| 辿り着くはパナケイアの空 第四十六章 |
| 暫く休むとなんとか体を動かせるようになってくる。オレは軋む体をベッドに起こすと、あらぬところの痛みからなるべく意識を逸らすようにしてベッドから足を下ろした。 「服……」 ベッドの下に放り出された服を手を伸ばして拾う。痛みを堪えてボトムを身につけたオレは、広げたシャツを見て眉を寄せた。 「どうしよう、これ……」 力任せに脱がされたそれは、前の部分が誤魔化しきれないほど無惨に破かれている。着替えなど持っている筈もなく、途方にくれてシャツを見つめるオレの手から大佐がシャツを取り上げた。 「大佐」 「……悪かったな」 シャツを破いた張本人の大佐がほんの少し顔を赤らめて言う。大佐は懐から取り出した紙に手早く錬成陣を書き込むと、シャツをテーブルの上に置きその上に紙を置いた。紙の上に大佐が両手をつけば目映い錬成光が部屋を満たす。光が消えた時には破かれたシャツは元通り、綺麗に直っていた。 「ほら」 大佐は錬成で直したシャツをオレに差し出す。シャツを受け取ったオレは裏に返し表に返して全く破かれた痕のないそれに、感心したようなため息を零した。 「錬金術ってこんな事も出来るんスね」 すっげぇ便利、と言うオレを先に身支度を済ませてしまっていた大佐が見つめる。 「感心するのもいいが、さっさと着ろ」 「あ、はい」 オレは頷いて急いでシャツを着て身支度を整えた。大佐はその間にオレ達が一緒に過ごしたベッドのシーツを剥ぎ取りくしゃくしゃと丸めた。 「それ、どうするんスか?お袋に洗濯頼みます?」 そう尋ねると大佐が呆れたようにオレを見る。その視線の意味するところが判らず首を傾げれば、大佐ががっくりと肩を落とした。 「お前な……こんなものを母親に洗濯してくれと頼む気か?こんな……あからさまにセックスの痕が残るシーツを?」 「え……?あっ!」 言われてオレは初めて気づく。顔を赤らめて大佐を見れば、同じように顔を赤らめた大佐がやれやれとため息をついた。 「じゃあどうするんスか?それ」 「燃やす」 「えっ?!」 返ってきた答えに驚いてオレは大佐を見る。幾ら何でもそれは乱暴だろうと思いながらオレは大佐に言った。 「さっきみたいに錬金術で何とか出来ねぇんスか?」 「錬成し直してシーツの他に別の物質が出てきたらどうするんだ?いたたまれないぞ、私は」 「別の……物質?」 キョトンとしてオレは大佐が持ったシーツを見る。次の瞬間大佐の言わんとしている事を理解してオレは真っ赤になった。 「なんつう事言うんスかッ、大佐のスケベッ!!」 「何を言うッ!このシーツを汚したのは半分以上お前の───」 「ワーッ、言うなッッ!!」 とんでもないことを口にしようとする大佐の言葉を、オレは顔の前で大きく両手を振って遮る。流石に口を噤んだ大佐に、オレは茹で蛸のようになりながら言った。 「燃やしてください、それ」 「……ああ」 大佐は頷いて隠しから発火布を取り出す。パチンと指を鳴らしてあっと言う間にシーツを消し炭にして大佐は言った。 「安心しろ。後で新しいものを送っておくから」 「……お願いします」 母さんに不審がられそうだが仕方ない。ハァと息を吐き出すオレに大佐が手を差し出して言った。 「どうだ?もう歩けそうか?」 「あ……はい、大丈夫っス」 オレは差し出された手を借りて立ち上がりながら答える。走るのは無理だったが歩くくらいなら何とかなりそうだった。 「そうだ、また母さんがお茶を飲みに来てくれって」 「……そうか」 きちんと大佐を紹介して、母さんの淹れてくれるお茶を飲んで、焼きたてのスコーンを食べて。そうしたいのは山々だったけれど今はその時間がない。 「全部終わったらまたゆっくり来ましょう、大佐」 「そうだな」 大佐はオレの言葉に頷いてオレの体を引き寄せる。ゆっくりと確かめるように唇を合わせて、大佐はオレの体を抱き締めた。 「全部終わったら今度はお前の故郷をゆっくり案内してくれ」 「……はい、大佐」 それはオレ達の関係がこれで終わりなのではなく、これからもずっと続いていくと約束しているようで、オレは泣きそうになりながら大佐の体を抱き返した。 「親に一言声をかけなくていいのか?」 駅への道を並んで歩きながら大佐が言う。お茶を飲みに云々はどうでも、何も言わずにイーストシティに戻ってしまう事を気にかけてくれている大佐にオレは笑って答えた。 「駅から電話します。急いで戻らなきゃいけないからって言えば大丈夫っスよ」 「急いで戻らなきゃならん割に時間がかかっているがな」 つい感情に任せて突っ走ってしまったと恥ずかしそうにボヤく大佐を見てオレはクスリと笑う。一刻も早く戻らなければならないのは確かだが、オレ達にあの時間が必要だったのもまた確かだった。 「まあ、今母さんと顔を合わせづらいってのもあるんスけど」 「え?……ああ」 確かにな、と大佐が眉を下げる。たった今セックスした相手と一緒に親の顔を見るのは、向こうがオレ達の関係を知らないとしても流石に気まずかった。 「嫁に貰いましたとも言えんしな」 「ッ、なんスかッ、それ!」 とんでもないことを口にする大佐をオレは睨む。一番最初がオレが大佐を受け入れる形だったからつい今回もそうなってしまったけど、考えてみたらオレが大佐を抱いてもよかったんだとそう口にすれば、大佐が思い切り顔を顰めた。 「冗談だろう」 「えー、なんで?」 「お前の方が可愛いから」 「はあっ?!」 大佐の言葉に目を剥くオレに大佐はクスリと笑ってオレの髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。 「これからが正念場だ。私に力を貸してくれ、ハボック。そして……ずっと側にいて欲しい」 真っ直ぐに見つめてそう言う大佐に。 「はいっ、大佐!」 満面の笑みを浮かべて頷くオレを引き寄せて、大佐がそっと口づけた。 |
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