Aggressive 3 |
亮水瀬 |
「もっと脚を開け」 「………ッ」 ハボックはヒューズに言われるまま洗面台に身を乗り出すようにしてもたれ掛かると、躊躇いがちに裸足の脚を広げた。既に腕を縛めていた飾り紐は解かれ、上着もボトムも鏡の横の棚に畳んで寄せられている。邪魔な靴も脱がされた。 「もっとだ」 「少佐ぁ……ッ」 足元に屈みこんだ男に双丘を左右に割り開かれ、ハボックは羞恥に頬を火照らせながらおずおずと膝を緩めた。 「 ─── ッ、」 ヒューズの熱い吐息が奥まった蕾に掛かって、彼はびくんと身を震わせた。この先に来るものを予想して、無意識に身構えてしまう。 「ガチガチだな…力抜けよ。これじゃ指も入らねえだろ」 「ひゃあっ!」 濡れた生温かい舌が秘部を這い回る感触に鳥肌が立つ。だがぞわりと身の内に湧き上がったのは悪寒ではなくもっと別の何かだ。ハボックはギュッと眼を瞑ってきつく洗面台の縁を握り締めた。 男はハボックの躊躇いなど全く斟酌せず、無遠慮に恥部を舐め回す。慎ましく閉じている下の口を舌先で突き、細かな襞を丁寧に辿りながら頑なな蕾を揉み解していく。時折肌に擦れる短い髭の感触がまたたまらなかった。 「…あ、ンッ…、やぁッ…!」 震えて躊躇う蕾が徐々に解れ、柔らかく綻んで甘く息衝く頃になると、ヒューズはもっと大胆に蕾を割って内部に舌を捩じ込んできた。 「ひゃんッ!……中、やだッ…舐めないでッ…!」 こうして直接そこを舌で愛撫されるのは初めてではなかったけれど、何度されてもこの異様な感触には慣れることが出来ない。まるで小さな軟体生物が躯の奥に潜り込んできて内部を這い回っているような錯覚に陥って、ぐうっと吐き気が込み上げる。だが躯は確実にその刺激を快感として受け取っていて、じゅわりと前の楔が蜜を零し始めた。 「濡らして解さなきゃそれこそ流血沙汰だろ。お前がこれ苦手なのはわかってるけど、我慢しろ」 「あ、あ、あっ…、だって……ッ」 むずがるように頭を左右に振って異様な快感に耐えるハボックはひどく艶かしかった。ぴったりした黒いシャツを胸の辺りまでたくし上げられ、胸から引き締まった下腹と剥き出しの腰までが明るい照明の中はっきりと鏡に映し出されている。そうして脚の付け根の淡い叢から、すっかり形を変えた若い性器が苦しげに震えながら勃ち上がっていた。 「やっ…!…だ、めっ……出ちまうッ!」 唾液を流し込み、ぬめぬめと内部を舐め回す舌の刺激に耐え切れず、ググッと楔が膨れ上がった。慌てて右手で根元を抑えたが、その手を後ろから伸びてきた男の腕に引き剥がされてたまらず悲鳴を上げる。 「いいからいっぺんイッとけ」 「あ! アアアアッ!」 軽く扱かれただけで若い欲望はあっさりと音を上げた。ビュビュッと白い軌跡を描いてハボックの吐き出した欲が洗面台に迸る。勢い余った飛沫が幾つか鏡面に飛び散って白い跡を残した。 「くくっ…こっちもしっかり開発されてきたな。最初の頃は気色悪がるばっかりで、下の口でなんか全然感じなかったろ? 心配しなくても今のお前ならちゃんと俺のを受け入れられるよ」 「う、くっ……あんた、ひでぇよ…ッ」 洗面台に飛び散った欲の証しは白い陶器の上でもはっきりと見分けられて、ハボックは羞恥にぽろぽろと泣き出してしまった。 「ああ、泣くな。まるで俺が無理矢理犯してるみてえじゃねえか」 「無理矢理っしょ! 