| 金剛石 17 |
| 「三日前の点検の時には全く異常は見られなかったそうです」 「異常が見られなかっただと?見落としていただけじゃないのか?」 執務室の椅子に行儀悪く斜めに腰掛けて、ロイは不機嫌そうに机に頬杖をつく。その目に苛立ちを滲ませて、ロイは机の前に立つホークアイに視線をやった。 「関係者全員にもう一度詳しく話をきいてくれ。テロの可能性も含めて徹底的に調べるように」 「判りました」 頷いてホークアイは執務室から出ていこうとする。その背に向けてロイは思い出したように尋ねた。 「ハボックはどうした?」 「さあ……朝、席にいるのは見ましたけれど。探しに行かせましょうか?」 「……いや、今はいい」 一瞬迷ったロイが首を振るのを見て、ホークアイはそのまま執務室を出ていく。扉がパタンと軽い音と共に閉まると、ロイはそっとため息をついた。 「また呪いだのなんだのとくだらんことを言う奴が出てくるんだろう」 ホールの天井が突然崩れるという大事故は、幸いにも一人の死者も出さずに済んだ。大事故とはいえ世間的にはただの事故として認識されるであろうこれを、恐らくはまことしやかに噂する奴らが軍内部に現れるに違いなかった。 『あの事故はホープダイヤの呪いだ』 と。 「ハボック」 そう名を口にすればあの時ホールの中で自分を見つめてきた蒼い瞳が思い出される。蒼い蒼い一対の宝石。 「ふざけるな、あれが呪いなんかなもんか」 あの美しさを呪いだというなら、世の全ての美しいものは呪われていることになってしまう。ロイはくだらない噂を口にする奴らを許せないと思うと同時に、なによりその噂に囚われているのはハボック自身だと思った。 『オレを特務に戻してください』 『後悔する事になるっスよ』 何度もそう繰り返したハボックの真意はどこにあるのだろう。 ロイはなによりもそれを知りたいと思いながらそっと目を閉じた。 ハボックは撃ち尽くした弾丸のマガジンを抜き出し新しいものを装填する。的に向けて構えると続けざまに的の中心を撃ち抜いた。 「…………」 蒼く深い瞳でハボックは的を睨みつける。まるで的を撃ち抜いたのが銃の弾丸などではなくて彼の蒼い瞳から放たれた呪いであるかのように。 ハボックは弾の切れた銃を暫くの間構えたままでいたが、不意に浮かんだ幻影を手にした銃で振り払う。浮かんだ幻影がステージに倒れるロイの幻と重なり、ハボックは蒼い瞳を片手で覆って唇を噛み締めた。 ホールの天井が崩れ落ちた昨日の事故。だが、ハボックはそれが事故とは思えなかった。スピーチをする為に壇上にロイが立った途端、まるで狙ったように天井が崩れて落ちてきた。あの一瞬前、自分はどこを見ていた? (オレが大佐に目を向けた途端、天井が落ちてきた) ここに落とせと己の視線が導いたようにロイめがけて落ちてきたとハボックは思う。かつてその身の上に同じように不幸を呼び寄せてしまった人の背中を思い起こして、ハボックはギュッと目を閉じた。 (だからオレを特務に戻せと言ったんだ) だが、これでもうロイも流石に目が覚めたろう。すぐにもハボックを特務へ戻す人事が行われるに違いないと、ハボックはどこか安心したように深いため息を零した。 2011/05/01 |
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