金剛石 7


 ガチャリとアパートの鍵を開けてハボックは中へと入る。真っ直ぐにキッチンに向かうと冷蔵庫の中からビールを取り出し、リビング兼ダイニングの小さなソファーにドサリと腰を下ろした。
 ロイの指揮の下テロリスト掃討作戦は予定より早く、人的被害も殆どなく決着した。途中テロリストの一人が爆弾を爆破させはしたもののロイの咄嗟の錬金術で事なきを得、かえってロイの能力の高さを示す結果とさえなった。そんな中。
『大佐っ』
 一瞬見失ったロイのオーラに思わずその姿を探してしまった。怪我がないと判って安堵した己を意外そうに見つめる黒い瞳に気づいて慌ててその場を離れたものの、その後ロイから向けられた視線を思えばその時の己の行動に腹が立つしかない。
「くそ……ッ」
 ハボックは手にしたビールを呷ってそう呟く。ビールを持つ手と反対の手でクシャリと髪を掻き回して、ハボックはその手に顔を埋めた。
「あんな目で見るから……ッ」
 特務から司令室に異動して以来、己に向けられるロイの視線がハボックの心をざわつかせる。もうずっと誰かに心を動かされる事などなかったし、これからもそれは変わらないと思っていただけに、その事実はハボックを酷く動揺させた。
「…………」
 顔を埋めた手のひらの中でハボックは目を見開く。その視線は見ている筈の己の手のひらも、指の間から見える己の脚もその先にある部屋の床も見てはいなかった。ハボックの蒼い瞳が見ていたのは。
 優しく笑う二人の男女。そしてその更に奥に別の二人の男と女に手を取られて歩く己の姿。
「……ッ!!」
 ハボックは浮かぶ姿を消し去ろうとするかのようにギュッと目を閉じる。いつの間にか浅く忙しなくなっていた呼吸をハボックは必死に押さえ込んだ。
 プシュッと音がしてハボックは目を開ける。いつの間にか強く握り締めていた手の中で缶が潰れ、残っていたビールが手を濡らしていた。ハボックは無表情でビールに濡れた手を見つめていたが、やがて立ち上がると潰れた缶をゴミ箱に放り込み浴室に向かう。手を洗おうとしてハボックは鏡に映る己の瞳をじっと見つめた。
 蒼い、見るものを引きずり込まずにはいられない底知れぬ蒼い瞳。
 ハボックは己を見つめ返してくる蒼い瞳をガンッと思い切り拳で殴った。
「平気だ、オレは、もう」
 ハボックはそう呟いて水道を捻ると、流れる水の下に頭を突っ込む。金色の髪を色濃く変えて流れてくる水に顔を濡らして、ハボックはそっと目を閉じた。


2011/02/11



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