運命は突然やってくる。  第六章


「で、今日の訓練結果見て、次の訓練メニューを作れって?なんで俺らが1年坊主の訓練メニューなんぞ…。」
「授業の一環だろ。」
ぼやくヒューズにロイがさらりと答える。嫌そうな顔で睨んでくるヒューズにロイはくすりと笑うと言った。
「で、どうだった?」
そう聞いてくるロイに、ヒューズはどさりと椅子の背に体を預けると答える。
「まあ、まだ入学して3ヶ月だろ、どんぐりの背比べの域を出ねぇな。」
「それだけじゃないだろ?」
悪戯っぽく輝く黒い瞳にヒューズがソッポをむいた。
「ヒューズ。」
「ああ、判ってるよ、お前のお気に入りのワンコな。」
「ハボックだろ。」
「あんなの、ワンコで十分だよ。」
嫌そうに言うヒューズにロイがくすくすと笑う。ヒューズはむすっとして腕を組むと言った。
「ま、アイツは結構使えるかもしれないな。」
この先次第だけど、と釘を刺すことも忘れないヒューズにロイは頷くと言う。
「で、スリーマンセル組ませるなら誰とにする?」
「そうだな、イヴァン・カペーリ。アイツは結構誰とでもソツなく合わせられるタイプだろ。ワンコについていける
 だけの体力もあるしな。」
「もう一人は?」
「今度はお前が言えよ。」
もう決めてるくせに、と言いたげなヒューズの顔にロイは苦笑すると答えた。
「ハイマンス・ブレダ。」
「だな。後の二人を上手く使える。」
ヒューズは手元の書類にチェックを入れるとぱらぱらとめくる。
「んじゃ、次ね。…なぁ、オレ達の担当って何人?」
「10組30人。大した数じゃないだろ。」
ぼやくヒューズにピシリとそう言うと、ロイは次々と名前を挙げていくのだった。

「それでは、今日はスリーマンセルによるミッション形式の訓練を行う。訓練場所はこの第5演習場。入口は10箇所
 あるゲートから好きな場所を選べ。ミッションの目的は演習場の真ん中に立つこの建物の3階に置いてある
 情報の入ったディスクを手に入れることだ。ちなみにこれは3年生の授業も兼ねている。演習場の中では
 3年生の仕掛けたトラップがいたるところにあるからな。勿論3年生自身の妨害も入ってくる。制限時間は
 日没まで。今日のミッションをクリアしたチームのメンバーは後期の試験を免除してやるからまあ頑張ることだ。
 それからもうひとつ、チームのメンバーが一人でも行動不可能になったチームはその場で失格だから。」
教官は渡された地図を見ながら話を聞いていた生徒達をぐるりと見渡した。
「何か質問は?特になければ15分後にミッション開始だ。各々ゲートにて待機するように。」
解散、の言葉とともに生徒達は同じチームに振り分けられた友人同士で思うゲートへと散っていく。ハボックは
ブレダとカベーリの顔を見ると言った。
「で、どこのゲートから入る?」
「まあ、一番行程的に楽そうなのはA-3ゲートだけどな。」
ブレダがそう答えればブレダより10センチほど低い位置からカベーリが言う。
「じゃあそこから行くか?」
「行程的に楽そうだからってホントに楽とは限らないじゃん。」
今度はハボックがカベーリより20センチ以上高い場所から言った。
「でもこれ、3年生がメニュー組んでるんだろ?そんなに難しいことないんじゃないのか?」
そういうカベーリにハボックが顔を顰める。
「3年ってことはあの人がいるだろうが、ヒューズ先輩がさ。」
「そんなに意地悪な先輩なのか?」
「そりゃもう、意地悪も意地悪!すんげぇ性格歪んでるし。」
ハボックが思い切り嫌そうにそう言えば普段から色々と話をを聞いているブレダが苦笑した。
「ハボ、そりゃかなり主観が入ってるぜ。」
「事実だもん。」
むぅと頬を膨らませるハボックを見上げてカベーリが言う。
「じゃどっから行くんだよ。」
そう言って辺りをぐるりと見回した。
「早くしないとみんな行っちまったぜ。」
「別に遠くに行かなくてもそこに入口あるだろ。」
そう言ってハボックが指差す先には確かにゲートがある。
「A-8?」
そう言ってブレダとカベーリは地図を覗き込んだ。そこはちょうど目指す建物の裏手にあたるのだが、建物に
近づく為には高い崖を登っていかなくてはならない位置にあった。
「超えられるのか、こんな崖。」
「でも、わざとこのゲート前で説明したのかもしれないな。」
心配そうに言うカベーリにブレダが言う。
「わざと?」
「ゲートはたくさんあるから好きなところを選べって言われたら、人間の心理としてまず場所を移動するだろう?
 しかもこのゲートからのルートは崖なんかもあって通りにくそうだしな。」
「なるほど…。」
うなずくカベーリの肩を叩いてハボックが言った。
「じゃ、ここからにしようぜ。ブレダがそう言うんだし。」
「ああっ?お前、俺の所為にする気か?」
「そうじゃなくて。」
とハボックが笑う。
「ブレダの方が考えんの得意だから。」
「だな。」
ハボックがそう言えばカベーリが相槌を打つ。2人の言葉に目を瞠ったブレダは照れくさそうに視線を逸らすと
行くぞと2人を促す。かくして3人はA-8ゲートの前に立ち、ミッション開始の時間を待つのだった。

「1年共の様子はどうだ?」
ヒューズは部屋に入ってきたロイに向かって聞く。ロイが投げて寄越したメモに目を走らせるとヒューズは顎に
手を当てて言った。
「殆んどがA-3、A-4ゲートか。」
「そこが一番簡単そうに見えるからな。」
「単純だなぁ。」
「仕方ないだろう、経験不足なんだから。」
ロイがそう言えばヒューズが答える。
「入った途端に7割、いや8割は脱落、かな。」
「お前のえげつないトラップでな。」
ロイが苦笑して言えばヒューズが済まして答えた。
「気の利いたって言ってくれ。」
ヒューズはそう言ってメモにもう一度目を落とすと、眉を跳ね上げる。
「ひとチーム、A-8から入ってる。」
「ああ。」
嬉しそうに答えるロイを見てヒューズが嫌そうな顔をした。
「ワンコか…。」
ヒューズはそう呟いてギシリと背もたれに寄りかかる。
「ま、お手並み拝見と行こうか。」
そんなヒューズにロイが楽しそうに笑った。


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