黒スグリ姫14


「さっむーい!」
 ピュウと吹き付ける北風にハボックは首を竦める。制服の襟元を手でギュッとかき寄せたが、この北風の前では大した役には立たなかった。
 まだ中学生のハボックは冬でも基本薄着だ。流石に母親が煩いので制服の上着の下にベストを着てはいるが、コートどころかマフラーもつけてはいなかった。
「流石に今日は寒いなぁ」
 友達と一緒にワイワイ騒いでいるときは寒さも気にならないが、一人で歩いていると寒風が身にしみる。首を竦めて歩いていたハボックは、ひらりと目の前を過ぎったものに気づいて視線を空へと向けた。
「雪」
 灰色の空から雪がはらはらと降ってくる。寒い筈だと雪が降ってくる空を足を止めて見上げていれば、背後から呆れたような声が聞こえた。
「何をしてるんだ、お前は」
「あっ、先輩」
 声がした方を振り向くと、ロイが傘を手に立っている。雪が降る中傘もささない薄着のハボックにロイは近づくと傘をさしかけた。
「そんな薄着で風邪をひくぞ」
「大丈夫っスよ。クラスのみんな、こんな格好っスもん」
「中学生はみんな鉄人か?」
 自分だったらとても耐えられないとロイはぶるりと震える。そんなロイにクスリと笑ったハボックがクシャンとくしゃみをするのを見て、ロイが言った。
「ほらみろ、やっぱり寒いんじゃないか」
「でもコートとか邪魔だし」
 学校にコートを着ていっても邪魔なばかりだ。そう言うハボックの襟元を見ればやっぱり寒そうで、ロイはやれやれとため息をつくと自分のマフラーを外してハボックの首元に巻いてやった。
「いいっスよ、先輩が寒いっしょ」
「いいから、私がそうしたいんだよ」
「でも」
「コートがあるから大丈夫だ」
 そう言ってロイはコートの襟を立てて笑う。それを見て、ハボックは素直にロイの好意を受けることにした。だが。
(先輩の匂いがする……)
 つい今し方までロイが身につけていたマフラーからはロイの温もりと共に愛用のコロンの香りがする。まるでロイに抱き締められているような気持ちになって、ハボックは胸がドキドキするのを止められなかった。
(ど、どうしよう……)
 自分でも顔が紅くなっているのが判る。なんだか恥ずかしくて、困り切ったハボックは吸い込んだ息を止めた。
「ハボック?」
 紅い顔でマフラーに顔を埋めるハボックをロイが訝しげに呼ぶ。だが返事が返るどころか苦しげに喉を押さえるハボックに、ロイは驚いて顔を覗き込んだ。
「おい、どうした?大丈夫か?ハボ――――」
「プハッ!」
 尋ねかけて、ロイはいきなり大きく息を吐き出したハボックに目を丸くする。ハアハアと息を弾ませるハボックを眉を寄せて見つめた。
「何をしてるんだ?お前は」
「だっ、だって、このマフラー、先輩の匂いがしてっドキドキしちゃうからっ」
 息を止めていたのだと言うハボックに目を丸くしたロイは、次の瞬間プッと吹き出した。
「お前なぁ」
「だって!」
 真っ赤になるハボックを見て、ロイはクスクスと笑う。むくれてプイと顔を背けるハボックが、ロイは可愛くて仕方なかった。
「ふふ……、私に抱き締められてるみたいでドキドキした?」
「ッ、知らないっス!」
 思ったことを言い当てられて、ハボックは益々顔を紅くする。マフラーを外すとロイに突き返した。
「返す!」
 ハボックはロイの胸元にマフラーを押し付けて足早に歩き出す。そんなハボックにロイは笑みを浮かべて追いかけると背後からふわりとマフラーをかけた。
「いらないって言って――――」
「ハボック」
 ムキになって声を張り上げるハボックをロイはマフラーごと引き寄せる。そうして腕の中に閉じ込めたハボックにそっと口づけた。
「好きだよ、ハボック」
「ッ!」
「お前は?」
 間近から尋ねられてハボックは耳まで真っ赤になる。それでもマフラーに顔を埋めるようにして頷いた。
「好きっス……」
 そう答えれば鮮やかに笑うロイがもう一度唇を寄せてくる。マフラーとロイに抱き締められて口づけを交わせば、もう寒さなどまるで感じなくなるハボックだった。


2015/01/30


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