「partner」




東方司令部副司令官兼国軍大佐であるロイ・マスタングは朝起きて呆然としていた。

否、違う。ロイだけではない。

出張に来ていた中央司令部軍法会議所所属国軍中佐のマース・ヒューズも青ざめていたりする。


「・・・・・・・お、おい。お前さん、ロイだよな?一体、どうなってんだ?こりゃあ・・・・・」

「・・・・・・・お前は、ヒューズか。・・・・・私にもわからん」 何故、ロイとヒューズが呆然としているのか。 何故、ロイとヒューズがお互いに誰かと確認を取るのか。 それには訳がある。 「なんで。俺達ゃ、子供に戻ってんだよーーーー!!」 そう、ロイとヒューズは何故か子供の姿になっているからである。 頭を抱えて叫ぶヒューズにロイは眉間に皺を寄せながら溜息を吐いた。 「ヒューズ。落ち着け」 「ロイくーん。この状態でどうやって落ち着けっつーんだよ!エリシアちゃんに逢えないじゃねぇかっ」 「煩い!燃やされたいのか!」 「うわっ!待て!落ち着け、ロイ!落ち着くから燃やさないでくれっっ」 焦るヒューズに問答無用というばかりに前髪を燃やしてやろうとロイは右手に手袋を嵌めた。 ヒィィィと逃げようとするヒューズにロイは指を慣らそうとした───が・・・・。 ────スカ。 「うわわわわ・・・・・・・・・あれ?」 「そ・・・そんな・・・・」 「どしたの?ロイくん」 ヒューズが不思議がるのも当然だ。 ロイの手袋は子供のロイの手では大きすぎて上手く手袋が嵌められず、しかも指が上手く鳴らせないの だった。 青ざめるロイにヒューズは理由が判り、驚きを通り越して心配になった。 「だ、大丈夫か?ロイ」 「大丈夫じゃない!」 「お、落ち着け。ロイ。と、取り敢えず、リザちゃんに連絡をとろう」 訳もわからず朝起きて自分達は子供になっており、尚かつ錬金術も使用できない。 青ざめ震えるロイをヒューズは宥め、急いで東方司令部にもう出勤しているであろうリザに電話を掛けた のだった。 30分後。 リザは、ハボックを連れてロイの家へとやって来た。 「・・・・・・大佐、中佐。可愛くなっちまいましたね」 「笑うな!ハボ」 「会うなりそれはねぇだろ?ハボック」 なんともまぁ、可愛くなってしまったロイとヒューズに思わずハボックは笑ってしまったのだ。 そんなハボックを横目にリザは溜息を吐き、小さくなったロイ達に向き直った。 「取り敢えず、リビングへ行きましょう。そのままの格好では風邪を引きます」 「ああ。そうだな」 ロイもヒューズもハボックも頷き、先頭を行くリザに着いていった。 何故、ロイ達を中へと促したかというとブカブカのYシャツ1枚だけを着ているからだ。 もう4月だがまだ寒い時期だから風邪を引かれても困るし、玄関内とはいえ誰かに見られても困るから だ。 リザはリビングへ到着するとロイとヒューズをソファへ座るように促すとハボックにブランケットを2枚用意 するように指示するとキッチンへと向かった。取り敢えず暖かい飲み物を用意する為だ。 ハボックが自分の恋人であるロイの家の中からブランケットを持って来るとロイとヒューズに一枚ずつくる むように掛けてやる頃、リザがコーヒー2つとココアを2つ持ってきた。 リザは、ロイとヒューズの前にココアを置くとハボックをロイ達の向かいのソファに座るように促すと隣に 座り自分達の前にコーヒーを置いたのだった。 ロイとヒューズは目の前に置かれたココアを見詰め、そしてリザを見て問いかけた。 「・・・・・・中尉。何故、私とヒューズはココアなんだ?」 「そうだよ〜。リザちゃん。俺もコーヒーの方がいい〜」 「子供にはコーヒーはいけません」 「「・・・・・・」」 キッパリと告げられたリザの言葉に言い返せない情けない二人だった。 そんな情けないロイ達にリザはどうして子供になってしまったのかを問いかけた。 「それがなぁ・・・思い出せないのだよ。中尉」 「俺もわかんねぇんだよなぁ」 「よく思い出して下さい。昨日はお帰りになってからどうしたんですか?」 う〜〜ん・・・と唸りながら腕を組んで考え込むロイとヒューズ。 とても可愛くてハボックは今にも笑いそうだったがロイに睨まれ思わず背筋を伸ばし誤魔化した。 「それで大佐。どうなんスか?思い出しましたか?」 「・・・昨日は、お前も途中まで一緒だったろう?」 「ええ、まぁ」 そうなのだ。ハボックは2人がロイの家に帰ってきてから呼び出され、夕飯というよりもおつまみに近いも のを作り、夜勤の為司令部に出勤したのだった。 「でも、あのつまみに使った材料、変わったもの使いませんでしたよ」 「・・・・じゃぁ、酒・・・か?」 「酒ねぇ・・・」 あらぬ疑いを掛けられまいとハボックはいつも使っている材料だと主張した。 それは、料理をしないロイもわかっており頷く。 あと口にしたものといえば「酒」しかない。 「お酒ですか・・・・・大佐。変わったお酒を誰かに貰いませんでしたか?」 「そういや、聞いた事ない酒が1本あったな」 「お、おい。ロイ。そんな酒を飲ませたのかよ」 「何を言う。ヒューズ。お前が飲もうと言い出したのだろうがっ!」 「そうだっけか?」 「そうだ」 それはどんな酒で誰から貰ったのかをリザはロイに問いただす。 ロイは、また腕を組むとその辺に散らばっている空瓶を見詰めた。 そして、普通の酒瓶よりちょっと変わった形と色の酒瓶を見つけハっと気が付いた。 「ハボック!そこの空瓶もってこい!手みたいな形の群青色の酒瓶だ」 「え?あ、はい!」 まだ声変わりしてないロイのボーイズソプラノで命令されたハボックは、ロイが指さす空き瓶へと何故か 大急ぎで取りに向かった。 その酒瓶を拾ってきたハボックの大きな手から両手で持たないと持てない小さな手のロイと移る。 ロイはその空になった酒瓶を見て頷いた。 「そうだ。この酒瓶だ」 ロイは思い出したのだ。 この酒は、大総統であるブラッドレイから送られて来た物だという事を。 何故送って来たのは疑問に思ったが丁度その頃、大きなテロ組織を潰したのでそのお手柄という事で送 って来たのだろうと思ったのだった。 その事を皆に説明すると思い切り眉を顰めているヒューズが怒って来た。 「んな妖しい物を俺に飲ませたのかよっ!」 「なにを言っている。ヒューズ。お前が面白い形だからと言ってキャビネットから持ち出して来たのだろう」 「持って来た時に説明してくれれば飲まんですんだじゃねーかよ」 「私だって忘れてたんだ」 ロイとヒューズの言い合いにリザもハボックも頭痛を覚え、溜息を吐いたのだった。 next