金剛石 3


 カッカッと靴の音を響かせハボックは大股に廊下を歩いていく。角を曲がった先にある休憩所に入れば、ソファーにのんびりと座って談笑していた男たちが慌てて立ち上がった。
「おい、そろそろ行こうぜ」
「ああ……あの書類、どうしたっけな」
 男達はとってつけたような言葉を口々に言いながらそそくさと休憩所を出ていく。ハボックは目を眇めて男達を見送るとフンと鼻を鳴らしてソファーにドサリと腰を下ろした。
 ああやってあからさまな態度をとられるのにももう慣れた。用事もないのにハボックに話しかけてくるのは士官学校時代から腐れ縁の太った男くらいなもので、それすらハボックが極力避けている現状では一日中ろくに口をきかない事も珍しくなかった。
 ハボックは懐から煙草を取り出し火を点ける。吸い込んだ煙をプハァと吐き出しソファーに背を預けて天井を見上げた。
(なに考えてるんだ、あの人)
 ハボックは天井に出来た染みを見つめながらそう思う。ハボックの脳裏には真っ直ぐに見つめてくる黒曜石の瞳が浮かんでいた。あんな風に自分を見つめてくる人間に会うのはどれだけぶりだろう。蒼い瞳に込められた呪いから逃れようとするように、誰もがハボックの瞳から目を逸らした。それが普通だったからあんな風に見つめられると戸惑ってしまう。
『戻す気はない』
 まるで閉じ込めるように特務という特殊な部署に追いやられていた自分を手元に引き取ったばかりか、人の忠告も聞き入れず戻す気はないと言う。
(オレの目が紅くなるのも見たのに)
 ハボックの白い顔の中で蒼い瞳が紅く染まるのを見た者はこれまで例外もなくその禍々しさに畏れをなしたものだ。
『後悔などするものか』
 そう言いきった時のロイの瞳を思い出してハボックは咥えた煙草をギリと噛み潰した。
「オレはちゃんと忠告したんだ、後になって後悔したって知るもんか」
 ハボックは吐き捨てるようにそう呟き、頭を振って脳裏に浮かんだロイの瞳を追い出す。そのままの勢いでソファーから立ち上がるとハボックは逃げ出すようにその場を後にした。


2011/02/01



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