金剛石 30


「判ったらさっさと出てって下さい。んで、アンタのオトモダチが言うとおりオレを特務に戻して下さい」
 ハボックはロイの返事がないのを自分が言った事への了承だと判断して言う。自分の金髪に載せられたロイの手をそっと外させると、その手の甲をぽんぽんと叩いた。
「さよなら、大佐。迷惑かけてすんませんでした」
 目を閉じたままハボックはそう言うとロイの手を離す。そうしてロイが出ていくのを待った。だが。
「勝手に一人で完結するな」
 怒気の籠ったロイの声にハボックはハッとして顔を上げる。思わず開きそうになる目をキュッと閉じてハボックは不安そうにロイを呼んだ。
「大佐?」
 一刻も早くここを出ていって欲しいのにロイはなにをぐずぐずしているのだろう。早く自分との繋がりを断ち切って欲しいのにと、自ら望んで閉ざした視界の中ロイがなにをしているのか判らず、焦りを滲ませながらハボックは必死にロイの様子を探った。
「大佐、早くここから出て───」
「嫌だ」
「大佐っ」
 短い拒絶の言葉に、ハボックはギョッとして腰を浮かす。目を瞑ったまま手を伸ばせばロイがハボックの腕を掴んだ。
「目を開けろ、ハボック」
「ッ?!」
「目を開けるんだ」
「……嫌っス」
「開けろッッ!!」
 ビリビリと空気を震わせてロイが怒鳴る。掴まれた腕からロイの怒りがなだれ込んで来るようで、ハボックは弾かれたように目を開けた。
「ハボック」
 言って真っ直ぐに見つめてくる黒曜石からハボックは目を逸らせない。こうして目を合わせている瞬間にもロイの身の上に不幸を招いてしまうのではと怖れ、浅い呼吸を繰り返すハボックにロイは言った。
「私はお前の瞳に呪いが宿ってるなんて信じない。だが、お前がどうしてもそうだと言い張るなら、私がそんなものは打ち消してやる」
「た、い……」
「それでも駄目なら一緒に呪われてやる。私のこの真っ黒な瞳も、不吉だのなんだの散々言われた事もあるしな」
 ロイはそう言ってハボックの目元に手を伸ばす。一瞬たりと目を逸らさずに見つめてくる黒曜石を見返して、ハボックは小さく首を振った。
「駄目っス……駄目だ、そんなの」
「ハボック」
「アンタ、ほんとに死んじまう。両親も……オレを引き取ってくれた二度目の両親も、みんな死んじゃったんスよ?オレのこの目がこんなになったせいで、みんな死んじまった!オレだけが残されて……オレこそが死んじまえばよかったのに!」
「ハボック!」
 くしゃくしゃと顔を歪めて叫ぶハボックの腕を掴む手にロイはギュッと力を込める。ハボックは腕を掴む手に込められたロイの想いに怯えたように言った。
「怖いんスよ……アンタにまで何かあったらと思うと……怖くて、オレは……ッ」
 吐き出すように想いを告げるハボックにロイは目を細める。ロイはハボックの金色の頭を胸に抱き寄せて言った。
「私なら大丈夫だ、私を誰だと思ってる、焔の錬金術師、ロイ・マスタングだぞ。私が呪いなんぞに負ける筈がない」
 ロイは傲慢とも見える笑みを浮かべて続ける。
「約束する、お前を決して一人にしたりしない。もし、私が呪いとやらに負ける事が万が一あったとしても、その時はお前も連れていこう。昏い淵に墜ちるのなら、その時は二人諸ともだ」
 そう言ってロイはハボックの顔を覗き込んだ。大きく見開いた蒼い瞳が不安と共に微かな希望を宿しているのを見て、ロイは告げる。
「愛してる、ハボック。どこまでも一緒だ」
 言って笑う黒曜石にハボックはギュッと目を閉じる。それから開いた瞳でロイを見つめて言った。
「後悔する事になるかもっスよ?」
「何度言えば判るんだ?後悔などしないと言っただろう」
 きっぱりと告げるロイにハボックはクスリと笑う。浮かべた笑みを消し去るとロイに向かって言った。
「ホント、馬鹿っスね、アンタ」
「今更だな」
 ニッと笑って答えるロイが真っ直ぐに見つめれば蒼い瞳が見返してくる。そうして互いに腕を伸ばすと、二人はそっと唇を重ねていった。
(完)


2011/05/27


カプリング別続き「続・金剛石(ハボロイ)」「続・金剛石(ロイハボ)」(R20)無料配布は終了いたしました。