俺、嫌だって言ってんのにッ…」 逐情のショックと男の強引な行為への不満が混じり合って嗚咽を漏らすハボックを胸に抱き寄せて、ヒューズはあやすようにその背をやさしく撫でさすった。 「お初がこんな所ですまねえな、ハボック」 さすがに出先のトイレというのはヒューズも想定外だったらしく、彼は申し訳なさそうに頭を掻いた。だがここで引く気は全く無いらしい。 「…そう思ってんなら、もう止めてください」 「ダーメ、絶対ヤる。だからお前も覚悟決めて協力しなさい」 「少佐ぁ…っ」 「そうそう、さっき中庭でお前にコナ掛けてきた男だけどな、ムカッ腹立ったんで手刀で気絶させてズボンとパンツ引っぺがして植え込みに突っ込んできたわ。今頃藪蚊に刺されながら出るに出れずに往生してるだろうぜ」 「は?……あ、あんた…」 ヒューズに中庭での遣り取りを見られていたのはさっきの会話でわかったが、まさかそこまでしたとは思っていなかった。いつになく激しい妬心を見せる男に、ハボックはくすぐったさと戸惑いでどうしていいかわからずその胸に頭を擦り付けた。 「あんなの大した事ないっすよ。俺、自分で何とでも出来ますって」 「んなこたぁ、わかってる。わかってるけど、我慢できねえんだっ……あの男、こんなもん持ってやがった。ヤル気満々でな」 ヒューズは腹立たしそうにポケットから取り出したチューブを見せた。 「これ……」 それが何かくらい、奥手のハボックにもすぐわかった。女の子との交際にはあまり出番のない潤滑剤だが、男同士のセックスにはある意味必需品だったからだ。ヒューズが以前の逢瀬で用意した無色のものとは違って毒々しいピンク色のそれは、透明なチューブの中に入っていてさえ淫猥だった。今更ながら自分がどれだけやばい相手に狙われていたかに気付いて震えがくる。 「漸くわかったか?」 ヒューズは軽く溜息を吐いてチューブの蓋を開けた。 「未開封のようだな」 ピッと中の小さなアルミ箔を剥ぐと、にゅるりとピンクのジェルが溢れ出す。 「成分表見た限りじゃ、別にやばいモノは入ってない。丁度いいから使わせて貰おう」 「あっ?!」 ぐいと乱暴に片脚を担ぎ上げられ、ハボックは慌ててヒューズの首にしがみ付いた。たっぷりと掌にジェルを搾り出したヒューズは、躊躇うことなくハボックの蕾にそれを塗りこめ始めた。 「やッ!」 ひやりと冷たいジェルの感触に鳥肌が立った。ぬるぬると敏感な部分を這う指にそっと奥まった蕾の入口をノックされ、反射的にギュッと力を入れてしまう。 「いいから、力抜け。今度はさっきみたいに派手な声出すなよ。ホントに人が来るぞ?」 「 ─── ッ!」 そう言われれば、必死で声を噛むしかない。 「ん、うッ……う、う、くっ…ッ……」 散々舌で嬲られ、揉み解されて綻んだ蕾は滴るほどのジェルで濡れた指をすんなり飲み込んでしまった。だが異物自体には大して慣れているわけではなかったから、挿し込まれた長い指に内部をぐるりと弄られると苦しくて仕方なかった。 「しょ、さっ……くる、しっ……っ」 腹の中から突き上げるような圧迫感に息を詰めて、ハボックはヒューズの首をきつく掻き抱いた。 「まだ一本だぞ? これくらいで音を上げてどうする?」 ジェルのぬめりを借りて我が物顔で内部を掻き回す中指の動きに眉を寄せ、ハボックは苦しげに喘いだ。時折洩れそうになる声にびくんと背を引き攣らせてキュッと唇を噛むが、それもすぐに緩んで切なげな吐息と共に掠れた嗚咽を漏らす破目になる。 「やぁ……っ!