黒スグリ姫18


「はあ……」
 ロイはリビングのソファーにだらしなく座って大きなため息を零す。テーブルの上には今日、ハボックが遅ればせながら作ってくれた黒スグリのジャム入りのチョコがあった。
「参った……」
 ハボックと一緒にいるというヒューズからの電話を受けて、矢も盾もたまらず飛び出してみればヒューズにからかわれただけと判った。その後チョコを作ってくれるというハボックに誘われて彼の自宅へ行き一緒にチョコを作ったのだが。
『好き……ヤキモチ妬きの先輩、大好き』
 そう言ってほわりと笑う空色が堪らなく愛しくて、気がつくと引き寄せて口づけていた。拙いながらも必死に答えてくる少年に愛しさが募って何度も何度も口づければ、やがてくったりと力の抜けた体を預けてくる。とろんと蕩けた空色で見つめられればもうどうにも体の芯が熱くてどうにかなってしまいそうだった。
 つきあいだして一年。会えば会うだけ好きになって、正直どうしてこんなにハボックの事が好きなのかと自分でも不思議に思う。無邪気に笑うあの空色が愛しくて、最近では欲しくて堪らない気持ちを押さえ込むのが必死だった。気がつけば抱き締めてキスしている自分がいて、ハボックが他の誰かに笑いかけるのを見ると嫉妬で気が変になりそうだった。
「こんなに自分が嫉妬深くて独占欲が強いとは思わなかった……」
 これまでつきあった女の子は何人もいた。つきあい始めた時は確かに好きだと思ったし、一緒にいて楽しいとも思った。だが、つきあうにつれ互いの温度差がはっきりとしてきて、結局長続きせずに別れてしまうのが常で、最近はそういう煩わしさが嫌で特定の誰かを作るのはやめてしまっていたのに。
「ハボック……」
 素直で無邪気で明るくて、つきあい始めた頃はただそれが愛しいばかりだった。一緒にいるとほんわりと胸が暖かくなって、それだけで満たされていたのだ。それが最近はそれだけでは足りなくなっている。もっとハボックが欲しい。もっとハボックで満たされたい。もっとハボックを手に入れたい。そんな気持ちを必死に押さえているのに、ハボックときたらロイのそんな気持ちにはこれっぽっちも気づいてはいないようだった。
「ヒューズなんかに懐いてるし」
 ロイは面白くなさそうに呟く。ロイはずるずるとソファーに沈み込むとゴロリと寝転がった。
『他の誰かにとられないよう気をつけな』
 不意にヒューズがニヤついた顔でそう言うのが頭に浮かんで、ロイは頭の中でヒューズのニヤケた顔を思い切り殴る。クッションをギュッと抱き締め天井を見上げた。
「いっそ最後までシてしまえばいいのか……?」
 そうすればハボックが自分以外の誰かといても嫉妬にかられず済むだろうか。
「何言ってるんだ、相手はまだ中学生だぞ」
 そう呟いてから自分の“初めて”はいつだったろうと考える。ハボックの歳にはもう女性の経験があったと思い出して眉を寄せた。
「私はませてたからな……」
 それに比べてハボックはむしろ幼いと言えるだろう。ロイとのキスが初めてのキスだと言っていた。自惚れでなく自分が初恋だろう。それに、もしハボックを抱いたなら、あの無邪気さを壊してしまいそうな気がして、ロイはそれが怖かった。
「くっそぅ……ッ」
 ロイは悶々と思い悩む。手を伸ばしてテーブルの箱を引き寄せ黒スグリジャム入りのチョコを一つ摘んで口に放り込んだ。噛めば口の中に広がる甘さと酸っぱさがハボックを思い起こさせて、ロイは震える吐息を吐いた。
「ハボック……」
『せんぱぁい……』
 キスに蕩けた瞳で見上げてくるハボックの顔が浮かんで、ロイの手が股間に伸びる。ボトムの前を弛め下着の中に手を差し込むとゆっくりと扱き出した。
『マスタングせんぱい……』
『好き……ヤキモチ妬きの先輩、大好き』
 次々と浮かぶハボックの顔。愛しくて可愛くて、大事にしたいと思うと同時に何もかも自分のものにしてしまいたくて。
「く……ぅッ」
 ドクリ、と。愛しい少年への想いが熱い熱になって掌に溢れる。
「……くっそ……ッ」
 ロイは腕で目を覆って、瞼の裏に浮かぶハボックをそっと抱き締めた。


2015/02/24


黒スグリ姫19