| 金剛石 9 |
| 「事故で落成式は延期ですか」 「ああ、美術館の中に被害はなかったが、流石にあの状況で落成式をやる訳にはいかんだろう」 美術館前で起きた事故は車を運転していた男性と、到着して美術館の中に入ろうとしていた来賓の一人が巻き込まれて死亡した。落成式は延期となり、ロイはそのまま引き返して司令部に戻ってきたのだった。 「大変でしたね。でも、大佐に怪我がなくてよかったです、亡くなった方には申し訳ないけど」 危うく巻き込まれるところだったのだと聞いたブレダが言う。それに頷きながらロイは主のいない机に視線をやった。 事故で騒然とする現場からハボックは、事故の様子を確認をしようとするロイを半ば強引に引きずるようにして司令部に戻ってしまった。もっともあの時点でロイに出来ることはなかったからハボックの判断に間違いはなかったものの、帰りの車の中で不満を口にするロイに対しハボックは一言も口をきかなかった。そうしてロイを司令室に送り届けると自分は何も言わずにどこかへ姿を消してしまったのだった。 「今度の事故は自分があそこにいたせいだと思っているのか?」 ロイは誰もいない席を見つめたままそう口にする。主語のない問いかけの意味を間違う事なく理解して、ブレダは答えた。 「そうだと思います」 「実際のところどうなんだ?少尉は士官学校の時からのつきあいなんだろう?」 ロイは視線をブレダに移して尋ねる。噂などあてにならないものだろうと言うロイにブレダは首を竦めて答えた。 「そうですね、確かにアイツの周りで事故やら事件やらが頻発してたのは確かです。でも、それがアイツの瞳のせいだなんてどうして言えるんです?俺はそうは思わないですね」 ある意味ハボックに好意的とも言える言葉にロイは僅かに目を瞠る。挑むように見つめてくるブレダを面白そうに見返してロイは言った。 「士官学校からのつきあいで、少尉は身に危険を感じたりした事はなかったのか?」 「んー、どうなんでしょう」 聞かれてブレダは首を傾げる。 「単に鈍感だっただけなのかもしれませんね」 「なるほど」 ニヤリと笑って言うブレダにロイもまた唇の端を上げて笑った。 「悪い奴じゃないんです。むしろとても純粋で真っ直ぐなんだと思います。ただ、俺もよくは知らないんですが色々あったみたいで」 そう言って空の席を見るブレダにつられてロイもまた視線を向ける。そこに座る背の高い姿が見えるとでも言うように見つめながら、ロイはハボックの事をもっと知りたいと思った。 2011/02/16 |
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