黒スグリ姫21


『ヤキモチ妬くなんて、変!』
 自分はヤキモチ妬きなのだと伝えれば、そう言うハボックの事をロイは思い出す。
『だってオレ、先輩が大好きっスもん』
 そう言って抱き抱えたチューリップに負けない鮮やかな笑みを浮かべるハボックの事を思い浮かべてため息をつけば、一緒にランチをとっていたヒューズが言った。
「なんだよ、ため息なんてついて」
「んあ?」
 尋ねられ、ロイはぼーっと思い詰めた顔でヒューズを見る。つき合いの長い男の今までにない表情に、ヒューズはやれやれと肩を竦めた。
「なに、またお姫さまの事か?ホワイトデーはデートしたんだろう?」
「ああ、まあな」
 ロイは頷きながらエビフライをつつく。
「ロキシタンで食事した」
「へぇ、あそこに連れていったのか」
 ロイのお気に入りのレストラン。だが、ロイはこれまでつきあった誰も連れていったことはなかったはずだ。
「あの店はお前が寛ぐための店で誰も連れていかないんじゃなかったのか?」
「ハボックは別だ」
「へー」
 言えば眼鏡の奥の目を細めるヒューズをロイは睨む。
「なんだよ」
「いや、本気なんだなぁと思ってさ」
 これまでのロイの恋愛はまるでちょっとしたアクセサリーのようで、決して長続きすることはなくここ暫くは特定の相手もいなかった。そんなロイが事もあろうに中学生のそれも同性にこれほど本気になるとは、チョコの贈り主を捜す手伝いをした時には全く思いもしなかった事だ。
「本気に決まってるだろう。可愛くて可愛くてどうにかなりそうだ。この間のホワイトデーだって、ほわほわの黄色のセーターですっごく可愛かったんだ」
「ほー、そいつはよかったデスね」
 大真面目にそう言うロイにヒューズはげんなりと言う。この後も惚気が続くのかと思いきやムッと唇を突き出してロイが言った。
「それなのにハボックときたら自分がどれだけ可愛くて魅力的かって事にこれっぽっちも気づいてやしないんだ。一緒に歩いていて私たちに視線が集まるのが私がカッコいいからだと言うんだぞ?」
「まあ、それは間違ってないんじゃねぇの?」
 ロイが人目を惹く存在なのはよく知っている。だが、ロイは思い切り目を吊り上げて言った。
「なにを言う。私よりハボックの方が注目されてたさ。挙げ句の果てには写真を撮らせてくれなんていう輩が現れたんだぞッ」
「それはそれは」
 確かにハボックは可愛いし、アイドル的に写真を撮りたいという人間がいても不思議ではない。
「まあ、いいんじゃねぇ?そんなに可愛い子が恋人と思えば自慢だろ?」
「冗談じゃない」
 そんなにめくじら立てなくてもと言うヒューズにロイは更に目を吊り上げた。
「私以外の誰かの手にハボックを渡せるわけないッ」
「写真だろ?実物じゃないんだから」
「写真だろうが実物だろうが関係ないッ」
「もうとっくに写真とか撮られてんじゃねぇの?今更────って、ロイ君っ?!」
 肩を竦めて言いかけたヒューズは、いきなり椅子を蹴立てて立ち上がったロイに目を丸くする。バンッと目の前に手をつかれて、食器と一緒に椅子の上で跳ね上がってヒューズは目を丸くしてロイを見上げた。
「誰がハボックの写真を持ってるって?」
「え?いやそれはそう言う可能性もあるんじゃないかなーって、いや待て待てッ、ロイ!」
 もの凄い目つきで辺りを見回すロイの腕を掴んでヒューズはロイを座らせる。はーっとため息をついてヒューズは言った。
「お前なぁ、ヤキモチも大概にしないと嫌われるぞ」
「えっ」
 言えば顔色を変えるロイを見てヒューズはニヤリと笑う。
「もう、先輩ってばヤキモチばっかり!オレの事信用してねぇの?そんな先輩、嫌いっス!」
 両手を握り締め、科を作って高い作り声でヒューズが言えば、ロイが思い切り顔をしかめた。
「気色の悪い真似はやめろ」
「だったらつまんないヤキモチ妬くなよ。周りがどうだろうとハボックが好きなのはお前だけだってよく判ってんだろ?」
 そう言われてロイの脳裏にハボックの鮮やかな笑顔が浮かぶ。
『チューリップ、すげぇ嬉しい。先輩、大好き』
 その笑顔に引き寄せられるように、チューリップごとハボックを抱き締めて何度も口づけた。
「判ってるさ……判ってるけど止められない」
「末期だな」
「煩い」
 やれやれとため息をつくヒューズにロイもため息混じりに答える。そんなロイにヒューズはニヤリと笑った。
「いっそ俺がハボックを貰ってやろうか」
「燃やすぞ」
 言えば途端にギロリと睨まれたが、ヒューズはそんなロイの視線も構わず楽しそうに続ける。
「止められないならいっそそう言うのもありだよな。サッカーで誘えばホイホイついてきそうだし」
「おい」
 決して冗談ではすまなそうなことを言い出せばロイが身を乗り出すのを見て、ヒューズはニヤニヤとしながら言った。
「よし、早速誘ってみるか」
「おいっ、ヒューズ」
 言いながらスマートフォンを取り出すヒューズにロイが慌てて手を伸ばす。
「無駄なヤキモチ、無駄でなくしてやるって」
「ふざけるなッ!本気で燃やされたいかッ」
「いや〜ん、暴力振るう先輩キライっ」
「────燃やすッ」
 逃げ出しながらゲラゲラと笑うヒューズと目を吊り上げて追いかけるロイと、無駄に注目を浴びる大学生二人だった。


2015/03/21


黒スグリ姫22