| 能ある鷹は爪を隠す 前編 |
| 「たいさっ、メシ出来ましたよッ!」 ハボックはリビングに向かってそう声をかけるとテーブルの上に皿を置く。湯気を立てる皿にはごろごろと野菜の入った アツアツのシチュウがよそってあった。ハボックは冷蔵庫からよく冷やしたトマトのスライスを取り出すとお手製のドレッシング も出す。丁度ダイニングの椅子についたロイの前に置くと言った。 「このドレッシング、オレが作ったんスよ。結構旨いと思うんスけど」 そう言ってニカッと笑うハボックにロイも笑って頷く。バターをたっぷり塗った焼きたてのパンを載せた皿を受け取ると「いた だきます」と言って食事を始める。ハボックが旨いと自信ありげに言ったドレッシングをかけてトマトを食べると言った。 「ああ、旨いな、これ。油っぽくないし、塩加減も丁度いい」 「でしょう?もっと食ってください」 嬉しそうに言うハボックに勧められるままロイは食事を続けていく。そんな自分を見つめるハボックが酷く楽しそうなのを 見ることで、ロイ自身もウキウキと楽しくなるのを感じていたのだった。 「お前さ、大佐にメシ作ってるんだって?」 昼休み、向かいの席に座ったブレダがプカリと煙を吐き出しながら聞く。ハボックも同じように煙を吐き出しながら答えた。 「ああ、そうだけど。」 「お前、メシなんて作れたのか?」 疑いの眼差しでそう言うブレダにハボックはムッと唇を突き出す。 「失礼なヤツだな。そりゃ、すっげぇご馳走なんかは作れないけどさ、結構上手いんだぜ、オレ」 「お前が包丁持つところなんて想像つかねぇぞ」 そんなハボックの姿を思い浮かべようとしているのか、ブレダが宙に視線を彷徨わせた。 「まあ、レストランのコックみたいにゃいかねぇけど…。でも、大佐、メシ作れねぇし、ほっとくと本ばっかり読んでて、メシ 抜いたりするから」 だからオレが面倒見ないと、と拳を握り締めるハボックにブレダが言う。 「大佐、ホントにメシ、作れないのか?錬金術師って結構器用そうじゃん」 「錬金術と料理は別もんだろっ?」 「そうかぁ?大佐ならチャッチャと作っちまいそうだけどな。お前が作れないって思い込んでるんじゃないのか?」 ブレダにそう言われてハボックは眉を寄せた。 「で、でもっ、大佐がメシ作るところなんて見た事ねぇし、それに、オレがメシ作りましょうかって聞いた時、喜んだんだぞ」 「作んのがめんどくせぇだけじゃねぇの?」 そう言ってあくまで「大佐料理できます説」を変えようとしないブレダにハボックは思い切り顔を顰める。 「作れないっつったら作れないんだよっ!」 そう声を荒げて言ってからハッしてブレダを見た。 「まさかお前もオレにメシ作って欲しいとか言うんじゃ…」 「言うかよっ!オレはまだ命が惜しい」 「ハアッ?!オレの作るメシがそんな物騒なもんな訳ねぇだろっ!」 そう言って二人が睨みあっている所へホークアイが司令室に入ってくる。険悪な空気を撒き散らす二人にホークアイは 呆れたように言った。 「何を言い合ってるの、二人とも」 「だって、中尉。ブレダのヤツ、オレが作ったメシ食ったら腹壊すってなこと言うんスよっ?」 「大雑把なお前の料理じゃそんなもんだろうって事実を言っただけだろ」 「んだとぉ!」 再び言い争いを始めそうな二人にホークアイがウンザリと言う。 「いい加減になさい!もう昼休みも終わりよ。くだらない言い合いをしてる暇があるなら仕事してちょうだい」 ビシリとそう言われて二人は口を噤んだ。不満そうなハボックにブレダが小声で言う。 「だったら今度俺にメシ食わせてみろよ。そうしたら信じてやる」 「おうっ、旨くて驚くなよっ」 こそこそとそう言い合う二人にホークアイはため息をついたのだった。 ハボックは書類を手に席を立つと執務室の扉を叩く。返事を待たずに入っていけば、書類を書いていたロイが眉を顰めて 顔を上げた。 「おい、いつも言うだろう?返事を聞いてから入って来いと」 「でも、ダメって言ったこと、ないじゃないっスか」 ハボックはそう言いながら机に近づくと持っていた書類を差し出す。 「これ、あと10分後が締め切りなんスけど」 「…おい」 にへらと笑うハボックをロイは睨んだが、ひとつため息をつくとサッと目を通した。サラサラとサインをしたためるとハボックに 返す。「どうも」と受け取るとハボックはロイに言った。 「お詫びに今日は大佐の好きなもん、作りますよ。何がいいっスか?」 「そうだな…。それじゃあパスタがいいな」 「アンタ、パスタ好きっスねぇ。まあ、簡単でいいっスけど」 「あと、この間のトマトサラダ。あのドレッシングは旨かったな」 ロイがそう言えばハボックが嬉しそうに顔を輝かせる。 「んじゃ、今夜はパスタとトマトサラダっスね!了解っス!」 「ああ、楽しみにしてる」 その言葉にハボックはますます嬉しそうに顔を綻ばせた。 「頑張りますっ」 そう言ってピッと敬礼すると、ハボックはスキップするような足取りで執務室を出て行ったのだった。 楽しそうなハボックをブレダは胡散臭げに見上げる。その視線に気付いたハボックはフフンと顎を突き上げると言った。 「大佐、オレの料理、楽しみにしてるってさ」 「…そりゃよかったな」 「さあ、今夜も腕、振るうぞっ!」 そう言うとウキウキと書類を持って司令室を出て行くハボックに、ブレダは肩を竦めたのだった。 定時で仕事を終えたハボックは夕方の買い物客で賑わう市場で買い物を済ませるとロイの家に向かう。先に家に戻って いたロイに迎え入れられるといつものように台所に入った。 「今日はカルボナーラっスよ。アンタ、卵、好きでしょ?」 上着を脱ぎ捨てると手を洗いながらハボックが言う。自分の好みに合わせてメニューを考えてくれたハボックにロイは 嬉しそうに笑って頷いた。 「何か手伝えることがあるか?」 そう尋ねればハボックが呆れたように言う。 「何言ってるんスか。アンタ、包丁持ったことなんてないんでしょ?いいっスよ、座って待ってて下さい」 「そうか?」 ロイはハボックの言葉に素直に従うと椅子に座って本を広げた。そんなロイを見て笑うと、ハボックは早速料理に取り 掛かったのだった。 「できたっスよ!」 ハボックがそう声をかければロイがいそいそとダイニングへと顔を出す。いつものように嬉しそうに食事に手を伸ばすロイ を見ていたハボックだったが、ふと昼間のブレダとのやり取りを思い出して尋ねた。 「ねぇ、大佐。大佐って料理は出来ないんスよね…?」 何となく不安げな声の響きにロイは思わずハボックの顔を見つめる。縋るような視線にロイはひとつ瞬くと答えた。 「ああ。だからお前が作ってくれてるんだろう?」 そう言えばハボックがホッとしたように笑う。 「そうっスよね。はは…ブレダが大佐、料理くらい出来んじゃねぇかって言うもんスから」 ちょっと気になっちゃって、と苦笑するハボックにロイも笑った。 「お前のように器用じゃないからな。面倒だとは思うがこれからも作ってくれると嬉しいんだが」 「勿論っスよ!大佐の食事はオレに任せて下さいっ!」 胸を叩いてそう言うハボックにロイはにっこりと笑ったのだった。 |
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