千草色の君を抱いて  中編


「それでは…」
 ロイは目の前の女性の手を取るとその甲に口付ける。頬を染めた女性が家の中へ消えるのを見届けてロイは踵を返した。毎日のように家にやってくるハボックに会いたくなくて、ここのところロイは女性とのデートを重ねていた。今夜も前日とは違う女性と楽しく食事をし酒を交わして、だが、泊まっていってと暗に匂わせる相手を適当にあしらってロイは帰路へとついていた。
 自分の中の欲望に気づきもせずにただ幸せそうにロイを好きだというハボックに、ロイはもう自分を抑えるのが限界だった。このまま側にいたらきっと酷く傷つけてしまう。それが怖くてロイはハボックに会わずに済むように、毎晩デートを重ねていたのだった。
 今日も、もう、流石に家に戻った頃だろう。ロイはそう考えて家への道を歩く。このまま時間が過ぎて、ハボックのロイへの気持ちもうやむやになってしまえばいい。早く他の誰かを好きになってくれれば、これ以上苦しい思いを抱えていかなくて済む。ロイはそう考えて、とっかえひっかえ女性とデートを続けていた。
 家の前についてハボックがいないのを確かめると、ロイは玄関の鍵を開ける。ロイは中へ入ると重い脚を引き摺って2階へと上がった。寝室の扉を開けようとして、ロイはふと感じた人の気配に手を止める。眉を顰めて発火布の手袋を取り出すとそれを手にはめ、扉の影に隠れるようにしてドアを開くと中の人物に向かって怒鳴った。
「燃やされたくなかったら動くなっ」
 そう言って、ドアの横にある電気のスイッチを押す。パッと明るくなった室内を目を細めて見渡せば、ベッドの上にシーツをかぶって座り込むハボックの姿が目にはいった。
「ハボック…」
 ビックリして空色の瞳を見開いたハボックの姿をロイはまじまじと見つめる。
「お前、どうやってここに…」
 呟くように聞いたロイに、ハボックはなんとか気を取り直すと答えた。
「洗面所の窓が開いてたから…」
 そう答えるハボックをロイは睨みつける。
「帰りなさい」
 そう言うロイの言葉にハボックは首を振る。
「帰るんだっ」
 ロイはそう言ってシーツを撒きつけて座り込んだハボックの腕を取った。
「やだっ」
「ハボ…ッ」
 腕を振り払おうとして暴れるハボックの体からシーツがぱさりと落ちた。シーツの下から現れたその姿にロイは息を飲む。柔らかい寝室の光の下に曝け出されたのは一糸纏わぬ少年の体だった。呆然と凍りつくロイの腕を振りほどくとハボックはロイの体にしがみ付く。
「たいさ…っ、すき…」
 そのしなやかな体にロイは理性の箍が外れそうになるのを必死に食い止めた。
「やめなさい…ハボック…っ」
「やだっ…すきなんだもんっ」
「ハボっ」
 ハボックの淡いピンク色の唇がロイのそれに押し付けられた時、ロイの中で何かが切れる音がした。しがみ付くその体をぐいと抱き寄せるとロイはハボックをベッドに押し倒す。目を見開くハボックの顔を見つめてロイは囁いた。
「お前が悪いんだぞ…っ」
 そうして噛み付くように口付けると強引に歯列を割り舌を差し入れる。怯えて縮こまるハボックの舌を絡め取ると強く吸い上げた。思う存分ハボックの口内を味わった後、ようやく唇を離すと、呆けたような表情のハボックと目が合った。
「た、いさ…」
 舌っ足らずな口調で自分を呼ぶハボックの声にぞくりと体を震わせて、ロイはハボックの体にむしゃぶりついた。まだ何も知らないその体を強引に開かせると白い肌に紅い印を散りばめていく。ロイが強く吸い上げるたびチクリと痛むそこから湧き上がる不思議な感覚に、ハボックは怯えてロイを押し返した。
「やっ…たいさっ…ま、って…っ」
 だがロイはハボックの言葉に耳を貸そうともしない。ロイは色素の薄い胸の頂にたどり着くとぷくりと立ち上がったそれにきつく噛み付いた。
「いたっ」
 びくんと震える体を押さえ込んで、ロイはハボックの乳首を舌と指で玩んだ。くりくりと指で押しつぶし唇で吸い上げ、歯を立てる。そのたびにびくんと震える体にロイは満足そうに笑った。
「やあっ…や、め…っ」
 ふるふると首を振って悶える少年の乳首を散々に弄っていると、淡い色だったソコは紅く色づいてロイを煽った。
「も、やだ…そこっ」
 乳首ばかり執拗に責められて、ハボックはぽろぽろと泣き出してしまう。その頼りない姿に却って嗜虐心を煽られてロイは熟れたソコにきつく歯を立てた。
「ひああっ」
 痛みのあまり喉を仰け反らせたハボックの瞳から涙の滴が舞う。そんな姿を綺麗だと思いながら、ロイはようやくハボックの胸から顔を上げた。そうしてぐったりと横たわる少年の脚を抱え上げるとその奥まった蕾へロイは舌を差し入れる。途端に跳ね上がる体を押さえつけてたっぷりと唾液を流し込むと、指を1本突き入れた。
「ひっ」
 逃げようとする体を押さえつけてぐちゃぐちゃとかき回せばハボックの体が大きく震える。ロイはまだ幼いハボックの中心に唇を寄せると口中に迎え入れた。
「ひゃあっ」
 前と後ろを同時に弄られて、ハボックは体を駆け抜ける初めての感覚にどうしてよいか判らずにふるふると頭を振る。じゅぶじゅぶと自身を擦り上げられて瞬く間に昂る体にハボックは怯えて涙を零した。
「やっ…も…でる…っ」
 じゅっと強く吸い上げられてハボックは高い悲鳴を上げるとロイの口中へ熱を放つ。熱を放つと同時に沈められた指を締め付ける蕾をぐりっとかき回すとロイは指を引き抜いた。ごくりと口の中のものを飲み干すとロイは体を起こしてハボックの顔を覗き込んだ。浅い呼吸を零して呆然と宙を見上げる濡れた瞳にロイの心臓がどくりと跳ねる。ロイはハボックのすらりと伸びた脚を抱え上げると堅くそそり立った自身をハボックの蕾に押し当てた。ずぶりと先端を差し込むとハボックの体が強張る。だがそれに構わずロイは強引に体を進めていった。
「あああああっっ」
 ハボックの唇から悲鳴が迸り、ロイの肩を掴んだ手が爪をたてる。ロイが一気にその身を沈めると、ハボックは目を見開いてびくびくと体を震わせた。
「あ、あ、あ…」
 見開いた空色の瞳から止めどなく涙を零すハボックの体をロイは抱えなおすとぐいと突き上げた。次の瞬間入り口まで引き抜くとすぐさま乱暴に突き上げる。
「いた…っ…いたい…っ…やめ、てっ…ひっ…ひぃっ」
 泣きじゃくる細い体をロイは乱暴に揺さぶった。微かに錆びた匂いが漂ってロイの動きがスムーズになる。もうハボックにはロイに縋りつく力さえ残ってはおらず、ただロイが揺さぶるのにあわせて力なく体を震わせていた。痛みの為に萎えたハボック自身をロイは掌に包むと上下に扱き出す。ハボックの体がびくりと震えて、その唇から熱い吐息が零れた。
「や、だ…こわ、い…たすけ…」
 快感と痛みにすっかり竦みあがっているハボックの体をロイは思うままに蹂躙していく。ロイは追い上げられたハボックが熱を吐き出すのを追うようにハボックの最奥へ熱を迸らせた。

