黒スグリ姫23


「わあ、降ってきたっ」
 バラバラと降り注ぐ大粒の雨に悲鳴混じりの声をあげてハボックは近くの店の軒下に飛び込む。あっと言う間に辺りを白く煙らせて降りしきる雨をハボックは目を丸くして見つめた。
「どうしよう、すっごい降ってきちゃった……」
 今朝の天気予報、大気の状態が不安定でところにより雷雨になると気象予報士が言っていた。傘を持って出るようにという予報士のアドバイスを聞いてはいたが大丈夫だろうと決めつけて出かけたのは失敗だったらしい。流石に傘なしではやり過ごせない雨の量にハボックは後悔のため息を零した。
「待ってたらやむのかな」
 局地的な雷雨なら雨雲が過ぎればやむのだろうか。そう考えながらハボックはガラス越し店の時計を見て眉を寄せた。
「サッカー、始まっちゃうじゃん」
 今日はこれから贔屓のサッカーチームの試合の放送がある。雨がやむまで待っていたら放送が始まってしまうかもしれず、ハボックは一瞬迷ったもののキッと口を引き結んで空を睨んだ。
「もう寒くないしっ、ちょっとくらい濡れたって平気!」
 なにより試合を見逃したくはない。ハボックは大きく息を吸うと降りしきる雨の中に飛び出した。
「うひゃあっ」
 途端に激しい雨に打たれてハボックは首を竦める。ちょっとなんて生易しいものではなく、あっと言う間に下着までずぶ濡れになりながらハボックは通りを走った。
「なに、この雨ッ!信じらんないッ!」
 見ていたよりずっと激しい雨の勢いに辟易してハボックは叫ぶ。だが、走り出してしまった手前今更もう一度雨宿りする訳にもいかず、バシャバシャと雨を跳ね上げながら走っていると耳慣れた声が聞こえた。
「ハボックッ?!」
 その声にハボックは足を止めて声のした方を見る。すると傘をさしたロイとヒューズの姿が見えた。
「あ、先輩!」
「なにやってるんだ、お前はっ!」
 目を丸くしてハボックを見ていたロイが声を荒げて駆け寄ってくる。目を吊り上げて傘をさしかけてくるロイを見上げてハボックは言った。
「なにって……家に帰ろうと思って」
「傘は?」
「持ってこなかったっス」
「だったら雨がやむまで雨宿りしていればいいだろうっ」
「えーっ、だってサッカーの試合が始まっちゃうし」
「ハボックッッ!!」
 口を尖らせて言った途端もの凄い勢いで怒鳴られてハボックは目を丸くする。そうすればロイの隣で二人のやりとりを聞いていたヒューズがククッと笑って言った。
「そういや今日は試合の放送があるもんな。のんびり雨宿りしてたら始まっちまう」
「でしょッ!ヒューズ先輩も早く帰らないと始まっちゃうっスよ!」
 だから、と再び走り出そうとすればロイに手首を掴まれ引き留められる。急いでるのにと見上げるとロイは着ていたジャケットを脱いでハボックの肩にかけた。
「風邪を引いたらどうするんだ」
「平気っスよ。もう寒くないしちょっとくらい濡れたって」
 ハボックは言いながら濡れちゃうからとジャケットを脱ごうとする。だが、ロイはジャケットの前をグッと引き寄せて言った。
「いいから着てろ。急ぐなら私のマンションへ来い」
「えっ?いいっスよ。まだ間に合うし」
「いいからッ!マンションの方が近い。ほら」
 そう言って肩を押すロイを迷うように見上げるハボックにヒューズが言った。
「いいんじゃね?実際ロイのマンションの方が近いんだから」
「はあ、じゃあそうしようかな」
「そうしろ。ジャケットはちゃんと着ておけよ、ほらっ、前閉じて!」
 ヒューズの言葉にハボックが頷けばロイがホッとしたように言う。前を閉じろと言われ「寒くないのに」と呟いた途端ジロリと睨まれて、ハボックは慌ててジャケットの前をあわせた。
「行くぞ」
「はあい」
 傘をさしかけてくるロイに促されるままハボックは頷いて、ロイ達と一緒にマンションに向かって歩きだした。


2015/04/24


黒スグリ姫24