| 金剛石 23 |
| ゆっくりと階段を上がりきったハボックは屋上に続く扉を開ける。風の圧力で重い扉に体重を預けるようにして開けた扉から外へと出ればビョオッと風が吹き付けてきた。 「ッッ」 強い風に蒼い目を細めたハボックは一瞬止めた足を再び動かして屋上に出る。吹き抜ける強い風がテールスカートをバタバタと音を立ててなびかせた。ハボックは屋上の中程まで進むと足を止める。空を見上げれば強い風に白い雲が千々にちぎれて吹き飛んでいった。 『ロイッッ!!』 『大佐ッッ!!』 皆が心配して駆け寄る先で跪くロイの姿。その手に流れる紅い血を思い出してハボックはギュッと目を閉じた。 (もう、限界だ) ロイの側から離れなければと思う一方、この人なら自分を救ってくれるかもしれないと思った。誰にも心を傾けることなど自分には一生ありはしないと諦めながら、心の天秤がロイへと傾くのを止められなかった。もう自分は何ものにも縛られていないと、もう大丈夫なのだと思いこんでいただけで、本当はあの時から身も心も縛られたままこれっぽっちも大丈夫などではなかったのだと、そう気づかせたロイが赦せないと思うと同時に縋りつきたかった。 混乱する想いの中、それでもせめてロイだけは守ろうとそう決めたものの結局そんなものは烏滸がましい願いでしかなかったのだ。このままロイの側に居続ければ最後はロイの身の上に不幸を招くことになるだろう。この呪われた蒼がある限り。 (大佐から離れなくちゃ) どんなに言ってもロイが自分を特務に戻す気がなく、自分にロイを守る力もないと言うなら後はロイからこの蒼を遠ざけるしかない。ハボックがそう思って見上げた空から視線を足下に落とした時、屋上の扉から今一番聞きたくない声が聞こえた。 「ハボック!!」 最後の望みをかけて屋上の扉を押し開けば、吹き荒れる風にテールスカートを翻して立つ長身が目に飛び込んでくる。空を見上げていた蒼い瞳が地上に下ろされ、ゆっくりとこちらを見つめるのを見たロイはホッと安堵のため息を零した。 「ハボック」 ロイは呼んでハボックへと近づこうとする。だが、その足は「来るなッッ!!」と叫んだハボックの声にその歩みを止めた。 「オレに近づかんで下さい」 「ハボック?!」 屋上の中央に立ち尽くしたままそう言うハボックにロイは目を見開く。後から屋上に足を踏み入れたブレダがハボックに向かって言った。 「ハボ、大佐なら大丈夫だ。大した怪我じゃなかったし何も心配することなんて───」 「そんなの、いつまで続くか判んないだろ?」 ブレダの言葉を遮ってハボックが言う。びゅうびょうと風が吹き荒れる屋上で、数メートルの距離を置いたまま対峙する二人に向かってハボックは続けた。 「ブレダならよく知ってる筈だ。オレが居る限りこの瞳は周囲に呪いをまき散らす」 「ハボック、それはッ!」 「大佐」 ハボックの言葉を慌てて否定しようとするブレダの声をハボックの声が押さえ込む。口を噤むブレダをチラリと見たハボックはロイを見て言った。 「アンタのオトモダチの言う通りっスよ。どうしてオレはここにいるんだろう、誰もオレの存在なんて望んじゃいないのに」 「ハボック、それは違うッ!!少なくとも私はお前の事を───」 「もっと早くこうすりゃよかったんだ」 泣き笑いのような表情を浮かべたハボックの手にいつの間にか握られた一振りのナイフ。ハッとしたロイが発火布をはめた指を打ち鳴らすのとほぼ同時に、ハボックが手にしたナイフをその蒼い瞳へと向けた。 2011/05/17 |
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