運命は突然やってくる。  第十章


とん、と言う軽い音とともに3人は次々と貯蔵庫の床に飛び降りた。下りたと同時にあたりに積み上げられた
樽の陰に身を潜める。何も言わぬうちにブレダの側に寄って来た2人にブレダが言った。
「ここは建物の中では地下2階に当たるんだ。1階のこの一番奥のトコに厨房がある。その厨房までこの貯蔵庫
からリフトが通ってる。」
「それに乗っていくのか」
カベーリが聞けばブレダが首を振った。
「乗って行きたいのは山々なんだけど…。」
「何?何か問題でも?」
「重量のマックスが30キロなんだ。」
ブレダの言葉にハボックとカベーリが顔を見合わせる。
「お前でもムリだな。」
「当たり前だ、バカ。」
カベーリに睨まれてもどこ吹く風のハボックはブレダに向かって言った。
「乗れないにしろ、そのリフト使うのが一番近道じゃないの?」
「乗れなくてどうやって使うんだよ。」
と横から口を出すカベーリにブレダが答える。
「俺もリフト使うのが一番だと思う。」
「はあ?」
訳がわからないと言う顔をするカベーリにブレダが説明した。
「リフトの箱には乗れないけど、通路としては存在するわけだろ?上に上がりたいんだからあちこち回っていく
 よりはまっすぐ上がった方が手っ取り早い。」
「また腕力勝負かよ…。」
ウンザリした顔をするカベーリの肩を叩いてハボックが笑う。
「ま、うだうだ言っても仕方ないんだし、さっさと行こうぜ。」
うへぇと返事をして、それでも3人は目指すリフトへと近づいていく。時折なにやら備品を取りに来たのであろう
人間をやり過ごして、3人はなんとかリフトの前に立った。
「小せぇな。」
「そりゃ物品運搬用であって、人間用じゃないからな。」
ブレダは小柄なカベーリを見て言う。
「リフトの中に点検孔があると思うんだ。そいつを開けてくれるか?」
「オッケ。」
カベーリは頷くと狭い扉の中に体を滑り込ませる。暫くするとガコンと音がしてカベーリがリフトから顔を出した。
「開いたぜ。」
「よし、ハボ?」
「詰まったらどうしよう…。」
「そこまで狭くねぇよ。」
苦笑交じりにカベーリに言われ、ハボックは仰向けになりながらリフトに体を滑り込ませる。既にリフトの天井部
にあいた点検孔の中からリフトの上にあがっていたカベーリの手を借りて、なんとかリフトの上へと体を引き上げた。
「ブレダ?」
「おう。」
ブレダは答えてハボックと同じようにしてリフトの上に上がった。上を見上げれば数十メートル上までリフトの
ロープが繋がっている。
「よし、チャッチャといくぞ。」
カベーリはそう言うとロープに飛びつきするすると上がっていく。そんなカベーリの後姿を見送りながらハボックが
言った。
「なぁ、やっぱ3人一緒にいかないと拙いわけ?も、いっそのことカベーリに任せるって言うのはダメなのかね。」
「答えは判っていて聞いてるんだよな。」
ブレダに冷たく言われてハボックはため息をつく。
「言ってみただけだろ。で、またお前が先?」
「おうよ、落ちた時はまた頼むわ。」
「次はよけるって言ったろ。」
そう言うハボックににやりと笑うとブレダはロープに手をかけた。カベーリ並みとまではいかないまでも、それでも
順調にロープを上がっていく。ハボックはブレダがある程度進んだところで自分もロープに手をかけた。なんとか
2階分、ロープを伝って登ると、ブレダとカベーリの手を借りてリフトのダクトからすべり出る。
「そんじゃ後はスピード勝負。」
「待ってました。」
にんまりと笑うハボックとカベーリをブレダはちょっとばかり心配そうに見る。
「やりすぎんなよ、あくまで課題なんだからさ。」
「あー、大丈夫、大丈夫。」
「なー。」
あくまで楽しそうな2人にブレダはこっそりため息をつくと、腰から引き抜いた銃のペイント弾の数を確かめる。
「よし、Ready?…Go!」
その掛け声とともに3人は隠れていた場所から飛び出していった。ハボックとカベーリが驚いて振り向く男たち
を瞬く間にのしていく。ハボックは手近にいた男の鳩尾に重い一撃を食らわせると崩れ落ちるその頭を飛び越えて
その勢いのまま次の男に向かってエルボーを食らわす。伸びてきた腕を捻り上げて床に叩きつけるとカベーリの
方を見た。
「カベーリ!あたまっ!」
ハボックの声にカベーリが咄嗟にしゃがみ込む。一瞬前までカベーリの頭があった所をハボックの放ったペイント弾
が走りぬけ、その先にいた男の胸元を染めた。
「てめぇっ、危ないじゃねぇかっ!」
「ちゃんと教えてやったろ。」
「よけらんなかったらどうするつもりだったんだっ?」
一人でもリタイアしたらアウトなんだぞ、と牙をむきながら殴りかかってきた男をよけてその後頭部に思い切り
拳を叩きつけてカベーリが言う。
「よけたんだからいいじゃん。」
ハボックはそう答えながら長い脚を振り回した。その脚になぎ倒されて数人がぶっ飛ぶ。
「俺はお前と違って野生の勘はないの。」
「そうかぁ?」
呑気に言葉を交わしながら相手をのしていく2人の姿を数メートル離れたところから見つめながらブレダは顔を
顰めた。
「2人とも十分野生の勘だって…。」
そう呟くブレダにさっさと階段までたどり着いた2人が手を振る。
「ブレダぁ、早く行こうぜっ」
「…おうっ」
ブレダは2人の元へ走り寄ると2階への階段に脚をかけたのだった。


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