金剛石 24


「ハボックッッ!!」
 ブレダの悲鳴が上がるのとロイの指から迸った焔がナイフを吹き飛ばすのと、どちらが早かったのだろう。ハボックの手から離れたナイフが空に向かって銀色の弧を描くのを追うように、鮮やかな赤が風に吹き飛ばされて青い空に舞った。
「ハボックッッ!!」
「ハボッッ!!」
 顔の上半分を片手で押さえて蹲るハボックの側にロイとブレダが駆け寄る。ハボックの肩をグイと押してその顔を覗き込んだロイは、押さえた手の下から流れる紅い血の筋を見て顔を歪めた。
「……なんて事を……ッッ!!」
 呻くように言うロイの声を聞いてハボックがうっすらと笑みを浮かべる。
「これでもうアンタに呪いが届く事もないっスから、だから」
 安心して。
 呟くように言ったのを最後にハボックはそのまま気を失ってしまった。


「ハボック!!」
 ぐったりと倒れ込んでくる体を抱きとめてロイは叫ぶ。隠しから白いハンカチを取り出すと発火布を毟り取り指先に噛みついて皮膚を破った。溢れてくる血でハンカチに錬成陣を描きハボックの目の上に広げる。両手を当てればパシンと金色の輝きが風を裂いて走った。
「ブレダ少尉ッ!!」
 突然のことに目を見開き凍り付いているブレダを見てロイは怒鳴る。その声にハッと弾かれて、ブレダがロイを見た。
「目、治したんですかっ?」
「医療錬成は専門外だ、応急処置をしたにすぎん。ハボックを病院へ運ぶぞッ、急げッッ!!」
「は、はいッ!!」
 答えるブレダとロイは両脇から抱え込むようにしてハボックの体を担ぎ上げる。屋上の扉を抜け一つ下の階まで降りると、ロイは通りかかった兵士にホークアイを呼ぶように言った。
「大佐っ!」
 ハボックを支えて歩く間にホークアイがやってくる。ハボックの顔を濡らす血の筋に一瞬目を瞠ったものの、ホークアイは深くは追求せずにロイの言葉を待った。
「ハボックを病院へ運ぶ。車の用意と、あらかじめ受け入れ先の病院へ連絡を」
「判りました」
 頷いてホークアイはロイ達をおいて駆けていく。ロイとブレダが下まで降りたときには正面玄関につけた車の前にホークアイが立って二人を待っていた。
「イーストシティ中央病院に連絡を入れました。準備をして待っています」
「ありがとう、中尉」
 必要事項だけを簡潔に伝えるホークアイにロイは頷いてハボックを抱えて後部座席に乗り込む。運転席に飛び込んだブレダが勢いよくアクセルを踏み込むのへロイが言った。
「急いで、だがなるべく揺らすな」
「判ってますって!」
 ロイの言葉にブレダはスピードは緩めないまま丁寧に車を走らせる。ほどなくして病院の前に車を滑り込ませれば、病院のスタッフが待ち構えていた。
「早く、こちらへ!」
「急いで頼むッ!」
 ハボックを乗せたストレッチャーがガラガラと病院の廊下を走り抜け手術室へと消える。バンと閉まった扉がロイ達とハボックを隔てた。
「大佐……ハボの奴、大丈夫でしょうか」
「大丈夫でなければ絶対に赦さん……ッ」
 黒曜石の瞳に怒りの焔を燃え上がらせて、ロイは呻くように言うと手術室の向かいのベンチにドサリと腰を下ろした。


2011/05/19


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