運命は突然やってくる。 第十一章
「1階で暴れてるやつがいる。」
ヒューズが至極不満そうにインターコムのスイッチを切りながら言った。それを聞いたロイが嬉しそうに微笑む。
「やっと来たか。」
ロイはそう言って立ち上がると窓辺に立った。
「結局ここまでたどり着いたのは何組なんだ?」
「ゲートくぐったばかりのところで30組中18組がリタイア。その後この建物にたどり着く前に9組、建物の入口を
入ったところで2組がリタイア。」
ヒューズはメモを繰りながら答える。そうして酷く楽しそうなロイの顔を見て益々眉間の皺を深くした。
「ヒューズ、そんなに眉間に皺を寄せていると取れなくなるぞ。」
「お前こそそんなにニヤニヤしてたらしまりのない顔になるぜ。」
ロイの言い分にそう返したヒューズはメモを放り投げる。
「結局あのワンコかよ。」
「お前だってあのチームだと思ってたんだろ?」
そう言われてヒューズはむうと唇を突き出した。
「まあな。今年のルーキーの中じゃあの3人が一番見込みがありそうだからな。だから組ませたんだろう?」
ヒューズの言葉にロイは「ふふふ」と笑う。
「すぐここまでやって来るかな。」
「さあな、2階にはちょっと手のかかるヤツ置いといたけど。急がないと日没コールドだろ?ここまで来てコールド
じゃ泣いても泣き切れないわな。」
そう言って二人が窓の外を見やれば陽はもうだいぶ傾いてきていた。
「ま、最後まで楽しませてくれよ。」
ヒューズがにやりと笑ってそう言うとロイが苦笑する。
「お前が相手じゃ可愛そうに。」
あんまり虐めるなよ、と言うロイにヒューズが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ちょっと待てっ!あんな人間、いんのかよっ?!」
2階に上がった途端、目の前に現れた聳え立つ岩のような男にあわや吹き飛ばされそうになるところを必死
にかわしたカベーリは書棚の影に身を潜めて怒鳴る。
「今目の前にいるじゃん。」
そう言うハボックの頭をガツンと殴るとブレダに向かって言った。
「どうすんだよ、あいつ倒さないと上に行けないぜ。」
「図体がでかい分スピードが遅いってことはないか?」
ブレダは顎に手を当てて考えながら答える。そうして頭を撫でている長身の友人の顔を見た。
「ハボ。」
「はいよ。援護頼むわ。」
ハボックはそう言うと書棚の間をスススと抜けて大男の後ろへと回っていく。ハボックが配置についたと見るや
カベーリが隠れ場所から飛び出した。
「このおっ、デカブツッ!!」
銃を構えペイント弾を打ち込むカベーリに、手近にあったキャスター付きのホワイトボードを盾にすると大男が
ニヤニヤと笑いながら襲い掛かってくる。たちまちボードと書棚の間でカベーリが押しつぶされそうになった時、
大男の背後からパイプを持ったハボックが殴りかかってきた。
「もらったぁっ!」
ビュッと風を切って大男の頭に向かって振り下ろされたパイプが当たったと思えたが。
ガツンッ!
鈍い音がして男の腕がパイプを弾き飛ばしていた。
「うわっ…」
パイプと一緒に弾き飛ばされかけたハボックに男の腕が伸びる。ガシッと足首を掴まれ、そのままの勢いで
ハボックは書棚に叩きつけられた。
「ハボッ!」
書棚に叩きつけられた衝撃でふらつくハボックを男の拳が追ってくる。ハボックはすんでのところでそれを
かわすと、自分の肩越しに抜いた背後の本を男の顔に思い切り叩きつけた。男の動きが一瞬止まった隙に
ハボックは背後へと飛び退り書棚の間に逃げ込む。弾む息を整えながらハボックはブレダに向かって言った。
「ちっとも遅くないじゃんっ!」
「遅いかもって言っただろっ!」
ハボックに責められてブレダが言い返す。そんな2人にカベーリが言った。
「言い争ってる暇はねぇよ。マジ、時間ないぜ。」
言われて時計を見れば日没まであと1時間を切っている。
「3階に上がったってすぐディスクがあるわけじゃないんだろ?もういい加減上がらないとマズイ。」
「誰か囮になるか?」
「3人一緒に行かないと意味ないんだぜ。」
3人は顔を見合わせて押し黙った。ハボックが並ぶ書棚を見ながら言う。
「なあ、あれ、下が固定してあるのか?」
結構高さあるけど、と聞かれてブレダが答えた。
「少なくともあのスライド式になってる棚は固定してないだろう。」
「カベーリ、お前、あの棚のてっぺんに飛びつけるか?」
「へ?ああ、できると思うけど。」
「じゃ、そういうことで、オレが囮でブレダが援護な。」
そう言うハボックにカベーリが顔を顰める。
「コイツ、絶対隊長にむかねぇよなぁ。これで判る部下がいたら会ってみたいもんだよ。」
「ま、とにかく今は時間ないんだから。」
苦笑するブレダにカベーリは肩を竦めると目指す棚の後ろへと回っていった。
「ハボ、一緒に下敷きになるなよ。」
「努力しま〜す。」
のんびりとした返事とは裏腹にハボックはスピードをつけて飛び出していく。目の前に出てきたハボックを追おう
とする男に向かってブレダはペイント弾を打ち込んだ。物凄い反射神経でそれをよけると、男は煩そうにブレダ
を睨みペイント弾を打ち返してきた。
「うひゃっ」
慌てて書棚の影に引っ込んだブレダにはもう構わず、男はハボックに向かって襲い掛かってくる。ハボックは
軽くバックステップして男の腕を避け、そのままバック転の要領で距離を取った。
「このっ、ちょこまかとっ!」
男が吠えてハボックを追う。ハボックは男の腕が届かないギリギリのところを飛び退りながらカベーリのいる
書棚へと進んでいった。
「待てっ!」
「冗談っ!」
そう叫んでハボックは男の攻撃をかわして書棚に背を当てた。逃げ場のないその様子にニタリと笑った男が
ハボックに襲い掛かろうとしたその時。
グラリと男の背後の棚が傾いだかと思うと大量の書籍ごと男の上に倒れこんできた。
「っっ!!!」
ガシャ―――ンッッ!!ドザザザザッッ!!!
凄まじい音と埃が収まったときには、倒れた棚と大量の書籍の上にカベーリが乗っかっていた。
「ハボっ!無事かっ?」
ブレダが駆け寄ってくるのに、書棚にへばりついて難を逃れたハボックが片手を上げる。カベーリは本の
上をよたよたと渡って二人の側に来ると倒れた書棚を振り返った。
「死んでないよな…?」
「殺しても死なねぇよ、アイツ。」
「殺したら普通死ぬだろ。」
そんなことを言い合って顔を見合わせるとニヤリと笑う。パンッと手を合わせるとブレダが言った。
「よし、あと一つ!」
3人は頷き合うと最後の階段へと向かったのだった。
→ 第十二章