金剛石 22


「ハボック!!」
 司令室を飛び出したロイはハボックの姿を探して建物の中を駆け抜ける。何事かと驚いて壁に身を寄せる軍人や事務官を突き飛ばすようにして駆け回りながら、ロイは大声でハボックを呼び続けた。
「ハボック!どこだッ?!」
 人一人捜すには司令部は広過ぎる。もし外へでも行かれたら判らなくなってしまうとロイが焦り始めた時、背後からブレダの声が聞こえた。
「大佐!」
「ブレダ少尉!ハボックはいたか?!」
 駆け寄ってくるブレダにロイは尋ねる。ブレダは首を振りながら答えた。
「いいえ、ただ、すぐに部下達を建物の出入口に立たせましたから少なくとも司令部の中にいるはずです」
「そうか」
 素早い部下の対応にロイは半ばホッとしながら頷く。手分けして司令部の中を探し回って、再度ロイと顔を合わせたブレダが言った。
「後は屋上ぐらいですね、大佐、行ってみましたか?」
「いや、まだだ」
 ロイは答えて屋上へと続く階段を見やる。すぐさま歩き出すロイに続いて階段を上りながらブレダは言った。
「大佐、ハボックの奴、どうなるんでしょう」
「どうもこうもなりようがない。何一つハボックのせいである事なんてありはしないんだから」
「大佐」
 きっぱりと言い切るロイにブレダは黙り込む。それから考えるように一歩一歩上る階段を見つめながら言った。
「どうしてみんな呪いだなんて言うんでしょう」
「臆病だからだ」
 そう言うロイの横顔をブレダは見つめる。ロイは真っ直ぐに階段が続く先を睨みつけながら言った。
「本当は手を伸ばしたいくせに拒絶されるのが怖いんだ。あの蒼に見つめられて己の本性を暴かれるのが怖いんだよ。でも、他人の手に渡るのが赦せなくてそれならハボックから全てを遠ざけてしまえばいいとくだらない噂を流す。何もかも弱くて強欲な人間のしたことだ」
 そう言いきるロイをブレダはじっと見つめる。それから囁くような声で尋ねた。
「大佐は怖いと思ったことはないんですか?もしかしたら噂は本当で呪いは存在するのかもしれないって」
 そう尋ねるブレダをロイは足を止めて見る。ブレダはロイの視線を受け止めて続けた。
「俺は士官学校でアイツと出会ってからつかず離れず、言うなれば適当な距離をおいてアイツとつき合ってきました。あの噂が本当のワケないと思う一方で噂を打ち消す為に力を貸すでもなかった。偶然が続いて重なった事故と心ない噂にアイツが傷ついて心を閉ざしていくのを、ただ黙って見てただけです。噂なんて信じないと言いながら一番噂を怖れていたのは俺なのかもしれない」
「ブレダ少尉」
「なんて、今更言っても遅いんですけどね」
 クッと自嘲気味に笑うブレダにロイは言った。
「遅すぎるなんて事はない。少なくとも少尉がそう思っている限りはまだ間に合う」
「大佐」
 そう言うロイをブレダは泣きそうな顔で見る。そんなブレダにロイはニヤリと笑って言った。
「とにかくまずハボックを捕まえるのが先決だ。悩むのはその後でいい」
「……そうですね」
 ロイの言葉にニッと笑って頷いて、ブレダはロイと一緒に屋上へと階段を上がっていった。


2011/05/14


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