金剛石 29


「な、に……言って……」
 今まで何度かこの蒼を綺麗だというロイの言葉はきいていたものの、今度はなにを言い出すのかとハボックは呆然として呟く。突然のことに思考がついていかずただ目を見開いてロイを見つめるハボックの前に、ロイは膝をつくとその頬に手を伸ばした。
「聞こえなかったのなら何度でも言おう。私はお前が好きなんだ。だからここにいる」
 そっと頬に触れればハボックがピクリと震える。漸くロイの言葉がハボックの大脳に達しその意味を成した時、ハボックはロイの手を思い切り振り払って怒鳴った。
「馬鹿言うなッ!!」
「ハボック!」
「なんでそんな事……ッ、今すぐ取り消せッッ!!」
 ロイから少しでも離れようとするかのように壁に背を押しつけてハボックは怒鳴る。大きく見開いた蒼を真っ直ぐに見つめてロイは言った。
「取り消さない。お前に初めて会ったあの時から私はお前が好きだった。その綺麗な蒼を手に入れたくて、私一人のものにしたくて───」
「やめろッッ!!」
 ハボックは悲鳴のような声を上げると膝を抱えて蹲る。顔を膝に擦り付けるようにして嫌々と首を振るハボックの肩に手をのせてロイは言った。
「お前のその瞳が好きだ。初めて見たその瞬間に囚われてしまった。私を馬鹿だと罵りながら、私に身の安全に心を砕いていてくれたろう?私を守ろうとしてくれたろう?その優しい心根が好きだ。私はお前が好きなんだ、ハボック」
 優しく言い聞かせるようにロイは言う。ハボックの金色の髪を優しく撫でてロイは続けた。
「顔を上げてくれ、ハボック。お前の瞳を見せて」
 囁くロイに、だがハボックは顔を膝に押しつけるばかりで上げようとしない。焦れたロイが苛立ちの滲んだため息を零して更に言い募ろうとした時、くぐもった声が聞こえた。
「オレの事を好きだって言ってくれるなら、もうこれ以上オレに構わんで下さい」
「ハボック」
「オレをどっか遠くにやって。それが無理ならアンタの焔でオレの目、焼いて下さい」
「ッ?!そんな事が出来る訳ないだろうっ!!」
 その瞳に惹かれていると告げたのを聞いていた筈なのにそんな事を言い出すハボックに、ロイはカッとなって声を荒げる。なんとかその顔を見ようとハボックの肩に置いた手に力を入れるが、ハボックは頑として顔を上げようとしなかった。
「ハボック!!」
「アンタが好きっス」
 顔を上げないままハボックがポツリと零した言葉にロイは目を瞠る。ハボックは膝に顔を埋めたまま、小さな声で続けた。
「士官学校に来たアンタを初めて見た時からアンタはオレの憧れだった。いつかアンタの下で働けたらいいって思ったこともあったけど……でも、そんなの無理だ」
「どうして?どうしてそう決めつけるんだ、ハボック!」
 淡々と紡がれる言葉を聞きながら、ロイはハボックの表情が見えないことに苛ついて声を荒げる。ハボックの顔を見ようと、乱暴に金髪を鷲掴んでグイとハボック頭を上げた。
「ハボック」
 顔を上げさせたもののその目が堅く閉ざされていることにロイは僅かに失望する。それでも目を閉じたハボックの顔をじっと見つめていれば、ハボックが口を開いた。
「あのね、大佐、オレのこの目は本当に呪われてるんスよ。偶然でも気のせいでもない。これまでもオレの周りで色んな人が傷ついたり、酷い時は命を落としたりした。オレのこの目のせいでアンタになんかあったら、オレはもう耐えられないっス。だから、オレを好きだと言ってくれるんなら……オレの事は捨て置いて下さい」
 静かにそう告げるハボックをロイは目を見開いて見つめた。


2011/05/26


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