| 金剛石 18 |
| 「あれ?お前……」 滅多に人が立ち寄らない司令部内の一角にある部屋に足を踏み入れれば、中にいた男たちが振り向いて目を瞠る。なにも言わずに中へと入ってくるハボックに男の一人が言った。 「久しぶりだな、なんの用だ?」 「こっちに帰ってくることになった」 そう言ってかつて己のロッカーだった場所へ歩み寄るハボックに男が首を傾げる。 「出戻り?聞いてねぇぞ」 「え?」 男の言葉に驚いたように振り向くハボックを見て男は繰り返した。 「特務にお前が戻ってくるなんて話は聞いてねぇ。なあ?」 男はそう言って同僚たちに同意を求める。そうすれば各(おのおの)頷く男たちにハボックは目を見開いた。 「そんな馬鹿なこと……」 「別に俺たちはお前が戻ってこようがくるまいが気にしねぇけど、ちゃんと確かめてから来いよ」 そう言う男をハボックはじっと見つめていたが、不意に足音も荒く部屋を飛び出していく。廊下を駆け抜け階段を駆け上がり目指す司令室に飛び込めば、中にいたブレダが驚いて顔を上げた。 「ハボっ?お前、どこに行ってたんだ?朝から顔を出さないから寝込んだりしてるんじゃないかって───」 「大佐は?」 「大佐なら執務室に、……って、ハボック?!」 訳が判らないと声を上げるブレダをそのままにハボックは大股で司令室を横切り執務室の扉に手をかける。ノックもせずに乱暴にあけた扉からハボックは中に入ると、机に向かうロイに大声を張り上げた。 「どういうことっスかッ?!」 「ハボック?」 突然の事にロイは書類から顔を上げると目を丸くしてハボックを見る。キョトンとしたその顔にハボックは苛々して言った。 「どうしてオレの異動命令が出てないんスか?」 「異動命令?」 鸚鵡返しに返される言葉がまるで自分をからかっているように聞こえて、ハボックは執務室の中へ足を進めるとバンッとロイが書類を広げている机に手をつく。 「どうしてオレを特務へ異動させないんだって言ってるんスよ」 低く唸るように言うハボックをロイは驚いたように見つめていたが、開け放たれたままの扉へ目をやって言った。 「扉を閉めてこい、ハボック」 「オレの質問に───」 「返事はそれからだ」 ピシャリと言われてハボックはグッと口を噤むとロイを睨みつける。それでもロイがそれ以上なにも言わないのを見て、ツカツカと扉に歩み寄り叩きつけるように扉を閉めた。そのままの勢いでロイの元に戻ってくるとハボックは座るロイを見下ろす。怒りに燃え上がった蒼い瞳の苛烈さにロイはうっとりと目を細めた。 「それで?なんだって、ハボック」 意志の弱い人間ならその瞳に纏わる噂と相まって、強烈なハボックの瞳に顔も上げられなくなってしまうだろう。だが、まるで夢見るような瞳で自分を見つめながら言うロイに、ハボックは内心困惑しながらも答えた。 「どうしてオレを特務に戻さないんスか?」 「特務に?どうしてそんな事をする必要がある?」 ハボックの言葉にロイは心底判らないと言う表情で答える。そんなロイにハボックは一瞬大きく目を見開いた。それからくしゃりと顔を歪めたと思うと、ロイを馬鹿にしたような目つきで見つめた。 「相当な馬鹿っスね、アンタ」 「そうかな」 「軍内部で流れてる噂、聞いてんでしょ?」 そう言って見つめてくる蒼い瞳をロイはじっと見つめ返す。 「“ホープダイヤを箱から出した馬鹿のせいで事故が起こった”?……くだらんな」 「な……ッ?!」 「私はお前を手放す気はないよ。前にも言ったろう?」 その言葉に絶句するハボックをロイは愛しそうに見つめて続けた。 「優秀な部下をみすみす手放す理由がどこにある?それにハボック、私はお前の瞳が美しいと思う、心の底から美しいと。だから───」 「黙れッッ!!」 うっとりと紡がれる言葉を悲鳴のようなハボックの声が遮る。その勢いに口を噤むロイをハボックは冷たく見つめて言った。 「散々忠告してやったのに。アンタなんか死んじまえばいい、ロイ・マスタング」 吐き捨てるように言うと、ハボックはロイに背を向け足音も荒く執務室を出ていった。 2011/05/03 |
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