| 金剛石 14 |
| 「隊長、こちらのチェック、全て完了しました」 「ご苦労、ブレダの方どうなったか聞いてきてくれ」 担当区域の不審物のチェックを済ませたと報告にきた部下に頷いたハボックは、残り半分を受け持つブレダ隊の状況確認をするよう指示する。部下が答えて行動を起こすより先に、のんびりとした声がハボックの耳に届いた。 「こっちもオッケーだぜ、ハボ」 「ブレダ」 ご苦労さんとハボックの部下に手を挙げて頷けば部下は敬礼して立ち去る。ホールの警備計画用の図面を広げているハボックの側に近づきながらブレダが言った。 「こんだけチェックすりゃ十分だろう?」 「絶対なんてもんはあり得ないって事はブレダだって知ってんだろ」 ブレダの言葉にハボックはそう答える。無表情に図面にマークされたポイントをチェックするハボックの横顔をブレダはじっと見つめた。 ロイがハボックを手放す気がないと告げたあの日からハボックは変わった。途中、二人だけの方がいいだろうと気を遣って席を外したブレダには二人が交わした会話の詳しい内容こそ判らなかったが、その後ロイから聞いた言葉から話の内容はおおよそ見当がついた。ハボックの表面だけを見ている者からすればハボックの変化は大きなものではなく気づくほどのものではなかったし、たとえ気づいた者がいたとしてもそれは恐らくハボックが彼につきまとう恐ろしい噂を裏打ちするような冷徹な変化としか捉えられなかっただろう。だが。 「蟻の入る隙間もねぇな」 ブレダはハボックの横顔を見つめて言う。ハボックは図面から顔を上げるとブレダへと空色の視線を向けた。 「そんなに大佐の身が心配か?」 「護衛対象の安全を守るために最善を尽くすのは護衛官として当然だろう?」 ブレダの言葉にハボックは相変わらずの無表情で答える。それはまるで隙あらばハボックとハボックを取り巻く人々に怖ろしい死の刃を振り下ろそうと待ちかまえている運命に、自分が少しでもロイの身の上を案じていることを知られまいと恐れているかのようにブレダには思えた。 「先に戻ってくれていいぜ。オレは見落としがないか一回り見てから戻る。オレの部下達にもそう伝えてくれ」 ハボックは手にした図面を折り畳みながらそう言うとブレダの返事を待たずに部屋を出ていく。ブレダはパタンと扉が閉まる音と同時に深いため息をついた。 初めて士官学校で出会ったばかりの頃のハボックはなんとか自分を取り巻く運命を変えようとしていた。だが、結局はハボックの笑みが皮肉なものに変わっていくのを自分はただ見ていることしか出来なかったとブレダは思う。彼を取り巻く噂を信じてなどはいなかったがそれを変えてやる手助けも出来なかった。今、初めて噂や運命を恐れないロイという存在に出会ってハボックはどうなるのだろう。 ブレダは緩く頭を振ると司令部に戻るべくその場を後にした。 2011/04/09 |
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