金剛石 21


「ロイッッ!!」
「大佐ッッ!!」
 ワッと一瞬にして騒然となった司令室のヒューズ達が、執務室の中で跪くロイに駆け寄る。ロイは頭の上に翳していた腕を下ろして立ち上がった。
「大丈夫だ、大したことはない」
「見せてみろッ、……手、怪我してるじゃないかッ!」
 翳していた方の手を濡らす血を見てヒューズが声を張り上げる。ロイは右手の表を見、裏を返して見ると肩を竦めた。
「かすり傷だ」
「なに言ってる、もしガラスの欠片が腱や血管を切っていたら……」
 ゾッと背筋を震わせてそう言ったヒューズが身を強張らせるのを見て、ロイは眉を寄せる。不思議そうに名を呼んだロイの声が聞こえていないかのようにヒューズは背後を振り向くと、執務室の扉のところに立っているハボックを見た。
「お前のせいだ……」
「ッッ?!」
「どうしてお前はここにいるんだッ?!誰もお前の存在など望んじゃいない!!とっとと出てい──」
「ヒューズッッ!!」
 罵る言葉をロイの怒声が遮る。それ以上ヒューズが何か言うのを押さえるようにヒューズの腕を掴んだロイは、ハボックへと視線を移した。
「ハボック」
 真っ青な瞳を大きく見開いたハボックの顔はまるで小さな子供のように寄る辺なく見えた。そのあまりの切なさにロイが息を飲んだその隙に、ハボックは身を翻して飛び出していってしまう。それを慌てて追いかけようとしたロイの腕をヒューズが掴んだ。
「ハボ──ッ、離せ、ヒューズ!!」
「放っておけ、ロイ!もうこれ以上アイツに関わるなッ!!アイツの瞳はその名通り、呪われてるん──、ッッ!!」
 ヒューズは言いかけた言葉を最後まで言い切ることのないまま床に倒れ込む。殴られた頬を押さえて見上げれば、ロイがその全身に怒気の焔をまとってヒューズを睨みつけていた。
「それ以上言ったら例えお前でも燃やしてやる」
「ロ───」
 低い地を這うような声にヒューズは息を飲む。何も言えずにロイを見つめるヒューズを睨んだロイは、目を見開いて事態を見守っていたブレダに向かって言った。
「ハボックを追え、早く!」
「判りましたッ」
「大佐、手当を───」
「構うなッ!」
 言われるや否やブレダが飛び出していき、傷ついた手を心配してフュリーが言うのにロイは手を振り払うようにして怒鳴りつける。床に座り込むヒューズを見、周りを取り囲む部下達を見回してロイは言った。
「何もかもハボックのせいにして、それで満足か?窓ガラスが割れたのは単なる突風のせいだろう?ホールの天井が崩れたのも、美術館の入口に車が突っ込んだのも、単なる事故に過ぎない。これまでアイツの周りで起きた事を全てありもしない呪いのせいにして、一体何のつもりだっ?ふざけるなッッ!!」
 怒りに満ちたロイの声に空気がビリビリと震える。ヒューズですら返す言葉を失くす中、ロイは血の滲む手を握り締めるとハボックを追って司令室を飛び出した。


2011/05/12


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