……、指、抜いて…っ」 苦痛の声が甘いすすり泣きに変わったのを確かめて、男は指の数を一本、また一本と増やしていった。熱を帯びて吸い付くように指に絡みつき始めた内壁を押し広げるように掻き回し、男の感じる部分を内部から指の腹で強く押し上げる。 「ヒャアア…っ!」 突然湧き上がった強烈な快感に、ハボックはたまらず甘い嬌声を上げて仰け反った。 「……っと、ここか。声、我慢できないようだったら、俺の肩章噛んでろ」 ヒューズはにやりと笑って反応の激しかった部分を執拗に愛撫し始める。ハボックはかわいそうなくらいビクビクと震えながら必死で男の肩口に顔を埋めて声を噛み続けた。 「……んあぁッ……ッ!…ン、ン!」 抗いがたい快感に、若い牡が再び頭を擡げる。苦しげに震えて勃ち上がっていく楔に目を細めると、ヒューズはずるりと指を引き抜いた。 「……ッ……ぁ…っ」 ぜいぜいと粗い息を吐きながら、ハボックはやっとの事でヒューズの背にしがみ付いている。もう抗う気力も無いらしい。ヒューズはそんな部下の頭を優しく撫でて耳元に囁きかけた。 「悪ぃな、ハボック」 「あ……な、に…?」 腰にこもる熱に浮かされてぼんやりと見上げてくる青い瞳にチュッとキスを落すと、男はポケットから今夜の招待状を取り出した。ヒューズはそこから二つ折りのカードと挨拶状を纏めていた細いゴム紐を外すと、先走りの蜜を滴らせるハボックの楔にぐるぐると巻きつけてしまう。それから丁寧に先端の雫を指先で拭って口に含んだ。 「やだッ! 何するンすかっ!」 こんな風に昂りを堰き止められた事など一度も無くて、ハボックは不審そうに自分を覗き込んでくる男を見返した。 「イってすぐに挿れるときついから、ちょっと我慢な? それにこのまんま出されると、服汚れちまうし」 「……っ…少佐ぁ…」 「いいコだ、准尉。力抜いてろ」 冷たいタイル張りの壁に背を押し付けられ、息を詰める間もなく片脚を抱え込まれる。濡れた狭間に押し当てられた熱い凶器の大きさに、彼は身震いした。 「やだ……っ…怖い…ッ」 「怖くねえって。これも俺だ ─── お前を傷付けたりしねえよ」 「………っ。」 柔らかい声音に宥められ、ハボックは震えながらヒューズの背にしがみ付いた。根元で堰き止められた自身が上着の硬い生地に擦れてますます辛くなる。 「ああ、これ噛んどけ。声殺すの楽だから」 「 ─── ッ!!」 丸めたハンカチを口元に押し込まれた瞬間ズッと押し入られ、ハボックは声にならない悲鳴を上げて仰け反った。 「……ッ!…!!!」 苦痛に引き攣る躯に構わず、男は容赦なく身を進めてくる。指とは比べ物にならない大きさの楔に刺し貫かれ、ハボックは苦痛にもがいた。だがどんなに必死に背中を拳で叩いても、こんな不自由な体勢では大したダメージは与えられない。 「そう暴れんな、よけい辛くなるだけだぞ。力抜いて俺に任せろ」 狭い器官をジェルのぬめりを借りてゆっくりと割り開いていく男は、きつい締め付けに時折眉を顰めながらも決して腰を引かなかった。最奥まで収めた自身がきつく熱いハボックの内部に押し包まれる感触に、ヒューズの唇から知らず満足げな溜息が零れ落ちた。 「全部入ったぜ。ああ…お前ん中、狭くてきつくてたまんねえ…っ…」 だが初めてのハボックにしてみれば、それは苦行でしかなかった。 |
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