パワー! その1


「あれは誰だ?」
 士官学校の視察に来ていたロイは体育館でバスケットボールの試合をしている一団を見て言った。
「どいつですか?」
 案内役の教官が聞くのにあれだ、と言って指差す。ロイが指差した先では背の高い金髪の少年がコートの中を走り回っていた。すらりと伸びた手足、射し込む陽の光を弾いて光る金髪、空色の瞳、ドリブルしながら走る体は綺麗に筋肉がついてしなやかな猫科の獣のようだ。
「ああ、2年のジャン・ハボックですよ。」
「ジャン・ハボック…」
「あの学年のホープでしてね、射撃の腕前も体術も大したものです。まあ、ちょっと態度は悪いですが、それを差し引いても余りあるものがあります」
 ロイは顎に手を当てて、走るハボックを見つめていたが目を細めると言った。
「ちょっと呼んでくれないか、ホープと言うなら激励の一つもしておきたい」
「おお、イシュヴァールの英雄に声をかけて貰ったなら、きっと感激して発奮するに違いありませんよ」
 教官はそう言うとコートの中の生徒達に声をかける。ざわつく生徒達の中からハボックが怪訝そうな顔をしてロイ達に近づいてきた。
「ハボック、こちらはマスタング少佐だ」
「えっ?」
 マスタング少佐なら聞いた事がある。若いのにその力は群を抜いて素晴らしく、そう遠からず将軍になるのは間違いないと言われている男だ。そんな人物に声をかけてもらってハボックは感動と緊張で顔を紅くした。
「なかなかの有望株だそうだな」
「や、そのっ、オレなんてまだまだっス」
「あと2年頑張って、私に力を貸してくれ」
「はっ、はいっっ!頑張りますっ!!」
 たとえ社交辞令だとしても、ハボックはロイにそう言ってもらえて酷く感激していた。仲間達の方へ戻りながらも心臓がばくばく言うのを止められない。ロイはそんなハボックの背を見送ってじっと見つめた。
「少佐、鼻の下が伸びてます。涎も」
 その時、ホークアイの冷ややかな声が聞こえてロイはさり気なく口元を拭う。
「2年後が楽しみだ」
 ロイはそう言うとにんまりと笑ったのだった。


2007/6/17


 その2