる。
「まだ12になったばかりなのに、ここまで出来たら大したものだ」
 そういう体術の教師にハボックは小さく首を振った。
「でも、もっともっと強くなりたい」
 呟くハボックに相手は笑うとハボックの髪をくしゃくしゃとかき回した。
「まだまだこれから大きくなるんだ。いくらでも強くなれるさ」
 そう言ってハボックに着替えるように言うと家の中へと入っていく。ハボックは俯いたままぽつりと呟いた。
「早く大きくなりたい…」
 そう言うとハボックはため息をつく。早く大きくなりたい。そうすればずっとロイと一緒にいられる。
 ハボックがロイに引き取られてから7年が過ぎ、ロイは士官学校を卒業し、アメストリス国軍に入隊していた。国家錬金術師として焔の二つ名を貰い受けると同時にめきめきと頭角を現し、あっという間に中佐の地位まで駆け上がった。当然、家にいる時間は減り、何日も、時には何週間も顔を合わせないことなどざらだった。
(今度はいつ帰ってくるんだろう…)
 ハボックはのろのろと家に入りながら思う。会いたくて会いたくて仕方がない自分の半分も、ロイは自分に会いたいと思ってくれているのだろうかと、ハボックは時々不安に駆られた。自分が知らないロイの世界。自分が知らないロイを取り巻く人々。果たして自分はそれらの中で一体どれほどの重みを持ってロイに受け止められているのだろうと、ハボックは幼い胸を痛めているのだった。
 自分の部屋のシャワールームでざっと汗を流すとハボックは髪を拭きながら階下へと下りた。何か飲み物を貰おうとキッチンへと入っていくと、そこにいたノーマンに頼む。ノーマンは手早くレモネードを作ってくれると、ぼんやりとキッチンの壁に寄りかかっていたハボックにグラスを渡し、にっこりと微笑んだ。
「今夜、マスタング様がお帰りになりますよ」
「ほんとっ?」
 ノーマンの言葉にハボックはパッと顔を輝かせた。
「うわ…どうしよう、1週間ぶり?オレ、変な顔してない?」
「なにを仰ってるんです?」
 まるで久しぶりに恋人に会うかのようなハボックの慌てぶりに、ノーマンは苦笑した。ノーマンはハボックのまだ湿った髪をなでると優しく言った。
「ちっとも変じゃありませんよ。いつもどおりとても可愛らしいです」
 ノーマンの言葉にハボックはちょっと面白くなさそうな顔をした。
「可愛いってなに?オレ、男なのに」
 そう言って口を尖らせるハボックにノーマンはくすくすと笑った。最近、自分のことを「オレ」と言うようになったハボックだが、見かけはまだまだ愛らしく、ノーマンから見れば初めて会ったときとさほど印象は変わらない。もっともそんな事を言えば、ハボックが激怒するのは目に見えていたので、ノーマンは笑うに留めておいた。ハボックが少しでも早くロイに近づきたくて必死に努力しているのをノーマンは知っている。もうそれは、可哀相になるほど必死で、それを目の当たりにしているノーマンはハボックが可愛くて仕方がなかった。
「何時ごろ帰ってくるのかな?」
「そうですね、お夕飯はご一緒に食べられると思いますよ」
 そう言うと嬉しそうに笑うハボックに、今夜は二人の為に腕を振るわなければと思うノーマンだった。

「ただい…うわっぷっ!」
 ロイは部屋に入るなりハボックに飛びつかれて思わずよろけそうになった。細い体をしっかりと受け止めると見上げてくる空色の瞳に微笑みかける。
「元気にしていたか?」
 そう聞かれてハボックは頷くとぎゅっとロイにしがみ付いた。ロイはそんなハボックの金色の髪をくしゃりとかき混ぜるとハボックをつれて食事のテーブルにつく。
「ほら、ハボック。せっかくの料理が冷めてしまうだろう」
 そう言われてハボックはしぶしぶとロイから離れると席に着いた。
「さあ、どんどん召し上がってください」
 そう言って給仕してくれるノーマンの料理はどれも美味しくて。
(一緒に食べるから余計に美味しいんだ…)
 ハボックはそう思いながらにこやかに笑うロイを見た。会ったら沢山話したい事があったはずなのに、いざロイを目の前にすると何も出てこない。それでもロイがそこにいるということだけでハボックの心は満たされていく。久しぶりに満ち足りた気持ちで食事を続けているハボックを、ロイは黙って見つめていた。

 食後のお茶を飲みながらゆったりと過ごしていると、不意にロイがカップを下ろしてハボックに言った。
「ハボック、大事な話があるんだ」
 いつにない真面目な声音にハボックもカップを置くとロイの顔を見つめる。
「今、イシュヴァールと上手く行っていないことはお前も知っているな?」
 ロイの言葉にハボックは頷いた。ハボックは何故かは判らないが湧き上がってくる不安に小さく身を震わせる。
「今度、国家錬金術師が投入されることが決まってな、私も行く事になった」
 ロイの言葉にハボックの瞳がゆっくりと見開かれる。言葉もなくロイを見つめるハボックにロイは言葉を続けた。
「何年かかるか判らない。2年か3年か…」
「うそ…」
「嘘じゃない、ハボック。だからお前はノーマンとここで…」
「嘘っっ!!」
 ハボックはそう叫ぶと部屋を飛び出した。
「ハボック!待ちなさい!」
 ロイの言葉に振り向きもせず階段を駆け上がり寝室に入るとベッドに倒れこんだ。ベッドに顔を埋めるハボックの耳にロイの言葉が木霊する。
『国家錬金術師が投入されることが決まって』
『私も行く事に』
『何年かかるか判らない』
 ハボックはぎゅっとシーツを握り締めるとふるふると首を振った。その時、がちゃりと音がして寝室の扉が開き、ロイが入ってくる。
「ハボック…」
 ロイはハボックの名を呼んでベッドに腰掛ける。ハボックは飛び起きるとロイにしがみ付いた。
「ヤダ、行かないで…行っちゃいやだっ」
「ハボック、私は軍人なんだよ」
「だったらオレも連れて行ってっ!」
「無理を言うんじゃない」
「どうしてっ?オレ、一生懸命やったもの。勉強もしたし、体術の練習だって…っ」
「ハボック」
「ヤダ…っ。今だってなかなか会えないの、辛いのに…。2年なんて、絶対ヤダっっ!!」
 そう言ってしがみ付いて来る細い体をロイは抱きしめる。
「私だって会えないのは辛いんだ」
「じゃあ、連れて行ってっ!」
「ハボック」
 ぽろぽろと涙を零す小さな顔をロイは両手で包み込んだ。
「必ず帰ってくるから」
「ちゅうさ…」
「約束する。必ず帰ってくるから…」
 だから待っていてくれ、ロイはそう囁くとハボックの唇に自分のそれを重ねる。唇を離すとハボックはロイの胸に顔を埋めた。
「淋しくて死んじゃうよ…」
 ハボックは涙を零しながらそう呟いた。
「2年も会えなかったら、きっと淋しくて生きてられない…」