 ひくっとしゃくりあげる細い体からロイは己を引き抜いた。そのずるりと擦られる感触にハボックの唇から悲鳴が零れる。凶暴な熱が収まって組み敷くハボックを見下ろしたロイは、その惨状に喉を詰まらせた。ほっそりとしなやかな体に残る無数の鬱血の痕。そのすらりと伸びた脚の間からは鮮血と共に白濁がとろとろと零れだしていた。ひくっひくっと泣きじゃくるハボックをロイは抱きしめてやることも出来ずに唇を噛み締めた。
(私はなんてことを…)
 絶対に傷つけたくないと思っていたのに、一番最低なやり方で引き裂いてしまった。ロイは立ち上がると乱暴にハボックの体を引き起こす。びくんと震えて見上げてくる空色の瞳にロイは抱きしめたい気持ちを抑えてハボックを浴室へと連れて行く。立っていることも儘ならない体を浴室の床に投げ出すとシャワーの湯をざあざあとハボックにかけた。傷ついたその蕾に乱暴に指を差し入れて、中に残ったものを無言で掻きだしていく。
「う…いた…」
 ロイは後始末を済ませるとタオルでその体を包み込み、寝室へと引き返してざっと拭いてやると服を着せてやった。
「帰れ…」
 ロイは冷たく言い放つとハボックに背を向ける。
「たいさ…」
 縋りつくようなハボックの声に、ロイは振り向いて優しく抱きしめたくなる気持ちを必死に押さえて背を向け続けた。やがて引きずるような足音が部屋を出て行き遠くで扉が閉まる音がした。
「ハボック…っ」
 ロイは血を吐くような声でそう呟くと爪が刺さるほど手を握り締めた。

