in a fit of jealousy  前編


「も、ヤダっ…はなし…っ」
逃れようともがく細い体を引き戻して。
この人を自分以外の誰かが抱いたのだと思うと、昏い嫉妬が心を苛む。
それよりもこうして抱いているオレを大佐がソイツらと重ねて見ているのではないかと、それだけが心配で堪らない。
戦場で強引にこの人の体を引き裂いたそんなヤツらとは違うと、オレがどれだけこの人を思っているか判ってほしくて
オレは大佐の体を乱暴に突き上げた。
「あ、アア―――ッ!!」
仰け反る大佐の瞳から涙の滴が舞う。舞い散った水滴がシーツに吸い込まれるのすら惜しくて、この人の全てを
自分のものにしたいと思っている自分がいる。この人の過去も未来も全て手に入れたい。大佐の体に足跡を残した
全ての男たちの痕を消し去って自分だけで染め上げたくて。
「たいさ…たいさ…っ」
「う…ふ、あ…っ…くるし…っ」
涙に濡れた顔を掌で撫でて、苦しい息を吐き出す唇を強引に塞いだ。大佐の手が力なくオレの肩にすがる。もう、
一体どれほど達したのか、お互いの下肢は大佐が吐き出したもので濡れそぼり、繋がる部分からは含みきれない
白濁が体の動きに合わせてぐちゅぐちゅと零れてきた。それでも大佐を放すことが出来ずにオレは細い体を貪り
続けた。

意識を飛ばしてぐったりと沈み込む体から己を引き抜く。びくりと震えた大佐に気がついたのかとその顔を覗き
込んだが閉じられた目蓋から漆黒の瞳が覗くことはなかった。オレはゆっくりと身を起こすとのろのろとジーンズを
穿いた。投げ出された下肢を押し開くと、奥まった箇所へ指を差し入れ散々解き放ったものを大佐の中から掻き
だしていく。そうして出されることがなんだか決してオレ自身を受け入れてはくれないこの人の意思のように感じて、
オレはため息をついた。
こうして大佐と肌を合せるようになったのはいつからだったろう。好きだと告げたオレを受け入れてくれた事に舞い
上がっていたのは、ほんの最初のうちだけだった。何の拍子にか、この人がレイプ紛いにイシュヴァールで抱か
れた事を知り、息が止まりそうなほどの嫉妬と自分もその男たちと同じ目で見られているのではないかという恐怖に
苛まれるようになった。それをかき消したくて、手酷く抱いてしまうのを止められない。大佐の顔からオレに対して
笑顔が消えるのに時間はかからなかった。こんなことではいけないと頭では判っていても、どうしたら自分の想いを
大佐に伝えられるのかが判らない。結局は乱暴に抱いては傷つけることの繰り返しで。伝えられないもどかしさと、
判ってくれない大佐に対する苛立ちとで大佐との関係は悪くなる一方だった。

綺麗に清めてやって服を着せてやると、オレは大佐の体にブランケットをかけてやった。白い小さな顔。瞳を閉じた
その顔は妙に幼くて、とてもこの人がアメストリス軍の国軍大佐で世に名高い焔の錬金術師だとは思えなかった。
いっその事、どこか誰も来ない所に閉じ込めてオレ以外の何にも触れさせず、目に入れさせず、口を聞くことも赦さ
なかったらこの胸の昏い焔は消えるのだろうか。いっその事、こうして眠るこの人を一息に殺してしまったら―――。
甘い誘惑に首を振ると、オレは大佐を残して部屋を出て行った。

「大佐、あと15分で橋梁工事の視察です。」
執務室で書類にペンを走らせる大佐に声をかける。大佐は「ああ」と頷いただけで、ちらりとも視線を上げなかった。
その黒い瞳がどうしても見たくて、オレは部屋の中へ入るとデスクの前に立った。書類に落ちた影に、大佐は不満
そうに顔を上げる。
「なんだ?まだ時間はあるんだろう?」
そう言う大佐の顎を掴むと、オレは強引に唇を塞いだ。次の瞬間、思い切り振り払われてずきりと胸が痛む。
「よせ。仕事中だろう。」
大佐はそう言って責めるようにオレを睨むと書類に目を戻した。オレはそんな大佐に唇を噛み締めると逃げるように
執務室を後にした。

