金剛石 2


「失礼します」
 ガチャリという音と共に扉が開いてハボックが執務室に入ってくる。ロイは険しい表情でハボックを見上げて言った。
「呼ばれた理由は判っているだろう、ハボック」
 ロイがそう言えばハボックが眉を跳ね上げる。
「判らないっスね」
 と、肩を竦めて言うハボックにロイはカッとなって上げそうになった怒鳴り声を何とか飲み込んだ。
「どうして作戦通りに動かなかった?」
 その代わり低く押さえた声で尋ねる。
「最終的に上手くいったからいいようなものの、もし上手くいかなかったら───」
「上手くいくって判ってたっスから」
 ロイの言葉を遮ってハボックは言った。僅かに見開くロイの瞳を見つめたまま続ける。
「あの作戦よりよっぽど上手くいくって判ってた。実際上手くいったっしょ?」
「それは結果論だ。お前の勝手な行動のおかげで隊員達がどれほど迷惑を受けたと思ってるんだ?」
「臨機応変に対処出来ないのは単に能力がないからだと思うっスけど」
 サラリとそう言ってのけるハボックをロイは睨みつけた。
「私の部下は皆優秀だ」
「大佐の認識が間違ってない事を祈りますよ」
 見下すようにため息混じりに言う態度に腹が立つ。それでもロイは怒りを抑えて言った。
「とにかくこれからはちゃんと作戦通りに───」
「無理っス。オレはオレが一番いいと思った手段で動きます」
「ハボックっ!!」
 ダンッと机を思い切り叩いてロイが立ち上がる。ロイに対して斜(はす)に構えて立っているハボックにロイは声を荒げた。
「ハボック、ちゃんとこっちを見ろッ」
「……眩しいんスよ」
 ハボックは言って目元に手を翳しながらロイを見る。確かに冬の低い陽射しがロイの背後の窓から射し込んで、ハボックの長身を照らしていた。
「──ッ」
 ロイは思い切り舌打ちして背後の窓にシャッとブラインドを下ろす。そうしてハボックに向き直ったロイはギクリとして身を強張らせた。
 ハボックの蒼い双眸が紅く輝いている。食い入るように見つめてくるロイの様子からその理由に気づいて、ハボックは薄く笑った。
「オレの目、紅くなってんでしょ?長いこと陽の光浴びてその後暗いとこ行くと目の色が紅くなるんスよ」
「……何故?」
「さあ」
 ハボックは大して気にした風もなく肩を竦める。ロイが見つめていればハボックの瞳は徐々に赤みをなくし、いつもの蒼色に戻った。
「呪われてるせいかもしれないっスね」
 人を飲み込む深い蒼の瞳でハボックが言う。
「大佐、オレを特務に戻した方がいいっスよ。噂は聞いてるんでしょ?」
「……戻す気はない」
 ロイの答えにハボックが意外そうに目を瞠った。
「後悔してからじゃ遅いんスよ?」
「後悔などするものか」
 そう言うロイをハボックはじっと見つめていたが、不意にズイと近づいてロイの顔を間近に覗き込む。
「折角忠告してあげたのに」
 それだけ言うとハボックは踵(きびす)を返して執務室を出ていった。
 間近に見つめた魔性の蒼の輝きに囚われたように、ロイはハボックを引き留めるどころか身動きする事も出来なかった。


2011/01/30



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