| 金剛石 25 |
| チッチッと壁の時計が時間の経過を告げる。どれほど時計の針が回ろうと堅く閉ざされたきり開く気配のない手術室の扉に、ロイは膝の上の手を握り締めた。 「大佐、手」 唐突にかかった声にロイは手を睨みつけていた顔を上げる。そうすればロイと同じように焦燥と疲労を滲ませた顔でブレダがロイを見ていた。 「手当て、してなかったでしょう。俺がここにいますから手当てして貰ってきて下さい」 「大した怪我じゃない」 だがロイは吐き捨てるようにそう答えると再び顔を俯けてしまう。そんなロイにブレダは小さくため息をつくと、立ち上がって病院のスタッフを呼びにいった。少ししてブレダが治療器具を持った看護士を連れてくる。手を見せるよう言われて、ロイは一瞬不満そうに看護士を見たが何も言わずに手を差し出した。 「筋や血管に問題はないですね」 「だから最初から対した怪我じゃないと言ってる」 傷の具合を見て言う看護士にロイはぶっきらぼうに答える。それでも大人しく手当てされるままになっていたロイは、手術室の扉を睨みつけて言った。 「まだ終わらないのか?」 「デリケートな手術ですから」 ロイの問いかけの意味を間違わずに受け止めて答えながら看護士は包帯の端を止める。 「もう少しお待ち下さい」 看護士は傷の具合と注意事項を告げると最後にそう言って立ち去った。 「大した事なくてよかったですね」 「だから最初からそうだと───」 「ハボの為にもですよ」 そう言うブレダの言葉にロイは一瞬目を瞠り、それからフイと顔を背ける。 「呪いなんて存在しないのだから当たり前だ」 「それでも、大佐が手を包帯でぐるぐる巻きにしてたらハボが心配します」 言われてロイは顔を僅かに歪めて手術室の扉を睨みつけた。 『これでもうアンタに呪いが届く事もないっスから、だから』 『安心して』 ロイの脳裏にハボックが呟いた言葉が蘇る。どこかホッとしたような笑みを浮かべた血に濡れた白い顔。 「さっさと出てこい、ハボック。一発ぶん殴ってやる」 ロイは呻くように言うと包帯を巻いた拳を握り締めた。 ガチャリと音がして手術室の扉が開く。弾かれたように立ち上がったロイとブレダの前に現れた医師は二人を見回して言った。 「医療錬成を行ったのはどなたです?」 「私だ」 もしや余計な事をしてしまったのかと焦りを滲ませるロイに医師は笑みを浮かべて頷く。 「いい判断でした。あれがなければどうなっていたか」 医師の言葉に目を見開くロイの隣でブレダが声を弾ませて言った。 「それじゃあ、ハボの目は」 「大丈夫です。ちゃんと見えるようになります」 「やったッ!大佐っ、やりましたよッ!!」 太鼓判を押す医師にブレダが拳を握り締めて叫ぶ。ポカンとするロイと狂喜乱舞するブレダに頷いて医師が立ち去ると、手術室からストレッチャーに乗せられたハボックが出てきた。 「ハボ!」 「まだ麻酔が効いてますから」 慌てて駆け寄るブレダにスタッフが言う。そのままガラガラと病室へと向かうスタッフについていこうとして、ブレダは未だにぼんやりと立っているロイに気づいた。 「大佐?大丈夫ですか?」 その腕をグイと引けばロイがビクリと震えてブレダを見る。パチパチと数度瞬いたと思うと、ハアアと肺の中の空気を全部吐き出すようなため息をついた。 「大丈夫だ。見えると聞いたら気が抜けた」 「一発ぶん殴ってやるとか言ってたのに」 額を押さえて軽く頭を振るロイにおかしそうにブレダが言えば黒曜石の瞳がジロリと睨んでくる。ブレダは慌てて表情を引き締めるとホークアイに連絡を入れてくると言って立ち去った。 「見える、のか……よかった……ッ」 あの蒼い宝石が失われずに済んだことを、ロイは誰にともなく感謝してハボックが運ばれた病室へと向かった。 2011/05/21 |
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