黒スグリ姫1


 ゆっくりと身を寄せてくるロイにハボックの心臓がドキンと跳ねる。黒曜石の瞳が目の前一杯に広がったと思うと、重なってきた唇の感触にハボックは目を見開いた。
(うそッ!オレ……マスタング先輩とキスしてる!!)
 優しく抱き締められ押しつけられた唇が、今ロイが言ったことが本当だと告げている。そうと思えばキスをしているという現実も相まって、ハボックは心臓が破裂してしまうのではないかと言うほどドキドキした。
(し、信じらんない……オレ、オレ……ッ!)
 唇を重ねられてもどうしたらいいのかなんてさっぱり判らずハボックはロイのシャツを握り締める。そうするうちに唇の隙間からロイの舌が忍び入ってきて、ハボックはギョッとして身を強張らせた。
(べ、べろ入ってきたッッ!!べろチューしてるッ!!わわ……ど、どうしたらいいのッ?!)
 口内に入り込んできたロイの舌が口の中を舐め回す。どうしていいのか判らずにいれば、蠢いていた舌先がハボックのそれにきつく絡んできて、ハボックはドキドキして恥ずかしくてギュッとロイにしがみついた。そうすれば更に深く唇が合わさってくる。飲みきれない唾液が唇の端から零れて、ハボックの首筋を伝ってトレーナーの襟元を濡らした。
(ど、どうしよ……もうどうしたらいいのか判んない……ドキドキして……クラクラする……)
 フッと目の前が暗くなって、ハボックの体から力が抜ける。くったりと凭れかかれば、ロイの力強い腕が細い少年の体を慌てたように支えた。
「ハボック、おい」
 唇が離れてハボックはプハッと息を吐き出す。どうやらクラクラしたのは酸欠になっていたらしい。そんなハボックに、ロイがクスクスと笑った。
「クラクラするっス……」
「バカだな、息をしなきゃダメだろう?」
「息……?あれ、オレ……」
 息継ぎがうまく出来なかったらしい、初心なハボックの様子にロイが笑いを噛み殺して言った。
「鼻で息をするんだ。でなければ角度を変える時、少しだけ唇が離れるだろう?その時に息を吸う」
「なんか難しそう……」
 ロイの説明にハボックは情けなさそうに眉を下げる。そんな初々しいハボックに笑みを浮かべてロイが言った。
「何度かすればすぐ出来るようになるさ……ハボック」
「あ……」
 囁くように呼ぶ低い声に顔を赤らめる少年にロイがもう一度口づける。深く唇を合わせその口内を貪るロイに、ハボックはなんとか答えようと必死に舌を差し出した。
(鼻で息する!鼻で!)
 ロイに言われたことを実践しようとハボックは懸命に鼻で呼吸する。そうすれば鼻の穴がヒクついてしまって、ハボックは慌ててロイを押し返した。
「ダ、ダメッ!鼻の穴が膨らんじゃうッ!!」
 真っ赤な顔でそう叫ぶハボックに、一瞬ポカンとしたロイが次の瞬間爆笑する。あまりに可愛らしいその反応に声を上げて笑うロイを、ハボックは空色の瞳に涙を滲ませて睨んだ。
「そんな笑わなくったっていいじゃないっスか!どうせオレはキス、ヘタクソっスもん!」
 ハボックは赤い顔でそう怒鳴るとプイと顔を背けてしまう。キス一つちゃんと出来ないのが恥ずかしくて悔しくてロイを見られずにいれば、笑いを引っ込めたロイがハボックを優しく抱き締めた。
「ごめん、ごめん。あんまり可愛いからつい……。怒るな、ハボック……こっち向いて?」
 そう耳元に囁やかれてハボックはロイを見る。唇をへの字にして見上げる空色にチュッとキスをしてロイが言った。
「その年でキスが上手かったら困るよ。なあ、ハボック、キスしたのは私が初めてなんだろう?」
 そう聞かれてハボックは一瞬目を見開き、それからおずおずと頷く。そんなハボックを優しく見つめてロイが言った。
「だったらこれから上手になるよう幾らでもキスしてやるから……」
「マスタング先輩……」
「ほら、ハボック……」
 囁いて重なってくる唇を受け止めて、ハボックはそっと目を閉じた。


2014/03/19


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