プロローグ |
薄闇の中、ロイはかすかに身じろぐ。時計は疾うに日付を跨いでいたが眠りは一向に訪れようとはしなかった。遠くで夜の鳥が鳴き、風に揺られて木々が騒めくたび、薄衣に包まれたロイの肩が跳ねる。そんな自分に軽く舌打ちしてロイはブランケットを引き上げた。 今夜も来るのだろうか。美しい男の姿をしたあの魔物は。 一月ほど前から丘の上の古城に住みついた男は金色の髪に明るい空色の瞳で屈託なくロイに話し掛けてきた。太陽のような男だと、普段簡単には他人を迎え入れることのないロイが気が付いた時には傍近くにその存在を赦していた。そうしてあの夜。全てが変わってしまったのだ。 「ハボック?」 こんな夜更けにそんな所にいるはずのない姿にロイは囁くようにその名を呼ぶ。真っ黒な服に逞しい長身を包んだ男のその瞳が禍々しい紅い色に光ったと思ったその瞬間。 まるで滑るように近づいてきた男にその身を抱き締められたロイはその白く滑らかな首筋に甘い痛みを感じる。グッと牙が突き刺さるそこから広がる快感にも似た疼痛。目の前が紅く輝き思考に霞がかかって何が何だか判らなくなっていく。自分を抱き締める男の望むまま甘い悲鳴を上げ続けて、そうして。 薄闇の中、ロイはあの金色を待ち続ける。まるであの光だけがこの夜の闇の中で確かな道標だとでもいうように。そしていつの日かあの魔物が己の属する闇の世界へ共に連れていってくれることを、ロイは願い続けていたのだった。 2008/06/29 |
| → 第一章 |