wedding band 第二章
色とりどりの花びらが舞い散る中、幸せいっぱいの新郎新婦が歩いていく。周りを取り巻く友人達が口々に
お祝いの言葉を投げかけ、あたりは優しい空気に包まれていた。軍の礼服に身を包んだロイとハボックは
2人の幸せを祝福する人々の輪の中で寄り添って立っている。優しい表情で二人を見つめていたロイが
ハボックに囁いた。
「綺麗な花嫁だな。」
「そっスね。マシュウのヤツ、上手いことやりましたよ。」
手、貸すんじゃなかったっスかね、などと言うハボックにロイが苦笑を浮かべていると。
わあっと言う歓声と共にロイの目の前に色鮮やかな塊が降ってきた。
「っ?!」
思わず手を差し出したその上に落ちてきたのは花嫁のブーケだった。
「…あ」
一瞬静まった列席者からわああっと歓声が上がる。その声に、ロイの顔がみるみるうちに紅くなった。
「どうしよう、受け取ってしまった。」
困ったように見上げてくるロイを見てハボックは笑う。
「いいじゃないっスか。みんな喜んでるし。」
そう言われて視線を上げれば微笑む人々の顔、貌、かお。
ロイは目元を染めて微笑むとブーケを掲げて見せたのだった。
「やっぱり悪いことしたな。」
駅に向かう道すがらロイは手にしたブーケを見てそう言った。
「なんで?嬉しくないんスか?」
不思議そうにハボックが聞けばロイが答える。
「だって、普通女性が貰うものだろう、これは。」
男の私が貰っては拙いだろう、と言うロイの耳元でハボックが囁いた。
「大丈夫、ちゃんとお嫁に貰ってあげますから。」
そう言ってチュッと頬にキスされて、ロイの顔が真っ赤になる。
「ばっ、ばかっっ!!」
ロイはそう怒鳴ると持っていたブーケでハボックの顔を叩いたのだった。
「あと10分くらいで着きますから。」
ハボックは網棚から荷物を下ろしながら言う。午前中ペリーの結婚式に出た二人は、今はもうハボックの家に
向かう列車の中だ。
「なんだか慌しかったな。」
「でもちゃんとお祝いも言ってきたし。」
思いがけずブーケを受け取ってしまったロイにペリーの妻になる女性はむしろ非常に喜んでくれていた。ロイは
さっきうっかりハボックを殴ってしまった為にちょっとゆがんでしまったブーケの形を何とか整えるとホッと息を
つく。
「なんだか緊張してきた…。」
ロイはさっきまでは田畑しかなかった外の景色に多少なりと建物の群れが増えてきたのを見やりながら呟く。
「大佐が緊張なんて…」
珍しいこともあるんですね、などと小憎たらしいことを言うハボックの脚を蹴飛ばして、ロイは髪の毛を撫で付けた
のだった。
「ロイさん、いらっしゃい。」
列車を降りて改札口をくぐった二人の前に立っていたのはハボックの弟のビリーだった。
「お久しぶりです、ロイさん。相変わらず綺麗ですね。」
口をあんぐりあけてビリーを見つめていたハボックだったが、ビリーがにっこり笑ってロイの手を握るに至って
ようやく我に返るとロイとビリーの間に割り込んだ。
「なんでお前がいるんだよっ!」
「なんでって、ロイさんを迎えに来たに決まってるだろ。」
「学校はどうしたっ、学校は?!」
「ああ、そんなもの」
ロイさんへの愛を前にしたら学校なんて、と平然と言ってのけるビリーにハボックが開いた口が塞がらないで
いると、ロイがくすりと笑った。
「久しぶりだね、ビリー。元気だったかい?」
「はいっ、もちろんですっ」
早く行きましょう、とさり気なくロイの肩に手を回そうとするビリーの脚をハボックは蹴飛ばす。
「いてっ!!何すんだよっ、ジャン!!」
「気安く大佐に触るんじゃねぇっ!!」
「俺はロイさんを案内しようとしただけだ。下心ありありのお前と一緒にすんなっ。」
「な、んだとっっ、お前っ!!」
ぎゃあぎゃあと人目をはばからず言い合う2人に、ロイが呆れて声をかけようとするより一瞬早く、ハボックの
後ろから綺麗な声がした。
「ジャン?」
「えっ?」
驚いて振り向いたハボックを見て、声の主が嬉しそうに笑う。
「やっぱり、ジャン!帰ってきてたのね。」
「あ、あれ?レティシア?」
親しげな態度の栗色の髪の美女の登場にロイが眉を顰めていると、ビリーがロイの腕をとった。
「行きましょう。」
「でも…。」
「親父達が待ってますから。」
そう言われてロイは仕方なしにビリーに促されるまま歩き出したのだった。
「じゃあ、こっちへは休暇で?」
レティシアに尋ねられてハボックは答えた。
「ああ、近くで結婚式があってさ、その帰り。」
そわそわと落ち着かないハボックにレティシアは笑って続けた。
「さっきの綺麗な人は?」
だれ、と聞かれてハボックはほんの少し顔を緩める。
「オレの上司のマスタング大佐だよ。」
そう言うとハボックはロイとビリーが消えた先を見やった。
「悪い、レティシア、オレ、行くわ。」
「暫くはこっちにいるの?」
「いや、2泊だけ。忙しいんだよ。」
じゃあ、と荷物を持って走り出すハボックをレティシアは黙って見送っていた。
「さっきの女性は誰だい?」
ロイはビリーと肩を並べて歩きながら言った。黒目勝ちな瞳が印象的な美人だった。『ジャン』と親しげに呼んだ
様子がどうにも気に触って、ロイは唇を噛み締める。
「ああ、レティシア・ガロアって言ってジャンとは幼馴染なんですよ。」
ビリーはそう答えて言葉を続けた。
「ちっさい時からジャンとは凄く仲がよくて、俺、ジャンとレティシアはずっと付き合ってると思ってたんですよね。」
「付き合って?」
「ええ、だから士官学校入る前にてっきり婚約くらいしてくのかと思ったら、ジャンのヤツ、全然そんな素振りも
見せなくて。後から思わずレティシアに付き合ってたんじゃなかったのってきいちゃったんですよね、俺。」
「彼女は何て?」
「笑っただけで何も教えてくれなかったです。」
ビリーの話にロイは酷く動揺する自分に気づいて小さく舌をならした。別にハボックがどんな相手と付き合って
いたことがあろうと自分には関係ない。そう思おうとすればする程ほど知らされた事実がしこりのように心に
引っかかって。
「あ、ほら。すぐそこが俺の家です。」
ビリーが指差す先を見つめて、ロイはレティシアのことを心から追い出したのだった。
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