 
                                   Illustrated by isawo


ロイはそんなハボックを抱きしめると囁いた。
「お前がいつでも私を思い出せるように、一人でする方法を教えておこう」
 そう言うロイをハボックは不思議そうな顔をして見上げる。ロイはベッドの上に座ると自分の脚の間に自分に背を向ける様にハボックを座らせた。そうして、ハボックのズボンを寛げるとまだ幼いハボック自身を取り出す。
「ちゅ、ちゅうさっ?」
「じっとしていなさい」
 ロイはそう言うとハボックの中心を扱き始めた。最初はゆっくりと、次第に速度を上げていく。もう片方の手で袋を揉みしだき、擦り上げる手で先端の柔らかい部分や小さな穴を刺激する。ハボックは初めて与えられる感覚にぴくぴくと内股を震わせて喘いだ。
「んっ…は…はあ、んんっ…」
 脚を閉じることも許されず、ハボックはどうしていいか判らずに自分を攻め立てるロイの腕を掴んだ。
「やっ…やあっ…あぁ…」
「ハボック…」
 耳の中に吹き込まれる囁きにハボックはびくりと体を震わせる。袋を弄っていた手がシャツの中に忍び入り、ぷくりと立ち上がったハボックの乳首を摘んだ。
「ひあっ…ああっ」
 喉を仰け反らせて喘ぐハボックをロイは容赦なく攻め立てた。乳首から広がるじんとした甘い痛み、擦り上げられる中心から背筋を走りぬける快感に、ハボックはぽろぽろと涙を零しながら喘ぐ。唇から零れる吐息が激しさを増し、ハボックの限界が近いことを知らせた。
「あ、あ、も、ダメ…っ、で、るっっ」
 ハボックはロイの肩に頭を預けるようにして背を反らすとびくびくと大きく体を震わせる。それと同時にロイの手に包まれた自身からびゅくびゅくと白濁を迸らせた。
「あああああっっ」
 熱を吐き出してぐったりと力の抜けた体をロイはぎゅっと抱きしめる。手の中に吐き出された白濁をロイは綺麗に舐め取ってしまうと、呆然とするハボックの顎を掴み後ろから強引に口付けた。
「淋しいときは自分でしてごらん。私の手がどんな風にお前に触れたか思い出して…。できるだろう?」
 優しく抱きしめられながら、唇に吹き込まれる言葉にハボックは微かに頷いた。

「いよいよ明日ご出発ですね…」
「ああ、ハボックを頼むよ」
「はい、命に代えましても」
 きっぱりとそう答えるノーマンにロイは微かに笑うと尋ねた。
「ハボックは?」
「お部屋の方に…。今夜もあまり食が進まないようで…」
 ノーマンの言葉にロイは軽くため息をつく。ソファーから立ち上がると2階へと上がっていった。ハボックの部屋の前に立つと軽くノックする。
「ハボック、私だ。入るぞ」
 ロイが扉を開けて入ると、ハボックは明かりもつけずに窓辺に腰掛けていた。
「ハボック」
 ロイの声に窓の外を見ていたハボックがロイに視線を向ける。
「ちゅうさ…」
 ロイはハボックに近づくとその金色の頭にキスを落とした。そのまま頭を抱きかかえてじっとしているとロイの耳にハボックが囁く声が届いた。
「ちゅうさ…もう一度、シテ…?ちゃんと思い出せるように…一人でもできるように…」
 闇の中で殆んどグレーに見える濡れた瞳がロイを見つめる。ロイはハボックにそっと口付けるとハボックのズボンを寛げ、中へ手を忍ばせた。ハボック自身を握りこめば腕の中の細い体がぴくりと震える。
「ん…」
 口付けを交わしながらロイはハボックを追い上げていく。ロイの腕を掴むハボックの指に力が入り、交わす唇から零れる吐息が温度を上げていった。
「んんっ…ぅん…ん、んーっっ」
 びくびくっと震えてハボックがロイの手に熱を吐き出す。ロイの胸に顔を埋めて荒い息を零すハボックの口元に濡れた掌を差し出せば、ピンク色の舌が伸びて綺麗に舐め取っていった。ロイはハボックの顎を掴むと仰向かせ深く口付ける。舌を絡ませ、飽きることなく互いの口中を貪った。
「待ってるから…」
「ああ」
「ずっと待ってるから…」
「ああ」
 月の光が差し込む窓辺で、寄り添った影はいつまでも離れなかった。


→ chap.4