「…以上が今回この橋の工事に当たって新しく取り入れられた工法です。」
中年の監督官が自慢げに大佐に説明するのを半歩後ろで聞きながら、ちらちらと大佐の顔を窺う監督官をぶん殴り
そうになるのを必死に押さえる。ああ、この人をベールで覆って誰の目にも触れられないように出来たらいいのに。
「ハボック。」
嫉妬に心を支配されていたオレは、大佐に声をかけられて視察が終わっていた事に気がついた。「すみません」と
小さく呟くと、オレは大佐を車へと連れて行った。途中、監督官からだと言ってなにやら包みが届けられる。大佐は
受け取れないとつき返していたが、それでもオレの嫉妬を掻きたてるのには十分で。司令部に向かって走らせて
いた車を狭い路地に入れると、オレは運転席を出て後部座席へと回った。
「ハボック?」
不安そうに見上げてくる大佐を見つめてオレは言った。
「視察、早く終わったから、時間あるでしょう。」
そうして大佐の体をシートに引き倒す。
「ハボックっ!」
嫌がる体を押さえつけて、ズボンを引き摺り下ろすと自分の唾液で濡らした指を大佐の後ろにねじ込んだ。
「ひぅっ」
びくっと強張る体に構わず乱暴にかき回すと、己を取り出しひくつくソコへ押し当てる。
「イヤだっ」
オレを押し返そうとする腕を一まとめにしてシートに押さえつけると、オレは一気に大佐の中へ体を進めた。
「あああっっ」
悲鳴を上げる唇を自分のそれで塞いで乱暴に突き上げる。大佐の手がオレの軍服を皺になるほど握り締めた。
「たいさ…スキ…ッ」
呻くように囁いたオレに、大佐はただ突き上げられるままにぼんやりと宙を見つめていた。

そうやってただ体を繋げるだけの日々が続いて。オレの大佐への想いは届ける相手を見つけられないまま宙に
漂っている。そうして漂い続けた想いにいつか呼吸すらままならなくなっていくような気がして、オレは出口を見つけ
られずにただ呆然と立ち尽くしていた。

「よお、少尉。」
オレを呼ぶ声に振り向けば、セントラルにいるはずの大佐の親友がにやにやと食えない笑みを浮かべて片手を
上げていた。
「中佐。こっちに来てたんスか?」
「おお、野暮用でな。」
「野暮用で出張に出られるほどセントラルってのは暇なんスね。」
オレの言葉に「可愛くねぇ」と顔を顰めると、中佐はオレの耳元に囁いた。
「で、ロイとはその後どうなってるんだ?」
ただ一人、オレと大佐の関係を知っている中佐は半ばからかう様にオレに聞く。きっと惚気でも期待していたのだろう
その顔に、オレは返す言葉がなくて視線を逸らした。
「おい、まさか上手くいってないのか?」
そんなオレの様子に、中佐が心配そうな声を上げた。オレは唇を歪めて笑うと中佐に聞く。
「中佐はイシュヴァールで大佐に何があったか知ってるんでしょ?」
そう聞かれて中佐は目を瞠ったが、オレを睨むように見つめると言った。
「知ってたらどうなんだ?お前、そのことでロイを責めたのか?」
もしそうなら赦さないと言外に匂わせてそう聞いてくる中佐にオレは首を振った。
「大佐はオレのことどう思ってるのかな。」
そう呟くオレに中佐が目を見開く。
「オレもソイツらと同じだと思ってんのかな。大体大佐って、オレのことスキなのかな。」
そう言うオレをじっと見つめて中佐は口を開いた。
「そんなことは今ここで俺に言わずに、直接ロイに言ったらどうなんだ?」
そう言われてオレは自嘲気味に笑った。
「そんな勇気、ないっスよ。拒絶されたらどうしていいかわかんないっスもん。」
「お前な…。」
中佐は呆れたようなため息をついて言葉を続ける。
「そう言う事を話さなくてどうするんだ。ロイが好きなんだろう?」
そう聞かれて弾かれたように顔を上げた。
「好きっスよ。どこの誰かもわからない相手に嫉妬するほど好きっス。大佐がレイプされたって聞いてからこっち、
 もう、どうしていいのかわかんないくらい、大佐のことしか頭になくて…っ」
「レイプってのとはちょっと違うがな。」
中佐の言葉にオレは口を閉ざした。
「確かに同意の上じゃなかったが、アイツらはアイツらなりにロイが好きだったってことさ。いつ死んじまうかわから
 ない戦場で、死ぬ前にどうしても思いを伝えなくてはと追い詰められるくらいに。」
「でも、無理矢理やったんでしょ?だったら…。」
そう言いかけて、最近の自分はどうだったのだろうと思い至る。ソイツらと自分と何が違うのか、むしろ、自分の方が
よっぽど大佐に酷い事をしているのではないだろうか。
「何があったのか知らんがな。」
と中佐はオレに向かって言った。
「きちんとロイと話せ。ロイが好きならちゃんと誠意を尽くすべきだろう?」
中佐はそう言うと、オレの肩をぽんと叩いた。
「お前に告白された時、ロイ、嬉しそうだったんだぜ。ああ見えて本気の相手にはなかなか素直に自分を出せない
 ヤツだから、誤解されるかも知れないけどな。」
中佐はそう言って「ま、頑張れや。」と手を振っていってしまう。オレは中佐の背を見送りながら、今すぐに誰よりも
大切なあの人に会いたいと思っていた。


→ 後編