運命は突然やってくる。 第七章
開始時間の合図と共に演習場に入った3人は恐る恐る辺りを見回す。木々が鬱蒼と茂ったそこは見通しが
利かず、目指す建物の姿も見えなかった。
「で、どうすんの、これから?」
カベーリが聞けばブレダが地図を広げた。
「オレ達がいるのは、ここ。A-8のすぐ近くな。で、目指すのはここ。」
「間にあるのは森ばっか?」
「あと、川が1本と崖。」
3人は頭をつき合わせて地図を覗き込む。
「ま、トラップに気をつけて進むしかないんじゃねぇの?」
ハボックがそう言えば
「まあな。」
とブレダが答えた。
「装備の確認は出来てんだろうな。」
そう聞いたブレダは残りの2人が無言で頷くのを合図に地図と磁石を頼りに森の中を歩き出した。あちこちで
鳥のさえずりが聞こえる森の中を殆んど足音を立てずに歩いていく。
「おい…」
とカベーリが囁いた途端、ハボックがスッと頭を下げた。ハボックの頭がさっきまであった場所をシュッと音が
して小さな銀色の弾のようなものが通り過ぎた。バッと3方に散るとブレダが木の陰から顔をだして辺りを
伺う。
「ハボ。」
「おうよ。」
敵を誘うように飛び出したカベーリを援護してブレダが銃を撃つ。2つの色の違うペイント弾が飛び交う中、
ザザッと微かな音と共にブレダたちの背後から回ったハボックが繁みの中へと飛び込んだ。ドゴォッと
鈍い音がしたと思うと大柄な3年生の体が吹き飛んでくる。ギョッとしたように一瞬やんだペイント弾の
出所めがけてブレダが思い切り拾い上げた棒を振り回した。
「グハッッ」
頭を抱えてよろよろと出てくる男にブレダは顔を顰める。
「やべ、やり過ぎたか…?」
倒れこむかと思ったその男ががばぁと襲い掛かってくるのにギョッとして、ブレダは思わず再び思い切り
ぶん殴ってしまった。どさりと倒れる男を横目にもう一人をのしてしまったカベーリが笑う。
「殺すなよー。」
「大丈夫だろ、いつもハボにこれくらいやってるぜ。」
そう言い合う2人を尻目にハボックは身をかがめると足元に転がった銀色の弾を拾い上げた。
「これ、ペイント弾じゃないじゃん。3年はこんなのも持ってんのかよ。」
ずりぃ、と呟くハボックの手からカベーリが弾を取り上げる。
「お前、さっきよくよけたな。」
「だって当たったら痛ぇもん。」
そう答えるハボックにカベーリが呆れた顔をしてブレダを振り返った。
「そういうヤツなんだよ。」
げんなりと答えるブレダと首をふるカベーリをおいて先に進んだハボックがのんびりした声を上げる。
「なー、早く行こうぜ。」
そんなハボックにやれやれと言わんばかりの表情を浮かべて、2人はハボックを追ったのだった。
その後も3組ほどの妨害者をやり過ごして3人は進んでいく。
「他のヤツら、どうしてるんだろうな。」
「さあな。」
「ヒューズ先輩のエゲつないトラップでやられてんじゃねぇの?」
ぼそりと呟くハボックにブレダが苦笑した。
「お前よっぽど普段ヒューズ先輩にしてやられてんのな。」
「だってさぁ、あの人!ちっともオレをマスタング先輩と話させてくれないんだぜ。」
毎日コーヒー淹れに通ってんのにっ、と喚くハボックをカベーリが胡散臭そうに見上げる。
「お前さぁ、なんで男がいいわけ?」
「男がいいわけじゃなくて、マスタング先輩がいいの!」
「そりゃ綺麗な顔してっけどさ。」
わかんねぇ、と呟くカベーリにハボックはツンとしてそっぽを向いた。そんな2人をどついてブレダが言う。
「おら、くだんねぇお喋りしてんじゃねぇよ。訓練中だろ。」
「気配ないもん。」
「なー。もっと襲ってくれればいいのに。」
お気楽な2人にブレダが顔を顰めた。
「お前ら…。」
「川、近いな。」
ブレダが文句を言おうとした時、ハボックがそう言った。耳を澄ませば微かに水の流れる音がする。木々の
間を抜けて尚も進んでいけば、目の前に突然川が現れた。その川の向こうに目指す建物が見える。
「…で?」
2人から問いかける視線を向けられてブレダが唇を尖らせた。
「少しはお前らも考えろよ。」
「頭は一個でいいのよ。俺らは手足。」
カベーリが言うのにハボックもうんうんと頷く。チッと舌をならしてブレダはそれでも口を開いた。
「川上に少し行ったところに橋があるんだけど。」
「そこを渡るのか?」
「…いかにも、なんだよなぁ。」
ブレダがため息混じりに言うと、カベーリが言う。
「俺が渡ってやろうか。」
「川の中?」
「橋が渡れないならそれしかないだろう?これくらいの流れなら何とかなるぜ。」
カベーリがそう言えばハボックも言った。
「じゃ、こっち側のお邪魔虫はオレが片すわ。」
「せいぜい派手に、な。」
ニヤニヤと笑う二人にブレダがため息をつく。
「お前ら見てるとマジメにやるのがアホらしくなる。」
「何ひとりでマジメぶってんだよ、ブレダ。」
唇の端をあげてそう言うハボックにブレダもにやりと笑った。
「ま、行きますか。」
「そうそう。」
3人は顔を見合わせると楽しそうに笑ったのだった。
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