パワー! その19


 腕の中で真っ赤になって息を潜めているハボックをロイはじっと見つめる。そうすれば困ったように視線をさまよわせていたハボックが伺うようにチラリとロイを見たのと目があった。はにかむように笑みを浮かべるハボックにロイは極上の笑みを浮かべて返す。ゆるゆると曲に合わせて体を揺らしながら、ロイはさりげなくハボックとの距離をつめた。
「あの……中佐…?」
 腰に回るロイの腕に力がこもり、端正な顔が間近に近づいてきたのを感じてハボックが不安そうにロイを呼ぶ。安心させるようににっこりと笑ってロイはハボックの顎に指先を当てた。
「ちゅう、さ……?」
 見上げてくる揺れる空色にゾクゾクする。
(今だッ!!ブチュッといけッ、いくんだーーッ!!)
 心の中で自分に向かって叫ぶとロイはググッと唇を寄せた。
「あ……」
 大きく見開かれた空色の瞳が目の前に大きく広がる。ハボックの甘い吐息が感じられ、その色素の薄い唇にロイのそれが今にも触れようとするその瞬間。
「あら、こんなところでお会いするなんて」
 声が聞こえたと同時にロイは背後から襟首をムズと掴まれる。そのままハボックからベリッと引き剥がされたロイはポイッと後ろに放り投げられた。
「うわッ?!」
「少尉っ?」
 たった今まで間近にあったロイの顔がなくなって現れたホークアイの顔にハボックが驚きの声を上げる。
「えっ、少尉もライブ聞きにきてたんスかっ?」
「ふふ、このバンドのマネージャーをやってる子、私の後輩なの」
 さりげなくハボックを引き寄せながらホークアイは笑った。
「彼女からバンドのリーダーが貴方を誘ったって聞いたから会えるかもと思って」
 先日のラブレター事件でハボックがロイに申し訳ないと思っているのはホークアイも察していた。ライブの誘いをハボックが受けたと聞いたときから危ないと思っていたのだ。
(念のため来ておいて正解だったわ)
 間一髪ハボックの唇を守れた事にホークアイが内心ホッとしていると、背後から恐ろしげな声が聞こえた。
「しょういいぃぃ」
「あら、中佐。踊り過ぎて足にきてしまったんですか?若ぶっていても年には勝てませんわね」
 ホホホと笑ってホークアイはハボックに言う。
「准尉、見ての通り中佐はもうお年だから、次にこういう機会があったら私を誘ってちょうだい」
「あ、はい。オレ、全然気がつかなくて……。中佐、楽しんでらっしゃるとばかり思ってたから……」
「いいのよ、中佐は見栄っ張りだから貴方が気がつかなくて当然だわ」
 しょんぼりと項垂れるハボックの頭をホークアイは優しく撫でる。二人のやりとりを聞いていたロイは目を吊り上げて言った。
「私はまだ29だっ!!ダンスを踊ったくらいで足にくるかッ!!」
 キーッと頭から湯気を上げるロイにホークアイが眉を顰める。
「中佐、無理はいけませんわ。准尉、明日もあるし一刻も早く中佐を休ませてさしあげる為にも早く帰りましょう」
「あっ、はいッ!」
 ホークアイに促すように背を押されてハボックは出口へと歩きだした。
「ちょっと待てッ!!キっ、キスがまだ……ッッ!!」
 ロイを置いてさっさと出ていってしまう二人の姿に、ロイはがっくりと床にヘたり込んだのだった。



2009/11/30


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