黒スグリ姫7


「ここの映画館、学生三人割引ってのがあるんスね」
 チケット売場の前、料金表を見上げてハボックが言う。
「だからってヒューズを呼ぶとか言うなよ」
「言わないっスよ!────オレだって先輩と二人がいいし……」
 ジロリと見下ろしてくる黒曜石に声を張り上げたハボックが、頬を染めてボソボソと付け足した言葉にロイは笑みを浮かべた。チケット売場の女性に枚数を告げると、財布を取り出すハボックを押し留めて二枚分の料金を支払った。
「先輩、チケット代!」
「いいよ、デートなんだから私が出す」
「折角お小遣いもらってきたのに」
 ロイの言葉に喜ぶどころかムゥと唇を突き出すハボックの反応を好ましく思って、ロイはハボックの金髪をクシャリとかき混ぜる。見上げてくる空色にキスを落として、ロイはハボックを映画館の中へと促した。
「先輩、ポップコーン買うっしょ?」
「ああ、そうだな」
 休日の映画館はそこそこ混んでいる。二人はロビーを進むとドリンク&フードの看板を掲げたカウンターに並ぶ人の列についた。
「ポップコーンペアセットでいいだろう?」
「えっ?あ、はいっ!それでいいっス!」
 一瞬驚いたような顔をするハボックに尋ねる視線を送ればハボックが答える。
「えっと、オレ、友達と来るときはみんな自分の分って買うから。ペアセットなんて買ったことなくて」
「そうなのか?私は映画に来たらいつもペアセットだな」
 そう答えるロイをハボックは複雑な表情で見た。
(きっといつもは女の子と一緒に来るんだろうな……)
 映画といえばデートの定番だ。ロイはモテるから女の子とデートで映画館に来るなどしょっちゅうだったに違いない。
「塩とキャラメル、どっちがいい?」
 俯きそっとため息をつけば尋ねる声が聞こえて、ハボックは慌ててロイを見る。
「え、えとっ、先輩が好きな方でいいっス」
「お前はどっちが好きなんだ?ハボック」
“お前は”と強調するロイをじっと見上げて、それからハボックは答えた。
「……塩」
「よし、じゃあ塩な」
 言ってにっこりと笑うロイにハボックも笑い返す。
「先輩、オレ、メロンソーダね」
「判った」
 笑って頷くと丁度順番が回ってきたカウンターに歩み寄って注文を伝えるロイの背をハボックはじっと見つめた。
(気にしても仕方ないよね、マスタング先輩がモテるのは判ってることだもん)
 折角の初デートなのだ、つまらぬ嫉妬で台無しにしてしまっては勿体ない。
「ハボック」
「先輩、ありがとうございます!」
 ポップコーンペアセットを乗せたトレイを手にするロイに駆け寄って。
「六番シアターだって。行きましょう、先輩!」
 甘えるように腕にしがみつくハボックだった。


2014/06/04


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