 その日以来、ロイはハボックを一切近づけなかった。一度抱いたハボックの体はロイにとってあまりにも甘く、もし再びその姿を目にしたら、もうどうするか自分に自身が持てなかった。それにロイは誰よりも大切にしてやりたかったハボックを最低な形で傷つけてしまった自分がどうしても許せなかった。大切で大切で、黙って見守っていこうと思っていたはずなのに、あの時のハボックの姿に自分を抑えられなかった。すんなりと伸びた肢体に、濡れた瞳に欲情して気がついたときにはハボックをメチャクチャに傷つけていた。ロイはあまりに醜い自分の想いにもう2度とハボックと会うまいと誓ったのだった。

 ロイに初めて抱かれた日、やっとの思いで家に戻ったハボックは酷い熱を出してしまった。心配する母親に近づく事も許さず、やっと起きられるようになったハボックがロイの家で見たものは冷たく閉ざされた扉だった。待てど暮らせどロイは戻ってこず、一度などは夜が明けるまで家の前で待ち続けたがロイは帰ってこなかった。
「オレが上手く出来なかったから、きっと嫌われちゃったんだ…」
 ハボックは玄関ポーチの前に座り込むと膝を抱えて呟いた。あの日、洗面所の窓から忍び込んだハボックは、ロイに自分の想いを伝えたくて、ロイの帰りを待っていた。だが、いざあの場面になって、いつも優しかったロイのあまりの激情にハボックの心はすっかり竦みあがってしまったのだ。
「あいたい…」
 ハボックはぽろぽろと涙を零しながら抱きかかえた膝をぎゅっと引き寄せた。

「どこに逃げ込んだってっ?」
 ロイは車を運転する兵士に怒鳴るように聞いた。兵士はロイの怒りの形相に顔色をなくして答える。
「北地区の川沿いにある学校です。えと、名前はたしか…」
「わかった、もういいっ!」
 名前を聞かずともロイには判った。その学校の制服に身を包んだハボックの姿が目蓋に浮ぶ。ロイたちが追うテロリストの一人がハボックの通う学校に逃げ込んだと言うのだ。
(ハボック…っ)
 ロイは愛する少年のことを思って叫びだしそうになる自分を必死に抑えていた。

「様子はっ?!」
 ロイは車が学校の前に着くなり車を飛び出して、学校の周りに展開する部下達に声をかける。
「それが、子供達を数人、人質にとって立てこもっています。30分以内に逃亡用の車を用意しないと人質を殺すと言って…」
 それを聞くとロイは立ち上がって学校のほうへ包囲する部下達から離れて歩き出した。
「大佐ッ!」
 慌てる部下達を尻目にロイは立ちはだかると怒りのオーラを立ち上らせて叫んだ。
「燃やされたくなかったらすぐに出て来いっ!貴様一人燃やすことくらい容易いのだぞっ!」
 ロイの声に子供に銃を突きつけたテロリストが顔を出す。
「ふざけるなっ、ガキを殺されたくなかったら車を…」
 その男に向かってロイは軽く指を打ち鳴らした。途端に男が喉をかきむしるようにして、喘いだ。緩んだ腕の中から子供の体が地面に倒れこむ。もう一度指を鳴らすと地面に倒れ付したテロリストの喉から引きつるような呼吸音が漏れた。
「空気を…」
 誰かがその様子をみてぽつりと呟く。ロイは男を燃やす代わりにその周囲の酸素量を調節して、男を軽い酸欠状態に追い込んだのだった。
「連行しろ」
 吐き捨てるようにそう言ってテロリストに背を向けたロイに向かって、気を失ったと思われたテロリストの手の中の銃が火を吹いた。その時。
 金色の光がロイとテロリストの間に飛び込んだ。振り向いたロイの目に映ったのは銃弾を受けて倒れるハボックの姿。
「ハボックっっ!!」
 ロイは腕を伸ばすと倒れるその体を抱きしめた。そうしてもう一度指を擦り合わせると銃を持ったテロリストの体が焔に包まれる。断末魔を上げる男をそのままにロイは腕の中の金色に向かって叫んだ。
「ハボックっ!ハボックっっ!!」
 ロイの声にハボックが目を開く。
「怪我、ないっスか…?」
「怪我をしてるのは、お前だっ!なんでこんなこと…っ」
「へいき…肩をかすっただけ…たいしたことない…」
 だが、ハボックを抱きしめるロイの手にべっとりとついた血に、ロイは体から力が抜けるような気がする。目を閉じてぴくりとも動かなくなったハボックの体をひしと抱きしめて、ロイはハボックの名を呼び続けた。


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